この6月25日(金)に東京・高円寺のライブハウス「次郎吉」で、井上富雄のニュー・アルバム『遠ざかる我が家』リリース記念ライブが観客限定&配信ライブで開催された。アーカイブ視聴は可能だったが、当日、前の予定を終え、一目散に帰宅し、リアルタイム視聴した。同作のライナーノートをお手伝いしたこともあって、会場へ行くのは難しくてもせめてリアルタイムで見れればと思ったからだ。
井上自身、ソロの弾き語りライブはこのところ、頻繁に行っていたが、バンド形式のライブは本当に久しぶり。このご時世ゆえ、本ライブも開演時間や演奏時間、メンバーの変更などをせざるを得なかった。当初、ギターで参加予定の尾上サトシがイレギュラーなスケジュールのため参加出来なくなり、同じくケイジャン・ムーン・バンドからギターで柳沢二三男が参加することになった。メンバーは井上富雄(Vo、B)、柳沢二三男(G)、金藤稔人(Kb)、田中徹(Dr)というラインナップ。金藤は『遠ざかる我が家』のレコーディングにオンラインで参加しているが、ライブでのセッションは初めてになる。田中は前作『AFTER THE DAWN』に続き、新作『遠ざかる我が家』にも参加しているお馴染みのメンバーである。
漸く、こぎつけたこの日のライブ、井上富雄自身”集大成”という気持ちはないものの、彼の現在地がわかるものではないだろうか。16年ぶりのソロ・アルバム『AFTER THE DAWN』(2019年10月25日リリース)、そしてニュー・アルバム『遠ざかる我が家』(2021年3月3日リリース)という直近のアルバムからのナンバーを中心に構成されている。本来、『遠ざかる我が家』は前作に続き、翌2020年にリリースし、楽曲も前作同様7曲ほどのミニ・アルバム仕様で出す予定だった。ところがコロナ禍のため、次々と予定や計画が延期や中止となり、その分、デモテープ作りに集中して取り組むことになり、気が付けばフルサイズのアルバムに膨らんでいった。前作の7曲と新作の11曲を合せ。全18曲のライブで披露すべき、レパートリーが生まれた。
前半は前作から「スーパーボール」(インストゥルメンタル)、「BRIDGE OVET THE DAWN」、「土曜日の夜と日曜日の朝」を披露、後半は新作から「今日もまたこの街に夕暮れが訪れる」、「Silky sky blue night」、「夜間飛行」、「遠ざかる我が家」などを披露している。まだ、アーカイブ視聴可能なので、セットリストは掲載しないが、ここ数年の井上富雄の音楽活動を物語るナンバーが並ぶ。「次郎吉」の<youtubeチャンネル>には”めんたいロックのレジェンド”と、派手に紹介されているが、そういう先入観を取っ払って聞くと、すんなりと耳に入りやすいかもしれない。むしろ、佐野元春とのホーボーキングバンドでの活動を思い浮かべた方がしっくりくるだろう。どこか、牧歌的な風情を醸しながらも決して泥臭くなることなく、お洒落で洗練されている。ルースターズ脱退後に結成したブルー・トニックで”早過ぎた渋谷系”と言われただけあるだろう。
井上は1961年7月4日生まれ、この7月4日には60歳、還暦になる(そういえば、アンコールでスタッフからプレゼントされた赤い還暦Tシャツを着ていた!)。ライブの中で、充分に大人だが、大人っぽい音楽に挑んだと語っている。だからといって枯れた味わいではなく、どこか艶っぽい。特に「Silky sky blue night」はソフト&メロウなサウンドにセクシーでアダルトなヴォーカルが被さる。ゴージャス&マーベラス(まるで”全裸監督”か!?)。大人の男の色気が溢れ出ている。
英国のカンタベリー系のキャラバンやハットフィールド・アンド・ザ・ノースを彷彿させるキッチュなジャジーさやスタクリッジやアメイジングブロンデルに通じるニッチでフォーキーな味わい、セカンドラインやホンキートンクの風味をまぶしても南部原産ではなく、LAやNY経由のジョーママやセクションなどの洗練さもあるのだ。
ライブを通して聞くと、『AFTER THE DAWN』と『遠ざかる我が家』という2枚のアルバムはまるで2枚組アルバムの様に相似と対比をなすことを感じる。時間の経過と場所の移動を描く。「土曜日の夜と日曜日の朝」は”土曜日の夜から日曜日の朝へ”、「今日もまたこの街に夕暮れが訪れる」は”この街に夕暮れが訪れる”という時間の経過、そして、「遠ざかる我が家」は” 我が家から遠ざかる”という場所の移動を表している。他にも「Across the city 2019」や「夜間飛行」など、その主人公は時間と場所を旅していく。そんなコンセプトがこの” 2枚組”には込められている。ある意味、井上富雄の軌跡と成長も物語っているのではないだろうか。
実は、このライブをできれば1部・2部制で、各40~50分、トータルで1時間30分から2時間のステージにすることを考えていたという。ところが、8時までに演奏を終えなければならず、1部制60分になった。それ以前に3密回避のための入場制限も掛かっている。コロナ禍が収束したら、チケットを全席完売させ、正規の演奏時間での開催をしたいと語っている。90分というヴォリュームがあれば、それもより鮮明なったのではないかと思っている。いずれにしろ、その約束が果たされるのを楽しみに待つ。
なお、この配信ライブは本日、6月28日(月)の23時まで視聴可能。視聴フリーだが、JIROKICHIオンラインショップにて『後売りチケット』を販売中。いわゆる”投げ銭”だが、チケット購入者には特典として、井上富雄の未発表のインストゥルメンタル・ナンバー「right step」(mp3)のダウンロードが可能。聞き逃せないファンキーなナンバー。お勧めである。
【JIROKICHIオンラインショップ】https://jirokichi.official.ec/
【めんたいロックのレジェンド】井上富雄「遠ざかる我が家」リリース記念ライブ 【投げ銭制】 #ルースターズ #佐野元春 - YouTube