寒月の曳航moonriders live THE COLD MOON | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

とてつもない、1か月遅れのクリスマスプレゼントだった。クリスマス時期の恵比寿である。お洒落くそ野郎の巣窟なんかには足を踏み入れたくない。当時、東京都の感染者数は100人を切るなど、激減していたが、油断もできなかった。きっと配信があるだろうと思っていたら、年が明けて配信が公開された。生配信ではなく、同時に編集も加えたはずだが、むしろ、作り物の方が彼ららしいのではないだろうか。

 

 

昨2021年に45周年を迎えたmoonridersが12月25日(土)、26日(日)、東京・恵比寿 「The Garden Hall」でクリスマス・ライブ「moonriders live THE COLD MOON」を開催した。25日の終演後、ステージでは記者会見が開かれている。レコード会社の移籍に関しては“渡り鳥”の異名もあるmoonriders。会見ではキャリア12社目(所説あり!)となる、日本コロムビアへの移籍を発表。同時に同社から11年ぶりのオリジナル・アルバムをリリースすることが明かされる。また、レコ発記念ライブを3月13日(日)に東京・日比谷野外大音楽堂での開催も発表された。moonridersは35周年の2011年に無期限活動休止を宣言。その後、“活動休止の休止”を繰り返してきたが、この日は鈴木慶一から”一生バンド宣言”も飛び出したという。既にSNSなどではその模様は歓喜を持って受けとめられた。日比谷野音に併せての新作のリリースはメンバーの体調不良のため、延期になってしまったが、延期や中止は慣れたもの。気長に待つしかないだろう。

 

 

配信されたのは記者発表の翌日、12月26日(日)のライブ。セットリストに多少の違いはあるものの、ベーシックは同じものらしい。メンバーは2日目ということでリラックスして臨めたらしいが、この辺の用意周到さもいまや、すっかり大人の彼ららしいところ(鈴木慶一や武川雅寛、岡田徹などは既に70超え、そんな彼らに大人なったなどというのは見当違いかもしれないが、いい意味で大人げなく、きかんぼうなのがmoonridersである)。

 

クリスマスライブのメンバーは、鈴木慶一(Vo、G)、岡田徹(Kb、Cho)、武川雅寛(Vo、Violin、Trumpet、vocoder!)、鈴木博文(B、Vo)、白井良明(G、Vo)、夏秋文尚(Dr、Cho)という、ここ数年の不動のラインナップ。健康不安が伝えられた岡田や武川も補助が必要だが、元気にステージに現れる。彼らにスカートの澤部渡(G、Vo)とカメラ=万年筆の佐藤優介(Kb、Vo)という若き精鋭たちがサポートを務める。

 

 

勢揃いの絵面に胸熱くなるが、いきなりの武川の好き勝手に話し出す、自由奔放な暴走老人ぶりに圧倒される(笑)。そんな武川をいなし、さり気なく無視する鈴木博文の対応が天晴。武川が長々と話し始めるが、博文は我関せず、次の曲と告げ、1985年の名盤『ANIMAL INDEX』の珠玉の名曲「駅は今、朝の中」のフレーズを弾きだし、歌い出す。また、武川から一回もしゃべってないからふーちゃん、話してと話を振られつつも、今回も無視(!?)して、これまた、名曲「ボクハナク」(1986年『DON'T TRUST OVER THIRTY』収録)を歌い出す(この武川からみ博文の「駅は今、朝の中」と「ボクハナク」、配信で見ている方の中にはヘヴィーローテションしている方も多いのではないだろうか!)。そして、鈴木慶一の白井の歌を聞きたいでしょうと言う、「白井」呼ばわりに「何だ、白井とは。何だ、鈴木」と突っ込む、白井良明も意気軒高。博文と良明というmoonridersの青年部(!?)が慶一、武川、岡田というmoomriders老人部(!?)に喝を入れる。先の「駅は今、朝の中」や「ボクハナク」、「トンピクレンッ子」 (1982年『青空百景』収録)など、その破壊力はすさましく、ぐたぐた(!?)を一気に解消。会場の空気を牽引していく。

 

鈴木は“現在10年ぶりのmooonridersの録音で、一番大きいのはかしぶち(哲郎)くんの曲がないこと”だと言う。“それは寂しいことではある”と続け、そのかしぶちの曲を鈴木と澤部で歌うことを告げる。『最後の晩餐』(1991年)に収録された、かしぶちらしい名曲「プラトーの日々 」であるmoonridersのロマンティシズムを象徴する同曲は、鈴木から澤部へ歌い繋がれることで、その更新をさりげなく成し得る。同曲に限らず、歌いまわしのところに澤部の声が予め、そこにあるかのように嵌まるのだ。

 

 

聞きどころ、見どころは数多、ある。「VIDEO BOY」 (1979年『MODERN MUSIC』収録)から「いとこ同士」(1978年『NOUVELLES VAGUES』)への流れで、白井が「いとこ同士」の次の曲を「鬼火」と告げるも同曲はフェイクで、実際は「HAPPY LIFE 」(1996年『Bizarre Music For You』)が演奏される。おそらく、当時なら「鬼火」への流れが鉄板のはずだが、そこをずらすところなど、ゆとりの表れと言うか、いい意味でわがままな2021年モードのセットリストに彼らの気概を感じる。流石である。一筋縄でいかない彼らの面目躍如だろう。

 

 

岡田がMCで観客にみんなの励ましが力になったことを告げ、日比谷ではもっと飛べるようになることを誓うところなど、胸が熱くなる。そして寡黙なまでにリズムをキープし続ける夏秋文尚。彼がいなければ、moonridersの継続がありえなかっただろう。そして、控えめながら澤部とともに牧村憲一門下生である佐藤優介の堅実な仕事ぶりは特筆すべきだろう。彼の存在はmoonridersを確実に新しいステージへと導く。カメラ=万年筆というバンド名をつけた彼がそこにいる必然がそこにはある。

 

ライブの風景を切り取っていたらきりがない。いずれも名場面、名演である。改めて、配信で良かったと思った。その場にいたら恥ずかしげもなく、滂沱の涙を流していたかもしれない。考えてみれば、こんなろくでもない、素敵な大人たちに憧れ、刺激を受け、編集者をしてきた。自分語り、恥ずかしいが、すべてを網羅できないものの、少なくとも『カメラ=万年筆』や『マニア・マニエラ』、『青空百景』などの誕生の瞬間には取材などで立ち会っている。『マニア・マニエラ』の突然の発売延期に取材仲間がショックで言葉を失ったことを覚えている。後追いなどではない。その作品から生まれたドラマの表と裏を知る。特に誇るべきキャリアなどないが、そこのところだけはプチ自慢させていただく。いま、また、鈴木慶一が生涯バンド宣言をする意味を改めて噛みしめる。新作は延期になり、正式なリリースは発表されていないが、年を越すなんて言うことはないだろう。彼らと同時代を生きられる貴重な機会である。この機会を逃さないで欲しい。心して迎えるべきだ。今度は僕達をどこへ曳航してくれるのか――。今回は野音にも行くつもりだ。

 

なお、このアーカイブは本日、1月31日(月)23:59まで視聴可能。彼らの軌跡を確認する意味でも予習、復習しておいて欲しい。

 

https://ticket.tickebo.jp/show/event.html?info=10165