THE ROOSTERSの“第二章”は「フジロック」から始まる! | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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日本武道館や東京ドームなど、“ロックンロールのビッグスター・ゲーム”とは無縁の孤高のロック・バンド――かつて、ルースターズをそう評したことがある。

確かに、アリーナやスタジアム・クラスでのワンマン・コンサートは開催してないし、また、多数のバンドが出演するフェスティバル形式のイベントに出ることもあまりなかった。徒党を組むことなく、一族郎党を引き連れることもない。まさに唯我独尊。ルースターズを語る時、“孤高”という言葉が相応しい。

しかし、ルースターズの“夏のツアー”を体験し、そんな看板をそろそろ、下ろすべきと感じないわけにはいかなかったのだ。


彼らのFacebook Pageには、この夏、愛知・名古屋、北海道・岩見沢、新潟・苗場スキー場でのコンサートが告知されていた。

開催日程や走行距離、演奏時間を勘案し、名古屋のクラブクワトロの公演を見ることにした。その時の衝撃はすでにブログに書かせていただいたが、それを見た彼らのマネージャーから“GREEN STAGEでなければ、味わえないものがあります”と、悪魔(天使!?)の囁き(誘惑!?)があったのだ。

そんな言葉をかけられたら、行かないわけにはいかない。週末なので、日程調整はなんとかなるが、長生きは節制の賜物ゆえ、齢50過ぎの私に真夏の野外コンサートという過酷な状況に耐えられるか、それにフジロックは今年で第18回になるにも関わらず、恥ずかしながら初体験という不安も抱える。しかし、そんな暗雲を振り払い、苗場へとハンドルを切り、フルスロットルで飛ばす。行くしかないだろう。


ルースターズは、新潟・苗場スキー場で開催された「FUJI ROCK FESITIVAL’14」の3日目、7月27日(日)のGREEN STAGEに午後5時30分過ぎに登場する。

“フジロックはどっかで雨が降る”といわれるらしいが、案の定、1日目、2日目と熱中症が出そうな好天(というには酷暑)にも拘らず、3日目は朝から雨。最近のゲリラ豪雨に慣れたせいか、お湿り程度にしか感じない降りで、途中、止んだりもする。彼らが登場する頃には山を霧が駆け上り、まるで“霧の8マイル”か、“箱根アフロディーテ”か。


定刻の5時30分を少し過ぎた頃に、彼らがステージに現れる。いうまでもなく、大江慎也(ヴィーカル&ギター)、花田裕之(ギター&ヴォーカル)、井上富雄(ベース)、池畑潤二(ドラムス)の“ORIGINAL 4”である。

「TEQUILA」、「LEATHER BOOTS」と、一気呵成に畳み掛ける。その勢いは、まさに今を生き、歩むバンドの生々しさを醸し、クアトロでも感じたように情緒的な感傷も吹き飛ばす。

そして、「CASE OF INSANITY」、「Rosie」と緩急をつける。心憎いペース配分である。大江のヴォーカルも性急さだけでなく、柔軟さも獲得。歌手としての振幅と成長を改めて見せつける。

元々、卓抜した演奏者であったが、さらに揺るぎのない技巧と味を併せ持つ“ヴィルトゥオーソ”(優れた演奏技巧をもつ音楽家。名人)の領域に達し、その成長とともに大江を始め、各メンバーも歌手として、滋味を増して、いい意味で常人には辿りつかないところまで来ている。

花田のヴォーカルで、ドクター・フィールグッドの「She Does It Right」がカヴァーされる。ルースターズ解散後はヴォーカリストとして、フロントで歌ってきただけのことはあるだろう。

「Do The Boogie」から「Let's Rock」へ、珠玉とでもいうべきブルース・ナンバーと、軽快に疾走するロックンロール・ナンバーが続く。

大江はほとんどMCをすることはないが、時々、発せられる嬌声は、思いが先走り、言葉が追い付いてこない、何を言っているか、さっぱりわからない。しかし、それも彼らしくもあり、微笑ましくもあるのだ。

「ニュールンベルグでささやいて」では井上がスラップ・ベース(ある種の世代にはチョッパー・ベースといった方がわかりやすいだろう)を弾きだし、オリジナルにはない色を加える。オリジナルそのものも多彩な音のつづれ織りのような構造を持つが、過不足なく4人で再現しつつ、前述通り、2014年という今を刻み込んでみせる。

同曲から一転、ボー・ディドレーのナンバー「Mona」を決める。ロックンロールとブルースの架け橋となったと言われるボー・ディドリーだが、一点の曇りもないアーシーなナンバーに仕上げる。

そして、ファンの間から名曲とされる「Venus」。ルースターズのサイケデリック期を代表するナンバーだろう。幻想的な曲調は、まさに彼らならではのもの。ビート・バンドの一言では括れない奥深さ。底なし沼のようだ。その音と歌は幾重にも連なる重層的なのである。

大江のヴォーカルも不安定さを通り越し、たゆとうような浮遊感がある。菊こと、柴山俊之の文学的な詩と相まって、当時、彼らが極めていたものに辿りつこうとしていた瞬間であり、それが図らずもその瞬間は更新された。この世界観を描き出すバンドは、他にいるだろうか。

「Sitting On The Fence」、「恋をしようよ」、「C.M.C. 」と、いずれもルースターズ・クラッシックで、最後の波状攻撃を掛ける。その破壊力たるや、凄まじい。「Sitting On The Fence」は自らの“狂気”を飼いならしつつ、“観察”している様は充分に事件性を帯び、「恋をしようよ」の“やりたいだけ”という“ROCK ME BABY”にも通じる猥褻で直截な表現は、草食化が叫ばれる現在に必要なラブ・ソングであり、「C.M.C.」は、“祝日のサマービーチに空からミサイルが落ちてくる”というアイロニカルな内容は、まさに現在の状況とも被る。彼らの歌の世界そのものも古色蒼然となることなく、色鮮やかに光輝く。ルースターズの音楽が現在進行形であることを改めて、感じないわけにはいかない。いま、聞かなければならない歌なのだ。

およそ1時間、疾風のように現れ、去って、霧の中に消える。そんなロックンロール・ライダーである。

アンコールを求める拍手や歓声はなりやまないが、移ろい、流離うような名曲「GIRL FREND」がオーディエンスの興奮を静かに沈めるかのように流れる。


改めて、このステージを見れたことを嬉しく思う。長生きはするものだ。自ら車を駆って来た甲斐があるというもの。マネージャーの悪魔の囁きは、まさに天使の誘惑であった。

彼らをこんな大きい会場を見るのは勿論、初めてのこと。また、多数のバンドが参加するフェスティバル形式のイベントで見るのは、おそらくモッズやロッカーズ、シーナ&ザ・ロケッツなどと共演した1981年6月の東京・虎の門の久保講堂以来かもしれない。


武道館やドームと無縁どころか、大自然に囲まれた巨大なステージに、実に彼らは映える。ルースターズというと、ライブハウスやコンサート・ホールで見慣れてきたせいか、そんなスケールが相応しいと思っていた。ところが、彼らはその壮大なロケーションにひるむことなく、堂々と使いこなす。

4人がアーティストとしてキャリアを重ね、数多の大舞台に立ってきたという経験が各人そのもののスケールアップをさせているのかもしれない。武道館やドームと無縁などという言葉が相応しくなくなっている。



また、今年のフジロックのGREEN STAGEのオープニングを飾るROUTE 17 Rock ‘n’Roll ORCHESTRA(ルート17ロックンロール・オーケストラ)には、昨年に続き、井上と池畑、花田が参加し、ハウスバンドとして、仲井戸“CHABO”麗市、甲本ヒロト、トータス松本、TOSHI-ROWの歌を支える。そのTOSHI-LOWがアマチュア時代に歌ったフェバリット・ナンバーとして、ルースターズの「Leather Boots」をカヴァー。彼はリスペクトを込め、軽快にシャウトする。

そして、初日のRED MARQUEEはThe Birtdayがトリを飾る。いうまでもなく、同バンドのチバユウスケ、クハラカズユキは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの元メンバーだ。

ミッシェルガンは1999年4月にリリースされたルースターズのトリビュート・アルバム『RESPECTABLE ROOSTERS -a tribute to the roosters- 』にも参加している。The Birtdayは、ルースターズとも因縁浅からぬバンドである。そのThe Birtdayのステージを池畑が見守っていたのだ。


さらに井上と池畑は苗場食堂で、初日から最終日まで、苗場音楽突撃隊として、鳥羽一郎(!)を始め、dipのヤマジカズヒデ、MO’SOME TONEBENDERの百々和宏、トータス松本、TOSHI-LOWなどとセッションを繰り広げる。


彼らに限らず、“ルースターズ愛”を語るバンドは数多い。孤高のバンドだったのが、いつしか、数多の尊敬と愛情を集め、彼らが歩んできた道なき道には路ができていた。ルースターズとしての当時を知るものだけでなく、当時の活動を知らないものからも愛され、敬われている。



知らぬ間にルースターズがこの音楽界に大きな存在であることを再確認させられる。4人を核とした相関図やバンド・ツリーなどを書けば、さぞや、壮大なものになるはず。もし、彼らがいなければ、この国は大きな喪失感のようなものを抱いていてしまうだろう。


ルースターズは10年前、2004年のフジロックで、突如、復活して解散ライブを行い、昨2013年のフジロックではROUTE 17 Rock‘n’Roll ORCHESTRA(ルート17ロックンロール・オーケストラ)で、「リトル・レッド・ルースター」のリフに合わせて大江慎也が登場。黒のスーツに蝶ネクタイの大江がギターを手にして、「ロージー」を含む3曲を披露している。

そして、今年のフジロックでのGREEN STAGEでのライブ。その数年前から彼らは蠢きだしていたが、フジロックというものに縁がある。彼らが所属していたSMASHが主催するというフェスということもあるが、フジロックに“タグづけ”されているような気がしてならない。勿論、いい意味である。

仮にルースターズの第一章が2004年のフジロックで終わったとしたら、彼らの第二章は2014年のフジロックから始まるのではないだろうか。10年前はメンバーが黒のスーツ姿で登場、何かが終わるようなセレモニーめいたものを思わせたが、今年はお揃いではなく、思い思いのスタイルをしている。変に終焉めいたものなどはどこにもない。


“夏のツアー”以降の活動のアナウンスはいまのところされていないが、見逃したという方は、いまのルースターズを見ていただきたい。彼らというものがとてつもなく大きな存在であることを改めて確認するはず。


昔のアーカイブを漁るのも悪くないが、いま目と耳と身体に刻み付けておくべきは、ルースターズの第二章である。

どんな第二章になるのか、楽しみでならない。気まぐれな彼らのこと、見るには努力も根気も体力も必要になるかもしれないが、目を逸らしては駄目。エンディング・ノートを書き留めるには、まだ、早すぎる。彼らの旬は、これからだ。




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