“慶応三田祭事件”から46年の幸せな結末――頭脳警察+はちみつぱい | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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昨日の敵は今日の友か。その日、46年前の“遺恨”が解消された。先週、1月13日(日)、東京・渋谷マウントレーニアホールで開催されたはちみつぱいと頭脳警察のジョイント・ライブ「第七回 真夜中のヘヴィロック・パーティー・プレゼンツ はちみつぱい 頭脳警察」。
 
時を同じくして復活した日本のロック史に残る伝説のバンド、はちみつぱいと頭脳警察。その両者が相まみえる。かの“慶応三田祭事件”から46年の時を経ての邂逅、それは落とし前というには充分過ぎる奇跡のようなイベントだった。その場に立ち合えたものは僥倖である。歴史の目撃者、いや、傍聴人になれたのだ。
 
と、大袈裟に枕をふったが、第1部に登場したはちみつぱいは、そんな気負いは微塵も感じさせない。サイケデリックで、アシッドで、レイドバックした彼らだった。その夢見がちなラリパッパな世界は彼らならではだ。鈴木慶一、岡田徹、武川雅寛、本多信介、渡辺勝、和田博巳、駒沢裕城という歴代メンバーに夏秋文尚がサポートするといういつもの布陣ゆえ、バンドとしての一体感も増している。まさにはちみつぱい無双というべき、唯我独尊の世界だ。各々のソロやボーカルもベテランらしい滋味を加えつつも老衰などはなく、妙にはつらつとしている。再結成してから“FUJI ROCK”や“郵貯”などで、度々、彼らを見ているが、この日が一番、伸び伸びとしていたのではないだろうか。昨年は「大寒町」や「大道芸人」が大泉洋主演の映画『探偵はBARにいる3』の主題歌に起用されるなど、不思議と時代の流れともリンクしている。まさに旬だろう。
 
はちみつぱいは1988年6月9日、東京・汐留PITで、1日限りの再結成コンサートを開催している。ゲストにはあがた森魚、斉藤哲夫、高田渡らが出演したが、鈴木慶一はPANTAに頭脳警察としての出演を依頼していた。しかし、頭脳警察が復活するのは2年後のこと、1990年に1年間だけ再結成をしている。1988年は、まだ、“時機”ではなかったのだ。
 
 
はちみつぱいの終演後、長いセットチェンジ後、第2部はPANTAとTOSHIが登場。頭脳警察だ。PANTAの扇情的な朗読にTOSHIの怒涛のドラミングが絡み、PANTAが歌い出すと、TOSHIのパーカッションが吠える。いやがおうでもテンションが上がる。同曲から2001年の再々始動以降、ライブの核になったという、2008年にシングルとしてリリースされた「時代はサーカスの象にのって」へ。最新作(!?)を持ってくるあたり、現役であることの存在証明だろう。彼らに京都の爆音ブルース・バンド、騒音寺のメンバーが加わる。彼らの加入によって、その激情度合いはさらに増していく。PANTAとTOSHIさえいれば頭脳警察という考え方もあるが、騒音寺の加入によって、頭脳警察はバンドであることを再確認させられる。このところの臨時頭脳警察にはない、漲るような躍動感があり、限りない可能性を感じさせる。素晴らしい連帯というか、華麗なる野合ではないだろうか。
 
“政治的で過激(ポリティカル&ラジカル)”というのが頭脳警察のパブリック・イメージだろう。当日もPANTAがMCで言っていたが、そのイメージの増大による、実像との乖離が最初の解散の原因だった。いまの頭脳警察は政治的で過激なナンバーをがなりつつ、繊細で叙情的なナンバーを囁く。“豪快でいて繊細(ダイナミック&センシィブ)”。相反するものを止揚していく、それが頭脳警察らしさだろう。
 
10代の頃に感銘を受けたヘルマン・ヘッセの詩にPANTAが曲をつけ、1972年にリリースされ、発売中止になった『頭脳警察Ⅰ』、同じく発売1カ月で回収になる『頭脳警察セカンド』に収録された「さよなら世界夫人よ」、1990年の再結成時にリリースされたアルバム『頭脳警察7』に収録された「万物流転」は、頭脳警察の詩情溢れる永遠の名曲である。かつて、PANTAは「歌は死なない」といっていたが、長い時間をかけて証明している。
 
「頭脳警察が“ステージ・ジャック”した」と、PANTAは何度も語っていたが、その真相が明らかになるのはアンコールまで待たなければならなかった。その場にいたものは、驚愕の事実を目の当たりにすることになるのだ。
 
 
頭脳警察が「万物流転」を演奏し終え、ステージを去ると、当然の如く、アンコールを求める歓声と拍手が巻き起こる。それに応える形で、はちみつぱいと頭脳警察のメンバーがステージに登場。46年前には実現しなかったはちみつぱいと頭脳警察の共演だ。そのアンコールの出囃子は「京都シティはいからブギー」。聞きなれた大滝詠一の“はいからいずびゅーてぃふる”という声が入っている。
 
この日、ステージに登場したメンバーが出揃うと、鈴木慶一はこのバンドを「騒音警察ぱい」と命名した。直ぐに演奏をすると思いきや、ここから46年前の遺恨、歴史に残る1971年11月6日の「慶応三田祭事件」――慶応大学三田校舎中庭特設ステージで行われた「三田祭前夜祭」で発生した“事件”をプレイバックする。PANTAは「事件というより頭脳警察が起こしたステージ・ジャックだ」というが、その日を境に彼らは敵、味方に別れ(!?)、共演などはなくなるのだから、敢えて“事件”と言わせてもらおう。鈴木慶一は後年、PANTAのアルバム『マラッカ』をプロデュースするが、それでも79年になってからだ。当然、今日のこの日まで、はちみつぱいと頭脳警察が共演する機会はなかった。同学祭には彼らの他にはっぴいえんど、乱魔堂、遠藤賢司、吉田拓郎なども出演していたが、彼らも“事件”に巻き込まれていく。
 
ここで時系列に沿って、PANTAは頭脳警察側の証人、鈴木慶一ははちみつぱい側の証人として、“対質尋問”が行われる。いきなりの法廷ドラマの始まりだ。
 
そもそもの始まりはこうだった。その日、時間の押した2つの学園祭をこなして、次の慶応三田祭に遅れて到着した頭脳警察、ところが主催の「風都市」(ご存知、はっぴいえんど、はちみつぱい、乱魔堂の所属事務所)のスタッフから「頭脳警察のやる時間はない」と言われてしまう。仕方ないと帰ろうとすると、TOSHIがこのまま帰るのか、と、けしかける。PANTAはそれもそうだ、やるかと踵を返すと、まわりを囲んでいた親衛隊があっという間に校内へ散っていく。ステージでは、はちみつぱいが演奏中、その後ろでは、はっぴいえんどが出番を待ちながらストレッチをしていた。頭脳警察はそれを見ながらステージ・サイドで腕組みして立ち、はちみつぱいが終わるのを無言で待っていた。そして、はちみつぱいの演奏が終わるやいなや、ステージに上がり、親衛隊はすばやくステージを取り囲み、頭脳警察はほぼ1時間、演奏し続けたという。
 
はちみつぱいは終演後、ステージから離れた楽屋(教室)に戻っていたため、その様子は目の当たりにしていないが、頭脳警察がステージ・ジャックしたことはスタッフから聞かされ、彼らがステージを奪回しようと、傘を武器(!?)に殴り込みをかけようとしたことは知っていたようだ。はちみつぱいはステージの後は飲みに行くと決まっていたため、そのまま騒動をよそに飲みに行ってしまった。いかにもはちみつぱいらしいエピソードではないだろうか。
 
ステージ・ジャック後、はっぴいえんどは時間が押したため、1曲しか演奏できないと告げ、大滝詠一は「はいからはくち」を歌い始めるが、そこへ怒号と石礫が飛んできたという。細野晴臣はその仕打ちに思わず涙したという逸話もあるようだ。
 
そんな騒動を収めたのがその後に出演した遠藤賢司だったという。歴史の偶然か、必然か。見事な行事ぶり。流石、エンケンである。
 
その騒動から数日後、PANTAは細野と都内のレストランで、たまたま鉢合わせするものの、軽く挨拶したのみで、それ以降、共演はおろか、交流もなかったという。広いようで狭い日本の音楽界だが、まったく縁がないというのも不思議な話だろう。その遺恨はかくも長きに続く。
 
なお、『慶応三田祭』で、本来は水と油である(!?)頭脳警察と、はちみつぱい、はっぴいえんどが共演する契機は、彼らが望んだものではなく、学祭の主催団体に敵対する団体が頭脳警察を無理やりねじ込んだという。いわば、“代理戦争”だったというのが真相のようだ。
 
そんな法廷ドラマの後に騒音警察ぱいはアンコールで、「絶対死なないはいから俺にはコミック雑誌なんていらないはくち」を演奏する。タイトルからわかる通り、頭脳警察の「俺にはコミック雑誌なんていらない」と、はっぴいえんどの「はいからはくち」を交互に歌い、ソロを取り合う。46年の時を経ての初共演である。数奇な因縁を結ぶ、まさにこの曲しかないという選曲である。
 
同メドレーが終わると、遠藤賢司の「歓喜の歌」が流れる。この日、1月13日は彼の誕生日だった。そして、献杯が行われる。深い余韻を残して、騒音警察ぱいはステージから消えた。
 
あくまでもライブ、その日に起こったことはドキュメンタリーだが、まるで一幕ものの演劇を見ているようでもあった。そこには深い哀悼と追悼のドラマがある。三田祭で、はっぴいえんどが歌ったのは「はいからはくち」、同曲の大滝の声を出囃子で使用して、同曲を演奏する。そして、三田祭の混乱を収拾した遠藤賢司の曲を最後に流し、献杯。見事なまでの“演出”である。当代随一の演出家や脚本家だって、こんな筋書きや台詞は描けやしない。その場にいたものは歴史的ドラマに立ち合い、時代の目撃者となったと言っていいだろう。その時、歴史が動いたのだ。いきなり来年の話になるが、来る2019年は頭脳警察結成50周年。記念すべきアニバーサリー・イヤーに向けて、活動を活性化させていくという。頭脳警察にはちみつぱい、日本のロックの伝説が歴史から飛び出してきた。長生きはするものだ。

ちなみに1月31日に渋谷クラブクアトロで、遠藤賢司を追悼する『生誕71年 エンケン祭り ~追悼・遠藤賢司~』が開催される。そこにはPANTAも細野晴臣も出演する。46年ぶりの邂逅、どんなものになるのか。PANTAは鈴木茂とは既に和解(笑)しているという(1982年、堀ちえみにPANTAが曲を提供し、それを鈴木茂が編曲した)。ここでも遠藤賢司が仲を取りもち、見事に収めるのではないだろうか――。
 

■第七回 真夜中のヘヴィロック・パーティー・プレゼンツ
出演:はちみつぱい、頭脳警察
はちみつぱい(岡田徹/橿渕太久磨/駒沢裕城/鈴木慶一/武川雅寛/夏秋文尚/本多信介/渡辺勝/和田博巳)
頭脳警察 (PANTA/TOSHI + NABE/TAMU/KOHEY/AYATA from 騒音寺)
日時:2018年 1月 13日(土)開場17:15 開演18:00 
場所:Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
〔 03-5459-5050 / 渋谷109並び、渋谷プライムビル6F 〕
 
■演奏曲目
●はちみつぱい
こうもりの飛ぶ頃
虫のわるつ
土手の向こうに
センチメンタル通り
堀の上で
月夜のドライヴ
アイ・ラヴ・ユー
ぼくの倖せ
 
●頭脳警察
アメリカよ
~時代はサーカスの象にのって
風の旅団
(+KOHEI、AYATA)
銃を取れ
少年は南へ
歴史から飛び出せ
(+NABE)
サラヴレッド
悪たれ小僧
(P&T)
さようなら世界夫人よ
万物流転
 
●全員(騒音警察ぱい)
はいから雑誌なんかはくち
歓喜の歌~エンケンに献杯