山を登るクリント・イーストウッドの映画を観ました。
監督はクリント・イーストウッド。予告編はコチラ。
スイスのチューリッヒでおっさんが何者かに殺害されます。その頃、アメリカの大学で美術の教鞭を取っているヘムロック教授(クリント・イーストウッド)が組織に呼び出されて、チューリッヒで起きた事件の実行犯2人の殺害を依頼されます。彼は諜報機関に属していた凄腕の元殺し屋。引退していたため、ボスのドラゴン直々の指名を断るつもりでしたが、「闇ルートから入手している著名絵画コレクションを国に知らせて没収させるぞ」と脅されて、素性が分かっている片方の犯人の殺害だけを渋々了承することに。さっそく現地に出向いて暗殺に成功するヘムロック。その後、ドラゴンが密かに送り込んだ美人局のジェマイマ(ヴォネッタ・マギー)のハニートラップにまんまとハマって、仕事の稼ぎを全部奪われてしまいます。ドラゴンに抗議に行くと、もう一人の殺しを強要される始末。ただ、犯人に殺害された男が戦争中の命の恩人であった諜報員アンリであることと裏切者のマイルズ(ジャック・キャシディ)が事件に絡んでいることを知って、さらに上乗せした報酬を条件に仕事を受けます。
殺しの標的は片足が不自由な山男で、アイガーの北壁に登山する国際プロジェクトに参加することを聞かされたヘムロック。登山仲間の友人ベン(ジョージ・ケネディ)がいるアリゾナに向かい、鈍った体を鍛えるべく登山トレーニングを開始。すると、そこにマイルズが現れて「真犯人の情報を教えるから、自分の命を助けて欲しい」と取引を持ちかけられます。しかし、突然襲ってきた女性スタッフのジョージを仕向けたのがマイルズだと知って、マイルズとその用心棒を殺害します。そして、無事トレーニングを完了したヘムロックはベンと共にスイス入り。多国籍の登山チームの4人と合流。犯人が分からないまま登山を開始するものの、登山家の中に足を引きずる者がいません。さらに、登頂が不可能とされているアイガーの北壁を制覇することはやはり困難で、一人が死んでしまったため、残りのメンバーはやむなく下山することを決意。無事に生還する確率はわずかという悪天候の状況下で、一人の男が足を引きずっている姿を見たヘムロックは・・・というのが大まかなあらすじ。
原題は「The Eiger Sanction」。007パロディのトレヴェニアンの原作小説を映画化。昔、水曜ロードショーで日本語吹替のカット版を観て以来。クリント・イーストウッドは知的で肉体派でもある、女好きのアラフォー大学教授。女学生の誘惑こそお断りしますが、ジェマイマ(黒人)、登山トレーニングスタッフ(ラテン系)、人妻(白人)などと人種を問わずに寝たり寝なかったりしながらミッションを遂行していく役どころ。最初の暗殺のモタつきぶりを見るかぎり、それほど凄腕に見えません。わりとすぐに見つかりそうな真犯人を特定できない諜報機関の無能ぶり。その真犯人が特定されてない段階で、仕事しづらい登山中に殺しを実行させようとするシチュエーションも不自然。でも、設定上のアラを補って余りあるのが、大自然をバックにした登山シーンの素晴らしさ。スタントマンなしで挑んだというリアルな映像が高所恐怖症の私の下半身をゾワゾワとさせてくれます。西部劇の舞台となったモニュメントバレーでのトレーニングパートと(死者も出た)アイガー現地でのスリリングな登山シーンが最大の見どころ。絶景にもほどがあります。
IMDBトリビアによると、最初はポール・ニューマン主演で企画されたとのこと。主演を引き受けたイーストウッドはドン・シーゲルに監督を断られたため、自分で監督することになったとか。音楽は「ジョーズ」(1975)を担当したばかりのジョン・ウィリアムスで、これが唯一のイーストウッド作品でのお仕事。共演のジョージ・ケネディは前作「サンダーボルト」(1974)に続いての出演。曲者のマイルズを演じたジャック・キャシディは露骨なゲイ設定で、屈強な愛人のボディガードもろとも殺されてしまいます。「ローハイド」で共演以来の親交があるグレゴリー・ウォルコット(諜報機関の手下役)の出演パートは全部蛇足。ボインが魅力的なジョージ役の女優ブレンダ・ヴィーナスは年老いた作家ヘンリー・ミラーの愛人として有名だった人。たぶんシリコンか何かを入れた偽乳だと思います。そこに山があると登ってしまうイーストウッドはアイガー登頂には失敗しますが、彼女のシリコンバレーの登頂には成功。短パン姿のイーストウッドも珍しく、スパイスリラーの魅力が乏しいにもかかわらず、満足感はたっぷりの作品でございました。