まさに待望の新刊である。本2017年3月1日(享年78)に惜しくも亡くなったムッシュかまやつの「ムッシュかまやつとはなんだったのか?」に迫ったサエキけんぞうと中村俊夫の共著『エッジィな男 ムッシュかまやつ』(リットーミュージック)を発売日に購入し、発売日に読んだ。同書が出ることは、5月11日に東京・新橋ZZで開催されたトーク・イベント「『ダディ竹千代と中村俊夫の日本ロック昔ばなし⑫ 』~追悼ムッシュかまやつのマジカル・ヒストリー・ツアー~」で、中村と当日、飛び入りでゲスト出演したサエキから発表されていた。その前後に『ギター・マガジン2017年5月号』のムッシュかまやつの追悼特集でも、その一端を垣間見ることができたが、知識も人脈も取材力もある信頼すべき二人が関わる同書の刊行を本当に楽しみにしていた。
内容は当然の如く、待った甲斐のあるもの。時代を追いながらムッシュの音楽的な先進性、アーティストとしての独自性を詳らかにしていく。まさに“エッジィ”とあるが、日本の音楽や文化、流行の先端に立ち、切り拓きながらも、その功績を誇示も固執することなく、王道を歩みつつも裏道や抜け道を徘徊することを好む。
同書の帯に書かれた内容をそのまま引用するが、「カントリーからヘヴィ・ファンクまで、その音楽変遷史」、「『フリフリ』~カオシーな日本のロックの曙」、「リアルタイムのスウィンギン・ロンドン」、「グリニッジ・ヴィレッジでのビートニクと遭遇」、「老舗レストラン、キャンティが結んだ縁」、「ZUZU(安井かずみ)との69/70」、「はっぴえんど、そしてユーミン」、「1990年代、渋谷系&世界規模の再評価」、「『B級ミュージシャンとして生きる』美学を貫き通した処世術」……など、どれも刮目すべきものがある。
特にGS誕生と崩壊の中での日本のロックの創造、飯倉片町のキャンティを拠点とした安井かずみや福沢幸雄などとの可憐な交流、ユーミンや吉田拓郎との共同作業、はっぴいえんどと内田裕也の間を自由に行き来し、フォークやカントリーからグラムロックやAORまで、千変万化の音楽性、渋谷系の後輩からリスペクトされ、90年代の再評価とともに世代を超えたアーティストとの共演、近年の新世代アーティストとのバンド活動など、エイジレスでジャンルレスでボーダーレスな交流など、ムッシュというアーティストの“生き様”(敢えて、似つかわしくはないが、使用してみる!)にわくわくさせられる。きっと、誰もが、こんな大人になりたいと思うだろう。
一気に読んでしまった。サエキと中村が各々、歴史を追いながらもコラムの集積のような構成なので、読みやすい。発見と驚きに溢れている。ムッシュの魅力を再確認するとともに日本のロック史の見直しも迫る。ムッシュがビートルズの『ミート・ザ・ビートルズ』に出会っていなければ、日本のロックは“出遅れ”ていたはずだ。
5月に行われた「ムッシュかまやつ お別れ会」にも参列させていただいたが、ムッシュとは、取材などを通して、何度もお会いしている。そんな出会いの中でも思い出が深いのは、ムッシュかまやつは1990年2月、ベルリンの壁の上で、「バン・バン・バン」を歌っているが、その場に立ち会わせていただいたこと。ムッシュが壁をよじ登るお手伝い(!?)もさせてもらった。
同曲は90年にリリースされたアルバム『IN AND OUT』に収録されているが、ベルリンの壁の前で歌ったアーティストはデビッド・ボウイやバークレー・ジェイムス・ハーベストを始め、数多いが、壁の上で歌ったのはおそらく彼くらいではないだろうか。1989年11月、ベルリンの壁が「崩壊」し、東西を自由に行き来できるようになった。その壁が本格的に撤去されるのは翌90年3月。崩壊から数か月後のことである。まさにその貴重な数か月に彼はその場に立っていたのだ。
実はベルリン行きは、ムッシュにとって、創作のための“取材旅行”だった。元サディスティック・ミカ・バンドの福井ミカをコーディネイターにロンドン、ベルリン、パリと回っている。実際、レコーディング(というか、実況録音)したのは、ベルリンのみだが、東欧の自由化、ソビエトの崩壊など、歴史の転換期にあり、激動している欧州を体験しておきたいという思いからだろう。
ロンドンではコシノミチコの自宅を訪ね、彼女のスタジオで歓迎のDJパーティも開かれている。ベルリンではポツダム広場(ボウイが1987年6月、同所でコンサートを開催)で、渡航が自由化され、東ベルリンから西ベルリンへ来た若者とも対話を交わしている。私はパリへはスケジュールの都合で、同行できなかったが、ムッシュはその旅の中、「Right Place ,Right Time 」という言葉を何度も口に出していた。“いなければいけない”とまで、言っていたのだ。かつてロンドンやニューヨークなどで、時代が変わる“現場”に立ち会ったと同じように、居ても立っても居られないものがあったのだろう。動き回ることをやめない。そのフットワークの軽さは驚愕すべきものがある。また、決して偉ぶることなく、気さな語り口調も耳と心に残っている。同ツアー中には毎回、ムッシュと食事を共にしたが、食通である、本当に美味しいものを食べさせてもらった。その日、食べたものを必ずメモしていたことが記憶に残っている。どんな機会も無駄にしない。すべてが血や肉になる。同書を読んでいて、改めて、そのことを思い出した。
ムッシュに深い感謝と深い哀悼を。ありがとうございました。中村、サエキという最強コンビによる、ムッシュかまやつひろしの全貌を捉える同書、絶対にお勧めだ。是非、多くの方に読んでいただきたい。
また、同書の発刊を記念して、10月22日(日)には東京・渋谷ロフト9で、サエキけんぞうのコアトークvol.85「追悼ムッシュかまやつ」<<「エッジィな男 ムッシュかまやつ」(リットー)出版記念>>が開催される。同イベントも必見である。豪華ゲストとともに本にも書けなかった歴史秘話も披露されるという。見逃せないイベントである。
サエキけんぞうのコアトークvol.85「追悼ムッシュかまやつ」
<<「エッジィな男 ムッシュかまやつ」(リットー)出版記念>>
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/74024
LOFT9 Shibuya(東京都)
10月22日(日)
OPEN 17:30 / START 18:00
前売¥2300/当日¥2800(飲食代別)※要1オーダー
前売券は9/15(金)10時よりイープラス、ローソンチケットで発売
■イープラス購入ページURL(パソコン/スマートフォン/携帯共通)
http://eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002238124P0030001
■ローソンチケットLコード:35466
http://l-tike.com/order/?gLcode=35466
【出演】.
加藤充(ザ・スパイダース:ベース)
本城和治(ザ・スパイダース担当ディレクター)
中村俊夫(GS評論家)
shiro《丹波博幸(ムッシュバンド)、宮原芽映、窪田晴男》
【司会&プロデュース】
サエキけんぞう
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