盛会御礼!--松尾清憲トークイベント「Past, Present and Future」報告!! | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

先日、3月5日(日)に東京・世田谷のエムズ・カンティーナで開催した松尾清憲のトークイベント「Past, Present and Future」。お陰様で、盛会に終えることができた。ご来場いただいた方に深く感謝します。ありがとうございました。
 
“30周年プロジェクトも大盛況の内に終わり、2017年、松尾清憲の新しいディケードが始まる。これから、彼はどこに向かうのか?”をテーマに秘蔵映像の公開、スペシャル・ゲスト、ミニ・ライブ…と、盛りだくさんの3時間30分。サプライズやハプニングが続出、ワクワクとドキドキが止まらないイベントになる。
 
日曜日の昼下がり、外は眩い光が降り注ぐ、小春日和ながら会場には客電を落とすと、ほの暗い空間が出現する。ステージのスクリーンには2016年4月3日に表参道GROUNDで開催した「松尾清憲 30th Anniversary Special Live『Featuring SIDE EFFECTS and THIS TINY WORLD and More』」から、 松尾清憲 with Velvet Tea Setsや白井良明、杉真理、鈴木さえ子、星野みちるなどがステージに揃い踏み、オールスターキャストによる「愛しのロージー」が映し出される。
 
だらだらしゃべる(笑)前に、まずは松尾清憲の世界に浸っていただこうという演出だが、いかがだっただろうか。始まりが良ければ、終わりも良し。後述するが、愛しい円環を描くことになった。
 
同曲終了後、ステージにメインゲスト、松尾清憲、特別ゲストのビートルズ関連の著書やイベントも多い、ビートルズ愛好家で、CD BOOK『ニュー・ベスト・オブ・松尾清憲 ~甘くてほろ苦い音楽生活のすべて~ 』を編集した藤本国彦、そして司会・進行の私が登壇。映像出しなど、進行を司るイベント・プロデューサーの前沢達也が客席後方に陣取る。
 
まずは2015年から2016年にかけて、『SIDE EFFECTS~恋の副作用(30th Anniversary Version)』(2015年10月)、『This Tiny World 』(2015年11月)、『ニュー・ベスト・オブ・松尾清憲 ~甘くてほろ苦い音楽生活のすべて~ 』(2016年1月)と、3作連続リリース、そしてアニバーサリー・イベント開催という、“ソロ・デビュー30周年”を振り返っていただく。本来であれば、『ニュー・ベスト――』が最初に出る予定だったが、諸事情により順番は狂うが、それ以外は順調に予定をこなしたという。怒涛の1年だったようだが、自らの軌跡を文章と音楽でまとめたCD BOOKは改めて、自身の活動を振り返る機会を得たという。
 
また、新作『This――』制作の裏話も披露。松尾は毎回、録音、収録する楽曲を決めるため、“選曲会議”を行っているが、各曲が収録されるまでの丁々発止のやりとりを語る。30周年記念らしく、その選曲会議のメンバーも多く、議論も白熱したという。ある曲などは、同曲を強く推す出席者の粘りがなければ、収録されないという憂き目に合うところ。敢えて、曲名は出さないが、それは未収録となったら涙ものの名曲である。その方に感謝するしかない。
 
そんな話をしつつ、アニバーサリーの締めくくりとでもいうべき、2016年12月18日の六本木VARITで開催した「松尾清憲 with Velvet Tea Sets 『THIS TINY WORLD』Live!」の映像を流す。曲は「Primary Philosophy」。同ライブ直前、12月8日の未明、虚血性心疾患のため、永眠した Velvet Tea Setsのメンバーで、 シンガーソングライターの橋口靖正が作ったナンバーである。同曲はアンコールで演奏されたが、その演奏前には観客が同曲を歌っていた。会場全員が橋口を追悼する。松尾はまだ、若い彼の急逝を本当に残念だと、悔しさを滲ませ、語る。改めて、彼のご冥福を祈させていただく。合掌。

そして、今回、特別ゲストの藤本国彦が「松尾清憲の魅力をビートルズの曲で語る(勝手に!)」をテーマに松尾清憲の音楽的魅力とその構成要素を多角的、重層的に解析。まずは、ビートルズに入る前に「ビートルズ以外のつながり」として、下記の映像を流す。
 
■松尾清憲の音楽をビートルズ以外のつながり
★The Move「Blackberry Way」
https://www.youtube.com/watch?v=LV2a7Crzf0Y
★Lewis Furey - Hustler's Tango
https://www.youtube.com/watch?v=4vGlFRQoCCA
★Rufus Wainwright「Little Sister」
https://www.youtube.com/watch?v=oDWw9L5oApc
 
松尾の音楽性の特徴をビートルズに置き換えるとどうかというテーマで、ビートルズの曲も流す。会場からもそのリストが欲しいというご要望があったので、下記に挙げておく。
 
■松尾清憲の魅力をビートルズの曲で語る(勝手に!)
①一度聴いたら忘れられない声
1=独特な声(All I've Got To Do/Girl/Lucy In The Sky With Diamonds)
2=裏声(You're Going To Lose That Girl)
3=コーラスのうまさ(This Boy)
②曲の雰囲気
4=独特な翳り(I'll Be Back/Eleanor Rigby)
5=ノスタルジック(If I Fell/It's Only Love/Your Mother Shoud Know/Free As A Bird)
6=ブリティッシュな気品(Piggies/Cry Baby Cry)
7=サーカス風(Being For The Benefit Of Mr.Kite)
③リズム
8=ワルツ(You've Got To Hide Your Love Away)
④曲作り
9=複雑な構成(Happiness Is A Warm Gun)

松尾音楽を勝手に分析したが、藤本の的確で卓越した解析に頷く方が多い。彼の音楽を聞く楽しみが広がっていく。新たな音楽を触れる契機となる。ビートルズ・ファンから圧倒的に支持を得る藤本らしい、流石、納得の分析である。分析された松尾もお見事、と頷きながら藤本の分析を面白そうに聞いている。松尾の音楽を起点に音楽の輪や音楽を聞く楽しみが広がるはずだ。
 
というところで、第1部は終了。あっという間の1時間30分。休憩時間となる。長丁場だから話す方も聞く方もブレイクは必要。お互い、若くはない(笑)。

10分間の休憩後、第2部が始まる。ここでお知らせである。記念すべきデビュー・アルバム『SIDE EFFECTS』の“完全再現ライブ”を行うことは既に発表していたが、具体的な日程などは発表されていなかった。同ライブを6月9日(金)、表参道GROUNDで、開催することを発表。このトークイベントで、初めて正式にアナウンスされる。
 
同作の再現ライブに関連し、『SIDE EFFECTS』のプロモーション・ビデオを流すと告げた後に流れたのは、ビデオではなく、同作のプロデューサー、白井良明のコメント。会場は当然として、松尾本人にも内緒のサプライズだ。
 
白井と松尾の出会いはムーンライダーズの『マニア・マニエラ』の伊豆のスタジオでのレコーディング中。松尾はシネマのメンバーとして、見学の予定が“大人数でギターを弾きまくる大会”に急遽、参加することになったという。
 
白井がプロデューサーになった経緯は、当時、沢田研二や井上陽水など、ヒット・プロデューサーとして飛ぶ鳥を落とす勢いだった白井から名乗りを上げたという。後にも先にも自ら買って出たのは松尾だけだそうだ。希代のメロディー・メイカー、雅なメロディーを白井流に染め上げ、ナイアガラなどとは別なところで、新たなポップスを確立したかったという。白井は『SIDE EFFECTS~恋の副作用(1985年4月)』を契機に、『HELP! HELP! HELP!』(1985年11月)、『NO THANK YOU』(1987年3月)と、“ポリドール3部作”をプロデュースすることになる。
 
また、白井は再現ライブへの抱負も語る。彼からもっと演奏したいという申し入れもあった。これには松尾も遠慮なく、もっと依頼できると大喜び、白井の参加曲が意外に増えるかもしれない。
当日の内容は、まだ、明かせないが、白井以外にもデビュー・アルバムにも参加しているハーモニカの第一人者、八木のぶおのゲスト出演もある。まさに一期一会、松尾ファンならずとも全音楽ファンは必見、必聴のイベントになりそうだ。

同ライブに関連して、『SIDE EFFECTS』の制作時のエピソードなども松尾からも出てくる。秋元康起用は“おニャン子以前”、音楽出版社が同じだったことから彼に歌詞を依頼することになったそうだ。プロデューサー然としたいまとは違い、あくまでも作詞家として、詞を提供してもらったらしい。しかし、「愛しのロージー」や「アスピリン・ノイローゼ」、「5月のSUICIDE」など、名曲が多い。稲垣潤一の「ドラマティック・レイン」とともに秋元康の“初期のいい仕事”ではないだろうか。
 
連日のレコーディング、眠りながらもコーラスを入れた話など、当事者ならではの面白話も聞けた。
 
同作は全曲、プロモーション・ビデオがある。その制作を担当した岩下俊夫は数々のCMを手掛けた映像ディレクターだが、実は宮崎美子が出演した“いまのキミはピカピカに光って”のCMを制作していた。いうまでもなく、同曲は鈴木慶一(歌は斉藤哲夫)である。こんなところでもムーンライダーズと繋がる。
 
プロモーション・ビデオはサンフランシスコで撮影されたものだが、ロージー役のエイプリル・ブレネマンは偶然、現地でスカウトした女性だという。いまは、やりとりはないが、ひょっとしたらFBで劇的な再会なんていうのがあったら楽しいだろう。誰か探し出してもらいたい。
 
プロモーション・ビデオだけでなく、85年12月10日の日本青年館でのワンマン・コンサートの映像も流す。ステージは何故か、ジャングル仕立てで、松尾が木に括りつけられながら歌うなんていうシーンもあった。遊び心溢れる、シアトリカルなライブというのも時代ゆえのこと、“ニューウェイブな時代”ならではだ。
 
ニューウェイブとこじつけるなら昨年2016年11月16日に渋谷クラブクアトロで開催した「ハルメンズXの伝説」ライブは、巻上公一や鈴木慶一、佐藤奈々子、小川美潮、イリヤ、久保田慎吾など、ヒカシューやスパイ、チャクラ、ジューシーフルーツ、8 1/2のメンバーなどが再結集。松尾も一色進とともにシネマとして出演。何か、ニューウェイブを経てるか、経てないかで、大きな違いがあることを意識したという。
 
最近のことなどを聞きつつ、第1部の勝手にシリーズではないが、藤本が第1部に取り上げたアーティストや楽曲に関連して、“当て嵌まる”松尾曲を紹介。
 
「グッバイ・ガール」(『BRAIN PARK』2000年3月)、「瞳の中のラビリンス」(『PASSION GLORY』2000年12月)、「僕が蒸気のようにとろけたら」(『HELLLO SHAKESPEARE』2002年)、「SUNFLOWER」(『SPIN』2004年)、「太陽が泣いている」(『松尾清憲の肖像-ロマンの三原色』2007年)、「何%チョコレート・ラブ」(『チョコレート・ラブ』2010年)「WING」(『ONE MORE SMILE』2011年)など、“ストレンジ・デイズ5部作”を中心に音源を流す。
 
また、最近のバンドで松尾と通じるバンドとして以下のバンドを紹介もしている。
 
★The Lemon Twigs - These Words
https://www.youtube.com/watch?v=LncJE2otRVA
 
The Lemon Twingsは当日、実際は流してないが、予め候補に上がっていたもの。時代や国籍を超え、共振していく、コンテンポラリーでインターナショナルな音楽性を再確認できるだろう。
特にThe LemonTwingsは来日公演も実現していて、大型レコ―ド店でも軒並みレコメンドしている逸材である。機会があれば、是非、聞いてみて欲しい。
 
と、ここで、1時間30分が過ぎる。そろそろ時間切れか。いろいろ聞きたいことはあったが、第2部は終了となる。再現ライブ以外は現段階で具体的なことを発表できずだが、意外なことに、ソロになってからは鈴木慶一との仕事がないので、彼との共演を望んでいるという。実現したら面白いものになりそうだ。
 
セットチェンジ(!)後、第3部である。急遽、決定し、直前に告知したミニ・ライブだ。エムズ・カンティーナのピアノに座り、弾き語りが始まる。選曲は予め、スタッフにリクエストを取り、それを演奏することになっている。
 
前沢はデビュー・アルバムに収録され、ピーター・バラカンが作詞した「TEA FOR YOU」、藤本はアルバム未収録の「エッフェルのように」、私は甲斐バンドに歌詞を提供した「レイニー・ドライブ」をリクエストしていた。「TEA-」は、イントロに「カレー・イン・ザ・ライフ」(松尾清憲+本秀康『チョコレート・ラブ』収録)を歌って、「TEA FOR YOU」に繋ぐ変則バージョン。「TEA――」にインド人がレコーディングに参加したいきさつを語り、カレー風味をまぶす。タンゴ風味の「エッフェル――」はアルバム未収録、未発表曲で、演奏されたこともほとんどないという幻の名曲。洒脱さを増す。「レイニー――」は甲斐バンドから歌詞の依頼がきたことに松尾は驚いたというが、曲そのものが松尾風のものなので、詞だけでも松尾でなければまずいと、依頼したのではないかという意外な事実(あくまでも推測!)も披露。
 
ミニ・ライブといいつつ、ちゃんと解説もあるので、なんだかんだと、30分近くかかる。松尾のピアノでの珍しい弾き語り、これを聞けた方は本当に貴重ではなかっただろうか。

演奏終了後、前沢、藤本、松尾ともに壇上に上がり、挨拶をする。「レイニー・ドライブ」は、本来であれば、福岡出身の松尾に博多時代のことも聞きたく、敢えてレア曲をリクエストした経緯を伝える。実は、あまり松尾に博多色はないが、昨年、発売された博多ロック評伝の決定版「博多ROCK外伝」にも松尾は登場し、コメントもしている。そんなこともいろいろ聞きたかったが、それは、また、いつかになる。
 
実は同質問に限らず、他にも聞きたいことがいっぱいあったし、用意した映像もほとんど紹介しきれていない。まだまだ、ネタや素材はある。次があることを祈りつつ、ステージを去ると、なんと、会場からアンコールの拍手が起こる。
 
松尾がステージに再登壇し、ピアノに向かう。アンコールなど、予定外のこと。嬉しいハプニングである。弾き出したのは「愛しのロージー」。突然のサプライズ&ハプニングに会場も笑顔と歓声に溢れる。「愛しのロージー」で始まり、「愛しのロージー」で終わる、愛しくも至福の3時間30分ではないだろうか。当初、“本人に直撃する150分(2時間30分)!”だったが、気づけば“本人に直撃する210分(3時間30分)!”と、大幅延長。楽しいのだから仕方ない。皆様のリクエストがあれば、次もあるかもしれない。きっと、私達は戻ってくる――。