この1月26日に60歳になった山下久美子。彼女の“Sweet Sixty”を祝福するイベント『The Sweet Sixty Special Rockin’ Live』が2月17日(日)名古屋・錦「名古屋ブルーノート」、2月23日(土)東京・渋谷「Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE」、3月2日(土)大阪・梅田「ビルボードライブ大阪」で開催された。どの公演も満員御礼状態、SNS上ではそのライブを体験したオーディエンスの歓喜の言葉が躍る。
私も2月23日(土)の東京公演を堪能させてもらった。同公演直後にFBなどへ簡単な報告をするに留めたが、セットリストなど、ネタバレを防ぐため。実は今回のイベントはファンへ感謝するものでもあった。彼女のHPやFBページを通じて、予め、リクエストを募っている。「皆さんが思う名曲や影の名曲、好きな曲をリクエスト頂き、多かった曲を中心に選曲!!山下久美子に歌ってほしい曲を大募集します☆」と、告知されていた。当然、その言葉に嘘はない。その日、披露された楽曲はアンコールの「MY WAY」を除き、すべて“リクエスト・ベスト30”からピックアップされたものだという。
ならば、セットリストを書かなければならない。東京公演のみだが、曲目だけでなく、各曲の作詞・作曲・編曲、発表年度、収録アルバムなど、クレジットも併記した。本来であれば参加ミュージシャンやプロデューサー、ミキサーなども書くべきだが、それをしたら文字数が膨れ上がってしまう。お許しいただきたい。ライブを追体験したいという方はセットリストを参考にオリジナル・テープを作成(カセットテープが静かなブームとはいえ、そんなことをする人はいないだろう。いつの時代だ!)してもらいたい。
1.微笑みのその前で(作詞:山下久美子 作曲:布袋寅泰 編曲:布袋寅泰・ホッピー神山)シングル(1988年)、アルバム『Baby Alone』(1988年)収録。
2.Rock me Baby(作詞:山下久美子 作曲・編曲:布袋寅泰)アルバム『POP』 (1987年)収録。
3. 星になった嘘(作詞:竹花 いち子 作曲:亀井登志夫 編曲:国吉良一・吉田建)シングル(1985年)、アルバム『BLONDE』(1985年)収録
MC
4. 抱きしめてオンリィ・ユー(作詞:康珍化 作曲:亀井登志夫 編曲:大村憲司)アルバム『抱きしめてオンリィ・ユー』(1982年)収録。
5. スローナンバーのあとで(作詞:竹花 いち子 作曲:亀井登志夫 編曲:吉田建・国吉良一)アルバム『BLONDE』(1985年)収録
6.時代遅れの恋心(作詞:下田逸郎 作曲:大沢誉志幸 編曲:大村憲司)アルバム『抱きしめてオンリィ・ユー』(1982年)収録。
MC
7.雨の日は家にいて(作詞:康 珍化 作曲:岡本一生 編曲:伊藤銀次)シングル(1981年)、アルバム『雨に日は家にいて』(1981年)収録。
8.EASY TO CHANGE MY LIFE(作詞:下田逸郎 作曲:岡本一生 編曲:大村憲司) アルバム『抱きしめてオンリィ・ユー』(1982年)収録。
9.恋のミッドナイト・D.J.(作詞:KURO作曲:西岡恭蔵 編曲:松任谷正隆) シングル(1981年)、アルバム『ダンシング・イン・ザ・キッチン』(1980年)収録。
10.シャンプー(作詞:康珍化 作曲:山下達郎 編曲:石田長生)アルバム『雨に日は家にいて』(1981年)収録。
11.バスルームから愛をこめて(作詞:康珍化. 作曲:亀井登志夫 編曲:松任谷正隆) シングル(1980年)、アルバム『バスルームから愛をこめて』(1980年)収録
MC
12.こっちをお向きよソフィア(作詞:康珍化 作曲:大沢誉志幸 編曲:Hugh McCracken) シングル(1983年)アルバム『Sophia』(1983年)収録
13.Lilith (British Fantasy) (作詞:山下久美子 作曲・編曲:布袋寅泰 )アルバム『POP』 (1987年)収録
14.瞳いっぱいの涙(作詞:康 珍化 作曲:原田真二 編曲:後藤次利)シングル(1985年)、アルバム『And Sophia's back』(1985年)収録
MC
15.LOVIN'YOU(作詞:Hugh McCracken 訳詞:三浦徳子 作曲:Hugh McCracken 編曲:大村雅朗)シングル(1983年)、アルバム『SWEETS』 (1983年)収録
16.So Young(作詞・作曲:佐野元春 編曲:伊藤銀次) アルバム『雨の日は家にいて』(1981年)収録
17.赤道小町ドキッ(作詞:松本隆 作曲:細野晴臣 編曲:大村憲司) シングル(1982年)
EC
18.ちょいまちBabyなごりのキスが(作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸 編曲:Hugh McCracken) アルバム『Sophia』(1983年)収録
(山下久美子 & 大澤誉志幸)
(山下久美子 & 大澤誉志幸)
19.Din-Don-Dan ホラ胸が鳴る(作詞:森雪之丞、作曲:大澤誉志幸 編曲:青木庸和) アルバム『山下久美子 ALL TIME BEST Din-Don-Dan』(2016年)収録
(山下久美子 & 大澤誉志幸)
(山下久美子 & 大澤誉志幸)
20.MY WAY(作詞:Paul Anka 作曲:Claude Fran?ois Jacques Revaux 訳詞:岩谷時子)
山下の熱心なファンが選んだのが上記のナンバーだが、改めてセットリストを見ると、錚々たる顔ぶれが彼女へ楽曲を提供していたことがわかる。既に鬼籍に入られた方もいるが、実力と人気を兼ね備えた作家ばかり。山下自身、歌詞は書くものの、基本的にシンガーソングライターではなく、ヴォーカリスト、パファーマー。それゆえ、彼女の才能に依拠するだけでなく、ディレクションやプロデュースなど、スタッフワークも重要であり、いかに魅力的な座組をするかが肝要である。こうして並んだ名曲の数々を改めて聞くと、彼女が実に作品に恵まれているかがわかるだろう。彼女の歴代のスタッフ陣の審美眼の高さを感じないわけにはいかない。勿論、山下も唯々諾々と従うだけではなく、自らの意思を主張しつつ、直感や本能で見つけ出したものも多いだろう。また、どんなものでも自分流に歌いこなしてやろうという気概や意地もある。それ以前に楽曲群は彼女の天性の声で歌われることで、それは幾重にも魅力を増し、何倍も輝いていく。
昨今、制作や発表の環境が変わり、自称プロデューサーは多くなったが、ディレクター不在の音楽が横行している。ある種、古典的かもしれないが、ディレクターを始め、作曲家、作詞家、編曲家など、様々なクリエイターがスクラムを組み、共同作業によるクオリティーやダイナミズム、ハプニングなどが生まれにくくなった。ライター、プランナーの濱口英樹が歌謡曲黄金時代の仕掛け人を取材した『ヒットソングを創った男たち』(シンコーミュージック・エンタテイメント)には初期に山下を担当した木崎賢治も出ているが、単なる懐古ではなく、プロフェッショナルの流儀や醍醐味を感じられなくなっているのだ。
山下は渡辺プロダクション出身ということもあり、日本のポピュラー音楽史とも無縁ではない。歌謡ポップスやシティポップ、ソウル、ブルース、テクノポップ……など、歌謡曲やポップス、ロックなどの成長過程とも重なる。彼女の軌跡は日本のポップスの成長の歴史そのものでもある。それでいて、山下久美子の“ロッカー”としての資質がそれらをいい意味で逸脱し、飛翔もさせていく。正統にして、異端であるといってもいいだろう。
この日、披露された楽曲はいずれも後世に残るスタンダードというべきもの。実験的なものもあるが、大衆性を併せ持ち、一過性の新奇さではなく、むしろ永遠を留めるものだ。エヴァグリーンの魅力を放つといっていいだろう。オーディエンスの懐古や郷愁だけでなく、時間や空間を超えていく。真の意味での“ポップス”である。
“ベスト30”のすべての順位は明らかにされていないが、ベスト3はカウントダウンされ、発表している。3位は「こっちをお向きよソフィア」、2位は「Lilith(British Fantasy)」、第1位は「.瞳いっぱいの涙」。おそらく、時を経ればそれは変わるだろうし、新しい曲が出ればそれが入る可能性もある。とりあえず、2019年の時点の暫定のベスト3だが、単なるヒットチャートの順位や売り上げの数字ではなく、オーディエンスにとってのベスト3がこれらの曲だった。いずれも聞くものの心と身体にしみ込む。山下が丁寧に大事に歌ってきた結果だろう。ファンは思惑や理屈を超え、心と身体に馴染んだものを選んでいるのではないだろうか。
山下久美子を支えるメンバーはキンモクセイの後藤秀人(G)、キリンジの千ケ崎学(B)、キリンジのサポート・メンバーの伊藤隆博(Trombone、Kb)、『アニマ・アニムス』や『And Sophia's back』などのツアーを共に回った元SHI―SHONEN、Real Fishの福原“CUTY”まり、そして山下久美子&PaPaとして“ルイード時代”の熱狂を知る椎野恭一(Dr)という“いつも”の顔ぶれにゲストとしてNONA REEVESの奥田健介(G)が加わる。この1、2年間、ゲストなどの変動はあるものの、ほぼ、このメンバーで、山下久美子の音を作ってきた。彼らはオリジナルの音を尊重しながらもいまの音を鳴らす。当時のレコーディングの現場を知るミュージシャンと、新たな感覚で挑む新世代のミュージシャンの融合、それは単なる再現ではなく、かといって、奇をてらう改竄でもない、現在進行形の音なのだ。
山下久美子がどんな軌跡を描いてきたのか、さらにいまの山下久美子がどこにいるのかを伝える。この日、ラストのナンバーは「MY WAY」だった。同曲は“ベスト30”ではないが、彼女が思いを込め、選曲したという。フランク・シナトラもシド・ヴィシャスも歌った永遠のスタンダードである。凡弱の歌手なら自己陶酔的に滔々と歌いがちだが、しかし、ラテンのリズムに乗り、軽やかに歌われる。これが60歳になった彼女の“モード”なのだろう。
この日もプロダクションやレコード会社などの歴代のスタッフ、カメラマンやデザイナー、ライター、ミュージシャンなど、山下の“Sweet Sixty”を祝うため、たくさんの仲間達が駆け付ける。ゲスト出演した大澤誉志幸を始め、レコーディングやライブに関わった吉田建やいまみちともたか、PANTAなども顔を出していた。PANTAは山下のアルバム『BabyBaby』(1982年)に実験的な名曲「XX」を提供している。彼女の周りには愛が溢れる。彼女の“人間力”が人をひきつけ、彼女に手を貸す。
来年、2020年はデビュー40周年。“Sweet Sixty”を終えたばかりで、気の早い話だが、「バスルームから愛をこめて」から40年、新たなアニバーサリーが始まる。40周年をどんな言葉で飾り、どんな歌や音を聞かせてくれるか――彼女は期待を裏切らないだろう。“Sweet Sixty”の先が楽しみでならない。
なお、『The Sweet Sixty Special Rockin’ Live』では新たにツアーパンフレットが作成され、販売された。同パンフレットに寄稿している。私は2016年5月14日(土)の“35周年ライブ”から昨2018年12月15日(土)の“Sweet Sixty前夜祭”まで、この2年間で6回のライブを見ているが、その都度、ライブレポートをブログに書いてきた。今回はそのレポートを引用、抜粋してツアーパンフレットにまとめ、60歳へのカウントダウンを書き記している。よろしかったら、ご覧いただきたい。以下のHPの通販サイトでの購入も可能だ。
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