『婚期逃したら婿が来た』のちょこっと続きです。
年の差で社会人パラレル。
フラれ続けた果てに生涯独身誓った系年上キョコさんと、押し掛け女房ならぬ押し掛け旦那な年下蓮です。
目が覚めたらそこは、知らない部屋の知らないベッド。布団を蹴飛ばす勢いで飛び起きた。
「こっ、ここどこ?」
昨日は最後の彼氏にフラれて、志を新たに生きると決め、会社に出勤したはずなのに。
疑問符を浮かべていたら、ドアが開いた。入ってきた長身のイケメンに、あまりの衝撃に飛んでいた記憶が舞い戻ってくる。
「つっ、敦賀くん!?」
「キョーコさん!よかった、目が覚めたんですね」
なぜかその秀麗な面に煤を付けて、敦賀くんが駆け寄ってくる。
「天宮先輩から聞きました。今、住んでるマンションが改装工事で宿無しなんでしょう?泊まる所を探している言っていたので、俺の家に運ばせてもらいました」
いくらでも居てください、と笑う敦賀くんに頭痛がする。
あの後輩はまた余計なことを!
「つ、敦賀くん。それ天宮さんの嘘だから、私帰ろうかなって……」
「そうだったんですか?あ、でも、それでも居てください!居てほしいんです。俺、キョーコさんとこうして一緒にいるの、夢見てたんですから」
ぎゅっと手を握られながら至近距離で微笑まれる。
天宮さんの言葉を肯定したくはないけれど、この近さで改めて見ると敦賀くんは、確かに私の好みの顔をしている。すっと通った鼻筋とか、少し切れ長の目とか、薄めな唇とか。
そんな顔に、頬染めと笑顔のオプションが付いていてはたまったものじゃない。
気がついたら頷いていて、敦賀くんはにこにこ嬉しそうに笑っていた。
「、っと……顔に何か……焦げ?みたいなの付いてるけど、どうかしたの?」
「あ、付いてます?もう夜なので、キョーコさんにご飯作ろうとしたんですけど……」
形の良い眉が八の字に下がる。肩まで下げて頼りなげに萎む様子に、思わずきゅんとしてしまう。
「キョーコさん……俺、仕事はできます。キョーコさんが言った高収入はクリアできると思います。でも、家事があまり上手くできなくて……」
あろうことか、敦賀くんの頭に、へにょんと垂れた犬のような耳が見える。くるりと巻いた尻尾も。
「もちろん上手くなるように努力します!だから、だから……俺をあなたの、夫にしてくれませんか?」
ぎゅんぎゅんっ!
きゅんじゃ足りないくらいに胸が鳴る。ドキドキする胸を押さえて、私はいつの間にかベッドに手をついて乗り上げてきていた敦賀くんに、こくこくと頷いた。
「本当ですか?キョーコさん……嬉しいです。初めて会った時からずっと、あなたが好きだった……」
ギシッとベッドのスプリングが軋む。近づく敦賀くんの顔に、私は目を閉じた。唇の触れあう感触と、肩を抱く手の熱さに体の奥が反応した。
あんなにも、もう恋愛事なんてごめんだと思っていたのに、甘い誘惑にあっさり乗る自分が嫌になる。だけどどこかで諦めていた。
どうせ、私を知るにつれて離れていくに決まっている……。
それが大きな思い違いだということに気づくのは、もう少し先の話。
end.