「沈黙 立ち上がる慰安婦」(2017)

 

元慰安婦たちの闘いを捉えたドキュメンタリーをU-NEXTで観ました。初見。

 

 

監督は朴壽南。予告編はコチラ

 

いわゆる"慰安婦"にさせられた女性の方々の苦闘を記録したドキュメンタリーです。劇場公開日は2017年12月2日。1994年、若い人でも70才手前になっている15名のハルモニ(おばあさん)たちが、日本政府に謝罪と補償を求めて来日します。戦時中の"慰安婦"に関して、戦後に日本軍の関与と強制性を認めて謝罪したものの、個人補償は1965年の日韓基本条約にて解決済みという姿勢を日本政府は変えませんでした。沈黙を保っていた被害者の方々は1991年頃から韓国の支援団体に所属して国家賠償を求める裁判活動を行っていましたが、国家間のしがらみもあってなかなか進展しない状況を打破すべく、被害者当人が主体となって運営する『被害者の会』を発足します。そして、「慰安婦は公娼だった」という日本の政治家の発言で怒りを爆発させた会員たちが「天皇に謝罪をさせて、日本政府の公式の謝罪と国家賠償を首相に直訴しよう」と来日したわけです。彼女たちが国会前に座り込んだりしているのは当時のニュースで見た記憶がうっすらとあります。

 

本作の監督である在日朝鮮人2世の朴壽南(パク・スナム)は、日本の市民のカンパを募って発足した会で、来日した彼女たちを支援する活動を開始します。同年6月に社会党の村山富市が首相に就任して、事態が好転するかと思いきや、国家補償の代替措置として民間の募金で被害者へ支給する"民間募金構想"を発表。つまり、国としての公式謝罪や賠償はナシで、民間人の有志からカンパしたお金を払うから、これで勘弁してほしいという施策です。これでは、"慰安婦"という名の公娼で強制的に働かされた程度の公式事実のままで、工員などの違う仕事ができると騙されて日本兵に暴力で監禁されて無理やり娼婦として働かされた性暴力の事実が無かったことにされてしまいます。ハルモニたちは反対の姿勢を貫いて、翌年以降も数回来日。記者会見を通して政府への直接交渉を、各地の集会では自身の体験を証言する地道な活動で正当な被害の回復を切実に訴えていきます。

村山首相の政策で実現した"国民基金"は、医療福祉費として約300万円を直接被害者へ支給することで合意されました。ハルモニたちはいったんその金を受け取りつつ、法的責任を認めるまでは引き続き闘う考えを示し始めます。すると、国民基金の推進側はハルモニと個別接触。お金をもらった後はもう闘いをやめてくれるようにと、日々の生活もままならない彼女たちを1人ずつ切り崩していく作戦に出ます。そして、日本は非公式に被害者メンバーの数名を非公開で集合させて、一時金を支給します。一致団結していた被害者の会のハルモニたちに亀裂が生じていって・・・といったところまでが監督が撮影する映像で綴られて、2016年現在も問題は解決しないまま、被害を訴えていたハルモニたちのほとんどはすでに亡くなっているということを伝えて映画は終わりました。

 

映像に残された当事者たちの肉声がグサリを突き刺さります。アラサーの頃に沖縄に連れて来られて、爆撃で他の慰安婦が死んでいく中、たった1人生き延びた戦後もずっと沖縄で暮らし続けて沖縄で孤独死した人。10代の頃に集団で満州に連れて来られて、力ずくで慰安婦をさせられた戦後に帰国するも、当時のことが誰にもいえずに数十年を過ごしてきた人。戦後に韓国へ戻って家族と平穏に暮らしていた頃、慰安婦時代の同僚と偶然出会って、その後にこっそり密会して抱き合って慰め合った人たちなどなど。フィリピン戦地で慰安婦をさせられていた人や、日本人の当事者として当時の現場の真実を正直に告白する元軍医の人の姿もありました。活動を支援する文化人として住井すゑも出演。本作のプロデューサーは監督の娘で、忘れ去られようとしている戦争のツライ記憶を監督と二人三脚で映像に残していく活動の様子を追ったドキュメンタリーは、「よみがえる声」という別の新作映画として、現在各地で公開されているようです。