ミステリーハンター ななきさとえ、降臨――『赤色人形館』、蘇る! | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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改めて思う、吉川晃司はいい役者になった。お前、何様、どの立場で言っているのか――と、突っ込まれそうだが、『下町ロケット』の帝国重工宇宙航空開発部の部長・財前道生役の彼の演技には泣けた。あくまでもドラマの中だが、こんなリーダーについていきたいと思ったものだ(笑)。そして、それを極めたのがこの春に放送された『探偵・由利麟太郎』である。由利麟太郎は希代のミステリー作家である横溝正史が“金田一耕助シリーズ”の前に彼の作品で活躍する探偵で、シリーズ化もされている。『探偵・由利麟太郎』は現代劇ながら時空は歪み、大正浪漫と昭和幻影が去来する中、彼の凛とした佇まいと颯爽とした活躍ぶりがひたすら恰好良く、吉川晃司がいなければ成立しない(というか、他の配役や演出に疑問や不満も残る)ドラマだった。しかし、ある種の“浮世離れ”がこのコロナ禍で揺れる世知がない世情に嵌ったと思っている。私的にはお気に入りの作品で、吉川の雄姿を見たく、毎週欠かさず、チャンネル、と昭和感を出してみる(笑)を合わせていた。

 

横溝とともに昭和を代表するミステリー作家に江戸川乱歩がいる。彼の作品は探偵小説という構造を取りながらも、その中に過激なエロティシズムが匂い立つ。“東京12チャンネル”や“テレビ朝日”の明智小五郎役の滝俊介や天知茂の活躍に胸ときめき、女優陣の艶姿に股間を熱くしたものだ(笑)。

 

そんな明智小五郎を満島ひかりが演じ、現代に蘇らせたのがNHK BSプレミアムの『江戸川乱歩短編集』である。衛星放送だが、2016年1月に第1弾が放送され、第2弾が2016年12月、第3弾(第3弾は、明智小五郎は登場しないが、満島ひかりは出演している)が2018年12月に放送された。昨2019年には同シリーズがNHKの地上波で改めて放送されている。大正という時代を舞台に江戸川乱歩の世界を再現、彼女の性を超越した危うい美しさも眼福だった。

 

時々、時空の歪みや狭間に落ち、そんな世界の泥濘に浸かりたくなるものだ。横溝正史や江戸川乱歩の世界が現代に蘇る――その理由や原因を探るのは社会学的に興味ある課題だが、長くなりそうなので、先送りしておくことにする。そんなことを考えていたら、改めて、そんな“流れ”とリンクするようにななきさとえのファースト・アルバム『赤色人形館』がリイシューされることになった。本日、9月16日が発売日だという。

 

昨2019年2月、1987年にキャプテンレコードからリリースされた彼女のセカンド・アルバム『パンドラの呪文』がリイシューされ、JAGATARAの江戸アケミを始め、ナベ、村田陽一、吉田哲治、篠田昌已、ヤヒロトモヒロ、中村ていゆう、筋肉少女帯の大槻ケンヂ、メトロファルスの伊藤ヨタロウなど、ストリート・シーンの強者が軒並み参加している隠れた名盤の復活にSNSでも大変な話題になった。

 

同作を遡る形で、1986年5月に同じくキャプテンレコードでの発売から34年を経て、彼女のデビュー・アルバム『赤色人形館』がリイシューされることになった。前作『パンドラの呪文』同様、マスターテープは行方不明のままのため、レーザーターンテーブルを採用し、アナログの音源を忠実に再現。レコード音源に加えて『赤色人形館』発売記念ライブ(1986年5月1日 渋谷TAKE OFF7)から8曲、同年に発売したビデオ『赤色人形館』からリミックス2曲をボーナストラックとして収録した“拡大版”だ。

 

 

『赤色人形館』もまた、その豪華なサポート陣に目が眩みそうになる。文末にクレジットを転載しておくが、三柴 “エディ” 江戸蔵(新東京正義乃士、筋肉少女帯)、佐々木貴(有頂天)、杉山シンタロウ(ザ・スターリン)、鈴木ヨーコ(ZELDA)、中村ていゆう(JAGATARA)、大槻ケンヂ(筋肉少女帯)、湯川トーベン (アルファベッツ、子供ばんど)、篠田昌已 (生活向上委員会、JAGATARA)、サワキカスミ (火の宮)……などがレコーディングに参加。また、今回、収録されたライブは本城聡章(筋肉少女帯)、リミックスにはレベッカの友森昭一がそれぞれ、参加している。いずれにしろ、錚々たるメンツであることに間違いない。

 

そうした豪華メンバーに目や耳がいきがちだが、実は1986年という時代の自由な空気と開放的な環境がかくも豪華な競演を可能にしている。いまでこそ、誰もが知るというようなメンバーだが、当時はいまほどの名声はなく、マニアの間で名を知られるものの、あくまでもマニアだけ、それこそ知る人ぞ知るという存在だった。

 

どうして、彼女の周りにかくも眩いばかりの才能が集まったのか。おそらく、まだ、当時はストリート・シーンやインディーズ・シーンがその言葉のままに機能していたからではないだろうか。いまのようにハウス・レコーディングが全盛で、リハーサル・スタジオ、レコーディング・スタジオは不要、かつ、発表の場はSNSという状況ではなかった。“バンドやろうぜ!”ではないが、リハーサル・スタジオやライブハウスで仲間を見つけ、そこでセッションなどを繰り拡げる場があった。その場でなければ生まれない音楽があったのだ。パンクバンド「The Nurse」を脱退し、ソロになったななきの元に“仲間”が集まり、その輪から音楽が生まれる。何故、集まるか、60年代なら加賀まりこ、現在なら満島ひかりか、どうかはわからないが、ななきのコケティシュでチャーミングな容貌に魅せられ……なかには、そんな不届きものもいたかもしれないが(笑)、それで集まったわけではないだろう。彼らが惹かれたのが、彼女の唯一無二の音楽性である。男子の場合はパンクに影響を受けたら、そのままパンクを追求するものが多いが、当時の女子は屈折していた。パンク的な手法を敷衍しながらも自らの文学性や美意識などに依拠し、独自な世界を構築しようとしていた。それはななきだけでなく、ゲルニカやZELDA、G-シュミットなどもそうだった。

 

パンクを愛する女性には文学少女が多いかどうかわからないが、彼女たちの世界にはバタイユやユイスマンス、ボードレール、ワイルドなどとともに江戸川乱歩、横溝正史、稲垣足穂、小栗虫太郎、夢野久作などの怪奇や幻想、退廃、幻惑、錯綜などに通じるものがあった。また、天井桟敷や状況劇場などの前衛演劇への共感、四谷シモンやハンスベルメールの人形愛への憧憬、大陸に浪漫を抱き、思いを馳せた戦前の歌謡曲へ回帰、思慕する偽りのノスタルジア……などが混然一体となって、その作品を形作る。そんな彼女が作りあげる世界への共感ゆえのことだろう。有名無名を問わず、その作品が堪らなく魅力的だったからこそ、誰彼となく、惹きつけられた。そして、その作品はいまも私達を強く誘惑する。

 

作品そのものは30年以上前のもの。しかし、古色蒼然とするどころか、いまという時代の銀幕に鮮やかに艶やかに物語を描ききる。2020年という「特別な年」に過不足なく嵌る。遠い大陸の記憶、かの地への妄想旅行。このコロナ禍、旅することもままならない、思いを飛ばすしかないのだ。吉川晃司の“由利麟太郎”や満島ひかりの“明智小五郎”がこの時代に鮮やかに蘇り、見事なまでの活躍を演じたことを思えば、期せずして、ミステリーハンターのななきさとえの“降臨”と赤色人形館の“蘇り”は時を同じくする。その偶然が必然にようにも感じる。

 

彼女がこの国の愚かなる“事件”を解決し、世界の“不思議”を発見するため、神が使わした――かはわからないが、この世界というミステリーの謎を解くには優れた探偵が必要である。ななきさとえの“冒険活劇”や“浪漫劇場”をこの目で見たいものだ。

 

 

 

■レコード 「赤色人形館」参加メンバー

 

Vo.ななきさとえ

G. 蜂谷吉泰 (ダウンタウン・ブギウギ・バンド、所ジョージ & NASTY)

 石渡明廣 (天注組)

 鈴木ヨーコ (ZELDA)

 本城聡章 (筋肉少女帯)

B. 杉山シンタロウ (ザ・スターリン)

 湯川トーベン (アルファベッツ, 子供ばんど) Dr. 中村ていゆう (じゃがたら)

Per. 土屋巌 (人間椅子)

Sax. & Cl. 篠田昌已 (生活向上委員会、じゃがたら)

Pf. & Key. 三柴 “エディ” 江戸蔵 (新東京正義乃士、筋肉少女帯)

Comp. 佐々木 “タボ” 貴 (有頂天)

Vn.トミー原

Cho. 大槻ケンヂ (筋肉少女帯),

 ゆか (非常階段),

 久保田安紀 (マリンコーニア),

 サワキカスミ, 吉志村知彦, 田辺誠 (火の宮)

Producer 中村ていゆう

Sound director 佐々木貴

 

■リミックス参加メンバー

Vo.ななきさとえ

G. 友森昭一 (レベッカ)

 鈴木ヨーコ

 本城聡章

 石渡明廣

B. 杉山シンタロウ

 茂野雅道

 湯川トーベン

Dr. 中村ていゆう

Per. 土屋巌

Sax. & Cl. 篠田昌已

Pf. & Key. 三柴 “エディ” 江戸蔵

Comp. 佐々木 "タボ" 貴

 

■レコ発ライブ参加メンバー

Vo. ななきさとえ

G. 本城聡章

B. 中村 “ムー” 哲夫

Dr. 中村ていゆう

Pf. 三柴 “エディ” 江戸蔵

Syn. 佐々木 "タボ" 貴

 

 

■ディスクユニオン

https://diskunion.net/jp/ct/news/article/2/90699

 

 

■ いぬん堂

http://inundow.shop-pro.jp/?pid=152941469

 

 

■大阪パンデス

(赤色人形館のページがみつかりませんが取扱いただいてます)

http://www.punkanddestroy.com/?pid=148856647