「ベラクルスの男」(1968)

 

リノ・ヴァンチュラが殺し屋としてメキシコに出張する映画を新宿のK's cinema(35mmフィルムでの上映)で観て来ました。初見。

 

 

監督・脚本はジョゼ・ジョヴァンニ。予告編はコチラ

 

時は1938年。メキシコのベラクルスに船から降り立った男(リノ・ヴァンチュラ)路面電車トラック貨物列車を乗り継いで、メキシコ軍の警備を掻い潜りながら南部の村に到着。地元民ホアキンの手引きで民家を装ったアジトの2階に入っていくと、革命派の幹部であるカルベス軍人のランサが待ち構えていました。そして、初代大統領の孫だというミゲル(グサヴィエ・マルク)もいます。は独裁政治で評判の悪い現大統領を暗殺するために革命派がわざわざフランスから呼び寄せた殺し屋で、"禿タカ"の異名を持ちますが、ハゲてはいません。禿タカの暗殺現場に立ち会わせたミゲルを暗殺者本人だと装って、革命の立役者として次期大統領に擁立するのが革命側のシナリオです。暗殺の成否に関わらず、禿タカを抹殺しようと企んでもいます。なぜ田舎の村に来たかというと、大統領が囲っている愛人が住んでいる邸宅があり、国内視察のついでに大統領が訪れるタイミングで暗殺するために、愛人宅のそばにある民家をアジトにしたわけです。

 

到着早々、前金で2万ドルを要求した禿タカ。彼にとっては革命などどうでもよく、報酬に見合った仕事をクールにこなすだけ。そんな不遜な程度を許せない同志の一人が禿タカに盾突く場面では、腕っぷしで黙らせます。カルベスたちが去ってからは、青臭い理想論を語るミゲルと、彼をガキ扱いするリアリストの禿タカ、革命派との連絡係となる地元民ホアキンの3人だけで、大統領が来る2日後までグダグダと民家で時間を潰すことに。で、いよいよ決行当日。当初は愛人宅を去るタイミングで狙撃するプランでしたが、大統領警護で配置されていた軍人が、1階で禿タカたちの食事を作っている娘に手を出そうと民家に押し入ってきたため、計画を変更。大胆にも愛人宅に前もって侵入して、大統領が入って来たところをズドンと射殺。その後は予定通り、ホアキンの運転する車で村を出て、別の隠れ家に3人でいったん潜伏。と思ったら、ホアキンがスキを見て姿を消していました。そして、革命派が手配していた軍人たちが禿タカだけでなく、ミゲルまでも始末しようと襲いかかってきて・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Le rapace」。直訳すると、"猛禽類"。同名のセリ・ノワール(暗黒・犯罪小説)の原作を読んだジョゼ・ジョヴァンニが映画化に興味を持って、ジャン=ピエール・メルヴィルに監督を打診。断られたので自分で監督したという逸話があるそうで、めずらしく自著ではない作品を映画化。前半までは決行日までのヒマつぶしタイムがゆっくりと流れて、後半からは予定が狂った禿タカとミゲルの逃避行とバトルが繰り広げられる構成。全く性格の違う二人が無理やり同居させられていがみ合っている前半は、オフビートな可笑しみ要素が多め。二人をアテンドするホアキンのキャラがユニークで、いつも右肩に小さいおサルさんを乗っけている様子「母をたずねて三千里」のアメデオを思い出しました。ボードゲームでホアキンに負けて、サルにもからかわれてブチ切れるリノ・ヴァンチュラもカワイイです。サル以外の動物も登場。愛人宅ではオウムを飼っていて、「大統領バンザイ!」という言葉をレッスン。さらに、までペットにしている愛人。

 

陽気なホアキンも革命派側の人間であり、後半では二人の裏切者として対決するシビアな展開になります。革命派側の裏切りにもブチ切れた禿タカが、軍事政権を築くためにミゲルをダシに使っていたカルベスたちにリベンジを果たそうとするのが後半の見どころ。頼りなかったミゲルも、銃を手に取って戦う男にちょっとだけ変貌します。リノ・ヴァンチュラは動ける肉体と渋さを兼ね備えていた円熟期の男らしさがあります。背後に立たれることを嫌って遠距離の敵も一発で仕留めてるのはゴルゴ13並み。土地勘のない場所なのに、すぐに敵を見つける嗅覚は驚異的。大統領を警護する側も革命派幹部たちもセキュリティがユルユルで、たった一人の殺し屋にコテンパンにされてしまう点もご愛敬。という感じで、暗殺ミッション物としては設定がかなりザツですが、メキシコの景観も画面映えしているし、異国の地で数日過ごして去って行くリノ・ヴァンチュラを愛でるための映画かなと思います。