旅立ちのための原点回帰――葡萄畑『最果てからのSalida』 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

先週、5月27日(金)に東京・青山「月見ル君想フ」で開催された葡萄畑の久しぶりのライブ『最果てからのSalida』。葡萄畑のライブは2020年11月27日(金)に同じく、東京・青山「月見ル君想フ」で開催された青木和義の古希を祝うイベント『青ちゃんの未完成人生狂騒曲』以来か。ちなみにライブに冠された“Salida”はスペイン語で、“旅立ち”という意味らしい。そういえば、『SALIDA』 という求人情報誌もかつてあった。

 

ライブには間に合ず、行くことはできなかったが、後日、配信で見ることができた。葡萄畑に関してはこのところ、“皆勤賞”とまではいかないものの、ほぼ漏れなく見ているつもりだ。

 

 

薄暗いステージに手にランプを持った青木和義(Vo、Mand)率いるBanda Planetario(バンダ・プラネタリオ)のメンバーが登場。彼らがこの葡萄畑の新しい“旅立ち”の狼煙を上げる。葡萄畑の登場を前のめり気味に待ちわび、緊張している観客(客席は映っていないので想像!)をアーコスティックなインストゥルメンタルバンドがいい意味で、揉み解す。30分ほどの演奏ながら、“掴みはOK!”というところだろう。

 

 

薄暗いステージの後方には荒海を行く船団という今回のライブのキービジュアルが浮かび上がり、不穏な波の音が流れ、寂寥感を伴う雷鳴が轟く。そして同じくランプを持った葡萄畑のメンバーが登場する。実際、会場でどのように見えたか、分からないが、そのイントロダクションはまるで映画のようだった。

 

彼らは優美なタンゴのリズムに乗り、狂おしい恋愛模様を描く「お嬢さん、お手やわらかに」を歌い出す。一瞬にして、葡萄畑の世界へ誘う。その手技は鮮やか、流石、葡萄畑だ。同曲を歌い終えると、本間芳伸(G)がいきなり“創業49年、葡萄畑。でも実働8年。あとの41年は霧の中でございます。この8年と言っても、ここ数年ですけど、コロナのお陰で、実働2年。70年代に6年、足す2年。もう一度、言います。創業49年、実働8年の葡萄畑でございます”と自嘲気味に紹介する。軽快な「ねぢれ男」が披露される。諧謔と屈折の歌は葡萄畑そのものを物語る。

 

そして、甘美な名曲「メキシカン・ハネムーン」で、聞くものを蕩けさす。巷のシティポップファンも必聴の逸品。ルパート・ホームズやオーケストラ・ルナなどに反応する方は既にお聞き及びかもしれないが、“モダンロック”と“シティポップ”(当時はシティミュージック、もしくはAORというところか)の危険な野合を多くに方に聞いていただきたい。

 

同曲を契機に“モダンロック一直線”かと思いきや、ここで一捻り、二捻りがある。世の中はスパークスのドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』や“原案・音楽:スパークス”というレオス・カラックスのファンタジーロックムービー『アネット』が大盛り上がり(『シン・ウルトラマン』ほどではないが、いまだかつてないくらい取り上げられている!)。“スパークスブーム”(!?)に乗り、眩いばかりの音の乱舞、煌めくテクノでいくかと思ったら、バンプラの吉井功(G)と秋久ともみ(Vn)を加え、「ピエロのワルツ」を披露する。モダンロックとは対極のアーシーでノスタルジックなサウンドを聞かせる。彼らの後を受け、バンプラにも参加したGliderの栗田将治(G)が加わり、「チャイルド演歌」が歌われる。そのムーディーなコーラスはコーラスグループも驚く完璧ぶり。甘く切ない歌詞とリコーダーの甘い調べが小学生気分を盛り上げる。ちょっと、キンクス風味もある。

 

そして、本間は小坂忠が亡くなったことを告げる。小坂は先日、2022年4月29日、長い闘病生活(音楽活動も並行して行っていた)の末、逝去した。享年73である。青木は葡萄畑のSNSに彼について、綴っている。訃報を聞き、青木は“小坂忠&葡萄畑北海道ツアーの事を思い出した”という。“1974年12月、ハードな行程のツアーだった”そうだ。さらに“そのコンサート・ツアーから東京に戻りほどなくして、池袋シアターグリーンでの「ホーボーズ・コンサート」に出演した。忠さんのバックバンドとしての活動は、すでに1年近くになっていた。始めたばかりの頃は、フォージョーハーフ後継と言うプレッシャーに押し潰されながらも、葡萄畑らしさを追求する毎日だった。年が明けた1975年の1月26日。小坂忠&葡萄畑は、テレビ神奈川(TVK)のライブ番組『ヤング・インパルス』に出演した。この時のセットリストは、「ホーボーズ・コンサート」の時と同じに、2月に発売される(小坂忠の)アルバム『ほうろう』の中から、「ゆうがたラヴ」、「機関車」、「ほうろう」の3曲も含めて演奏した。なお、この時の映像は、残念ながらTVKでは保存してないそうで、当然、ライブ音源も存在しない。でも、実は私はテレビの前にマイクを立て、オープン・テープで録音していた。当然関係ない雑音も混じるけど、意外とシッカリ録音されている。 「ホーボーズ」よりもっとロックしているのが嬉しい。僕たちのサウンドはこれだ。門外不出の音源ではあるけれど、葡萄畑メンバーの愛聴音源となっている。”と続く。長い引用になったが、創業時の葡萄畑にとって、小坂忠がいかに重要な存在だったかがわかる。

 

葡萄畑は小坂忠のバッキングを1年半ほど、していた。人のバッキングなどは初めて、どうしていいか、わからず、苦しんでいたが、小坂は彼らにきつくあたることなく、優しく手品やHな話(!?)で、慰めてくれたという。

 

“その頃の歌を演奏します”と、紹介して、演奏したのが「ぐるぐる」というナンバーだった。マンドリンとギターの絡み、リズムパターンなどは、ザ・バンドそのものだが、ある種、当時の時代の産物とでもいうべきものだろう。青木と栗田の歌の掛け合いもレヴォン・ヘルムやリチャード・マニエル(もしくはリック・ダンコ?)の絡みを彷彿させる。

 

初期の歌に続き、今度は新曲が披露される。これもモダンロックというより、カントリーロック。アーシーでノスタルジックな音を纏っている。「最果てのエレジー」という曲である。“Salida”(旅立ち)をテーマに“閉塞状況から抜け出す”(いうまでもなく、この世界の状況のこと)という意味を込めたものらしいが、青木にとっては原点回帰の作品でもあるそうだ。静かな曲調ながら、その歌からは彼らの心意気と気合いを感じさせるのだ。

 

続いて、創業5年前後、1976年頃に西田佐知子に提供したナンバーの原曲「シルバ―スクリーン」(西田佐知子のアルバムには歌詞を小平なおみが書き直し、タイトルを「ミッドナイト・レイン」に変更して、収録されている)を披露する。モダンな装いながら、どこか、往年の歌謡曲を彷彿させる。

 

 

同曲を終えると、本間は観客へ“後2曲と”告げる(ネタバレ?)。青木は“今回は何もしない、生演奏、人力に拘り、創業年に戻った感じ”と続けた。「宇宙の真理」と「わたしは女」を畳みかける。彼れららしい軽妙で諧謔味溢れるナンバー。曲の構造そのものは変わらないが、いつもと少し違って聞こえる。アナログに拘り、シンプルな音になっている。音数は多いものの、過剰になることはない。本来であれば、ロキシーやスパークス由来のグラマラスなコーディネイトが相応しいのかもしれないが、今回に限って言えば、どこかしら抑制され、静謐な佇まいになる。

 

同曲を歌い終えると、メンバーはステージから消える。そして拍手に導かれ、秋久と吉井、栗田がステージに戻って来る。青木だけ、お色直し(!?)のため、遅れるという。

 

青木は観客へ“アンコールに答えまして、1曲目(ここでもネタバレ?)は、バンプラの原点”という「魔法のランプ」を披露する。ジャンゴ・ラインハルトを彷彿させる、スウィングするナンバーだ。

 

 

そして、アンコールの2曲目(笑)はバンプラ形態で、葡萄畑の初期の名曲「そんな日の午後には」が披露される。マンドリンやギター、バイオリンはノスタルジックな風情がありつつ、今風のアメリカーナな装いもある。過去と現在が繋がっていく。

 

 

バンプラのメンバーの紹介に続いて、葡萄畑の若いメンバー、山岡恭子(Kb)、石村順(B)、そして老齢メンバーの河合誠一マイケル(Dr)、本間芳伸(G)を呼び出し、最後の曲となる。最後の曲は葡萄畑の隠れた名曲「サテライト・ラブ」 (2000年年にリリースしたサード・アルバム『King Of Recreation』に収録)を披露する。隠れるにはもったいないラブバラードの傑作。この曲も音の煌びやかさや構成のギミックなどではなく、歌や曲の良さをそのまま提示する。切ない歌声やむせび泣くギターなど、ネイキッドな葡萄畑の魅力が満載。捻りはないが、素直にその世界に身を委ねれば、夢心地である。

 

 

 

葡萄畑といえば、“日本のロック黎明期70年代に活躍した、伝説のモダンロック系バンド。74年にカントリーロック系アルバム『葡萄畑』、76年にモダンロック系『Slow Motion』と、明らかに人格の違う2枚のアルバムを発表。ともに名盤としての評価が高い”という惹句が有名だが、この日に限って言えば、小坂忠との関りを彷彿させるカントリーロックの名盤『葡萄畑』が立ち上がる。

 

繰り返しになるが、青木は葡萄畑のSNSで、“忘れ難き素晴らしき日々。忠さんありがとうございました。感謝の言葉しかありません。安らかにおやすみ下さい。また会いましょう。”と感謝を綴っている。何か、この日のライブは偶然か、必然か、小坂忠に捧げられているような気する。何度も書くが、この日の葡萄畑はいつもと違う。閉塞された状況から旅立つにはモダンに拘り、新しい試みや手段も必要かもしれないが、しかし、彼らは原点回帰することに拘った。クラシカルはベーシックに通じる。自らのルーツをリブートする“旅支度”は胸を熱くし、心を躍らす。痛快さはないが、爽快さが奥底に残る。次はどんな葡萄畑が現れるか、わからないが、創業49年は伊達でない。実働8年は忘れるとして、来年、2023年は創業50年になる。気の遠くなるような時間の流れだが、いまだに葡萄畑につきあえる、これは悪くないことだ。

 

 

2022.06.24.Fri 青山 月見ル君想フ |※振替公演【観覧+配信】スタジオディグ presents "DIG THE MOON"

Glider huenica 青木和義&葡萄畑RevolutionZ ※+ゲスト有り

 

https://www.moonromantic.com/post/220624

 

 

 

 

 

 

 

 

 

45th ANNIVERSARY 葡萄畑BOX RETROSPECTIVE<限定盤>

日本のロック黎明期1970年代に活躍した、伝説のモダンロック系バンド、葡萄畑。ファースト・アルバム『葡萄畑』(1974年発売)、セカンド・アルバム『Slow Motion』(1976年発売)、サード・アルバム『King Of Recreation』(2000年発売)の3枚のオリジナルアルバムに当時のライブテイクや、レアトラックをボーナスディスクとして収録した4枚組ボックス企画。