重なる時は重なるものだ。かつて、JAGATARAの中村ていゆうのプロデュースで、1987年にインディーズレーベール「キャプテンレコード」からリリースされたななきさとえの『パンドラの呪文』が、この2月21日にCDとして復刻された。JAGATARAの江戸アケミを始め、ナベ、村田陽一、吉田哲治、篠田昌已、ヤヒロトモヒロ、中村ていゆう、筋肉少女帯の大槻ケンヂ、メトロファルスの伊藤ヨタロウらが参加している。パンク少女がニューウェイブの影響でポップに変身。彼女のHPには“ゴシックロックから密林音楽まで広くカバーしつつ唯一無二のオルタナ音楽を構築している”とあった。ワールド・ミュージックを隠し味にまぶしつつ、カラフルで、キュートなものになっている。
今回、CD化に際してマスターテープから起こすのではなく、音源アーカイブにレーザーターンテーブルを採用したことで、アナログ盤の持つ深みと広がりのある音を再現することかできたそうだ。
改めて聞くと、歌唱、演奏、編曲、録音など、各人が各自の役割において、的確で丁寧な仕事をしていることがわかる。思い付きをちゃんと形にする、確かな技術がそこにはある。1987年の作品ながら、そこに骨董品の匂いはない。むしろ、デジタルながらアナログの美学を搭載した新品といっていいだろう。
また、ワールド・ミュージックの隠し味と評したが、昭和歌謡のエキゾチズムというのが相応しいかもしれない。ニューウェイブの系譜なら戸川純やゼルダ、シティポップの系譜なら久保田早紀やジュディ・オング、歌謡曲の系譜なら服部良一や李香蘭などと通底する。根無し草的に見えて、実は大きな根が張っているのだ。秋には本作の前年、1986年にリリースしたファースト・ソロアルバム『赤色人形館』も初CD化されるという。楽しみである。
『パンドラの呪文』はななきさとえのセカンド・アルバムだが、その後、同作にも参加していた津秦一郎(G)と2人組ユニット、MAHALIK HALILI(マハリック・ハリーリ)を結成。1991 年3月にアルバム『BON VOYAGE』で、ビクターエンターテインメントからメジャー・デビューした。
同作はパリでミックスダウンされているが、実はその模様をリポートするため、同行取材を行っているのだ。ミックスダウンの他、アルバム・ジャケットのための撮影にも立ち会った。さらに同じくカトリーヌ・ランジェとフレッド・シシャンという二人組ユニット、レ・リタ・ミツコとの対談も行っている。レ・リタ・ミツコはファースト・アルバム『Rita Mitsouko』(1984年)はコニー・プランク、セカンド・アルバム『The No Comprendo』(1986年)はトニー・ヴィスコンティがプロデュースした。1987年にはジャン=リュック・ゴダールが監督した映画『右側に気をつけろ (Soigne Ta Droite)』では『The No Comprendo』のレコーディング風景が収録されている。サード・アルバム『Marc & Robert』(1988年)はスパークスとのコラボレーション「Singing In The Shower」がアメリカでもヒットした。フランスの国民的スターである。ななきさとえも当時、某テレビ番組のミステリーハンターを務めていた。人気者同士の対談が盛り上がらないはずがない。実り多い対談だった(と思う)。レ・リタ・、ミツコは順調に活動を続けるも2007年11月、フレッドが亡くなったため、活動を終えている。
偶然といえば偶然だが、JAGATARAがJagatara2020としての復活後にJAGATARAのメンバーが関わったななきさとえの作品の復刻が続く。嬉しい偶然ではないだろうか。彼らの活動がこれからどうなるか、わからないが、“2020”を契機に新たな“JAGATARA現象”が起こることを期待したい。
しかし、90年代、パリは燃えていた。久しぶりにかの地を訪れたいと思った。懐かしのサンジェルマン・デ・プレの「ホテル・ルイジアナ」(Hotel La Louisiane)にも泊まってみたいものだ。
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ななきさとえ | MAHALIK HALILI
ななきさとえ Nanaki Satoe@satoenanaki