長尺で組曲的な「Walking in the Rain with my Girl Friend」を披露。同曲は“一昨年くらいにBAKIちゃんに詩を頼んだら出してくれて、それをメロディに合う様に変えてます”と言う新曲オリジナル。深淵な世界を垣間見れる、聞き応え充分のナンバーだ。音源化を希望する。同曲後、澄田健がロッカーズの穴井仁吉(B)、そしてROSSOなどで知られる佐藤稔Dr)による強者トリオ、MOTO-PSYCHO R&R SERVICEの「Love Planet」、「R&R Future」など、お得意のロックンロールナンバーを畳みかける。べースはヘヴィーながらパーカッションは軽快にロールする。曲そのものは2010年代のものだが、見事に2026年の風を纏うのだ。
4月29日(水・祝)、高円寺「JIROKICHI」で行われた「貝生平2 Play the 60/40」では蜘蛛蜥蜴の武田康男(Vo、G)、仲野茂バンド、G.Dフリッカーズの岡本雅彦(B)、頭脳警察の樋口素之助(Dr)、キノコホテルのマリアンヌ東雲(Kb)とともに、かつて下山淳が弟の下山アキラ(B)、湊雅史(Dr)、スエキチガイ(Vo)、Sun-Chiriko(Kb)などと1990年代に結成した、60/40の「ソフトマシーン」や「サイケリア」、「アゴラドゥラ」など、超絶難曲を披露してみせた。まるでザッパやジェフ・ベック、トッド・ラングレン(ユートピア)を彷彿させる超絶技巧の天下一武道会状態。混沌と混乱を潜り抜ける爽快感と、難解なクロスワードパズルを解いたような達成感を与えてくれる。近頃、体験したことのない快感を味あわせてくれた。音楽性は違えど、村上PONTA秀一や渡辺香津美、坂本龍一、小原礼、ぺッカーなどが暗躍、躍動した、フュージョンとテクノの端境期、かの熱狂と興奮の六本木PIT INでの“KYLIN”や“カクトウギセッション”なども過る。男も女も老いも若きも胸騒ぎ、心躍る音だろう。こんな下山淳が見たかったという人も多いのではないだろうか。貝生比良から貝生平へ、多少の人事異動もあったが、パーマネントなバンドとしての活動継続を望む音楽ファンも多いはず。勿論、休止中(!?)のアカネ&トントンマクートやEli and The Deviantsの活動再開も期待したくなるというもの。
ちなみに澄田は2023年7月のアカネ&トントンマクートの大阪・京都・名古屋という“サマーツアー”の京都「拾得」公演に下山のトラとして参加したこともある。下山と茜、澄田との共演歴は敢えて説明の必要もないかもしれないが、宮田との共演歴を簡単に紹介しておく。宮田岳と下山淳は、アコギなSS(仲野茂+下山淳)で岳竜(宮田岳+澤竜次)と共演、黒い鷲-ZUNOMONO (澤竜次、おおくぼけい、宮田岳、樋口素之助、竹内理恵)でも共演している。また、下山は2024年7月8日(月)、渋谷「 duo MUSIC EXCHANGE」で開催された「七夕忌 PANTA一周忌&頭脳警察55周年記念ライブ」でゲストとして出演。宮田は昨2025年の下山の生誕祭にも出演している。
下山はこの日の開演時間の18時にいつものギターではなく、ひょうたんの形をしたブズーキ(ギリシャ音楽で使用される弦楽器。ギリシャの他にもセルビアやボスニア・ヘルツェゴビナといったバルカン半島の民族音楽、アイルランド音楽などでも使用されている)を持って、ステージに登場する。意外な登場で驚くが、1999年5月29日に同時発売された2枚のソロアルバム『Living On The Borderland』(アコースティックアルバム)と『Monkey Night』(エレクトリックアルバム)に収録された「長い道」(”Living――”にはショートヴァージョン、“Monky――”にはロングヴァージョンを収録)が披露される。続いて、『Living On The Borderland』から「宮殿の大浴場~ハララビ」が演奏される。フォークロアにエスニックをまぶす。ちょっと、サード・イアー・バンドなども思い起こさせる。ブズーキも納得の選曲だ。宮田、茜、澄田は難曲をしっかりとサポートする。
続いて茜がフィーチャーされ、彼女はアン・ピープルズの「A good day for Lovin’」を歌う。ドラマーだけでなく、歌手としての実力を改めて観客に知らしめる。彼女のソウルフルな歌声は特筆すべきものがあり、アカネ&トントンマクートでも彼女のソウルショーは白眉だった。繰り返すが、トントンマクートの再始動を期待するものも数多い。
下山がお馴染み、ジョニー・ウィンターの「Bon ton roulet」をカヴァーする。所沢がテキサス、ニューオーリンズへ――スワンプな香りを会場に運ぶ。澄田の壺を心得た切り込むようなギターの音がこの曲に色どりを加える。二人のギターの絡み(バトル!?)はギター好きには堪らないだろう。
同曲を歌い終えると、本編最後の曲とアナウンスする。歌う前、下山は“67歳、当時はそんな年齢でロックをやっている人なんか、いなかった”と語った。確かにルースターズに参加した時(1983年。当時24歳)には自分が60を過ぎても演奏しているなど、信じられなかっただろう。実際、下山は大病で、長期入院、療養することもあった。彼は“長生きはするものですね”と言いながらも少し寂し気に“歌詞を書いてくれたやつが最近、逝っちゃった”と語る。「Shallow me」を歌い始める。1995年にリリースしたアルバム『Living On The Borderland』に収録されている。作詞は先日、2026年1月6日に急逝したスマイリー原島。下山はスマイリー原島のバンド、アクシデンツのセカンドアルバム『知らない世界』(1985年)をプロデュースしている。複雑な思いを抱きながらも彼への感謝、追悼を込め、見事に歌いきった。同曲を終えると、スタッフの合図でクラッカーからステージへテープが弧を描く。HAPPY BIRTDAY――バースデイのサプライズ演出である。音も火も出ないが、極彩色のテープが客席とステージを結ぶ。実はスタッフは演者には内緒で開演前に客席にクラッカーを配り、合図とともに投げ入れてくれと仕切っていた。ささやかだが、思いやりの籠ったプレゼントだ。下山は照れ臭そうにしているが、笑顔が零れる。メンバーは一端、ステージを掃ける。その間、スタッフはテープを回収し、会場に迷惑を掛けないように対応する。思いやりなどと言うと、気恥しくなるが、分断や憎悪が溢れる世界でこんな気遣い、やりとりがいま、必要ではないだろうか。
会場のアンコールの拍手と歓声に促され、メンバーはステージに戻って来る。下山は下山淳とホッピー神山によるユニット「RAEL」(ラエル)唯一のアルバム『Birth Of Monsters』(1990年)に収録された「Sun,Rains & Radio」を披露する。超レア曲(と、会場が認識していたかは不明!? 私も「RAEL」のアルバムは当然、聞いているものの、曲名などはすぐに出てこなかった。申し訳ない!)の蔵出しに観客は歓喜する。
再び、コードはGと確認後、ニール・ヤングの「Only love can break your heart」を演奏する。同曲はニール・ヤングのサードアルバム『AFTER THE GOLD RUSH』(1970年)に収録された名曲で、シングルとしてもリリースされている。同曲に限らず、下山淳や花田裕之などのライブではニール・ヤングの曲は何度も歌われている。ある世代のアンセムといっていいだろう。年寄りと言われればそれまでかもしれないが、その歌は人の頑な心を溶かし、凛とさせると同時に優しくもさせる。当然、彼らの歌にもそんな効果がある。「Only love can break your heart」には“Yes, only love can break your heart(そう 君の心を壊すのは 愛だけだ”というフレーズがある。その言葉を口ずさんでくるだけで、優しい気持ちになる。勿論、全部を訳すと、前後の歌詞からいろいろ意味もかわってくるかもしれないが、何某かの効果(ご利益か!?)がありそうな気がする。下山が時々、歌っているニール・ヤングの「HARVEST MOON 」(1992年にニール・ヤングがリリースしたアルバム『HARVEST MOON』 のタイトルトラック)とともに最高の“締め”曲ではないだろうか。