「エストニアの聖なるカンフーマスター」(2023)

 

メタルとカンフーに魅せられて、なぜか修道僧になる男の話をU-NEXTで観ました。

 

 

監督はライナル・サルネット。予告編はコチラ

 

1970年代のお話。ソ連と中国の国境警備エリア3人のカンフーの達人が出現。空を自由に飛び回って、ラジカセからブラック・サバスの曲を流しながら、警備員を次から次へと撃退。警備員は全滅かと思いきや、なぜかラファエル(ウルセル・ティルク)だけが生き残ります。彼の前にヌンチャクを置いて去って行った達人たち。その日から、黒い皮ジャンに身を包んでカンフーを愛する男に生まれ変わったラファエル。とはいえ、自動車修理工場勤務の冴えないあんちゃんでしかなく、カンフーもヘッポコで、ケンカしてもボロ負けです。そんなある日、山奥の修道院を偶然見つけて華麗にカンフーを操る修道僧たちと出会います。即座に入門を志願するも門前払い。しかし、彼がお祈りしていた聖母マリア像の目から涙が流れる奇跡目の当たりにして、ラファエルは長老(インドレク・サムル)から入門を許されます。

 

ラファエルをずっと1人で育ててきたオカンは出家に大反対。ラファエルに気があるリタ(エステル・クントゥ)も未練がある模様。でも、カンフーの達人になりたい一心のラファエルは修道院の門をくぐります。ストイックな修道僧の中で、破天荒なラファエルは浮きっぱなし。長老からラファエルの指導係に任命されたイリネイ(カレル・ポガ)も、ピュアなのか、アホなのか分からないラファエルの言動に頭を悩ませます。そんなラファエルがたまに奇跡を起こすもんですから、イリネイは自分の聖人としての資質に疑問を持つようにもなります。その後も修道院にオカンやリタを連れ込んだりして、はた迷惑な行動を繰り返して徐々に調子に乗っていったラファエルですが、聖なる力を失ってしまって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Nähtamatu võitlus」。エストニア語で"見えない戦い"の意味。ポップカルチャーや宗教を自由に享受できないソ連占領下時代のエストニアを舞台にした脱力系コメディ。カラフルな色合いもポップなので、ゆるーい展開でもずっと観ていられます。ブラック・サバスの音楽はインパクト重視、カンフーも見映え重視で両方とも笑いのダシに使っているので、作り手からはメタル愛、カンフー愛を感じませんが、イジリ方のさじ加減に憎めなさがアリ。監督のコメント通り、修行シーン動きのギミックの数か所に「南北酔拳」(1979)からのイタダキが散見されました。音楽は日本人ミュージシャンの日野浩志郎。アジア人音楽家を探していた監督の知人ルートで生まれた縁だとか。教訓めいた風でもあり、そんなことはどうでもいいようでもある不思議な映画でございました。