「なみだ川」(1967)

 

山本周五郎原作の人情モノ時代劇を観ました。初見。

 

 

監督は三隅研次。予告編はコチラ

 

江戸時代末期の日本橋長谷川町が舞台。神経症で仕事を休みがちの彫金師の父新七(藤原釜足)と、長唄を教えているおしず(藤村志保)、仕立て屋のおたか(若柳菊)の姉妹が慎ましく暮らしています。お人好しのおしずとしっかり者のおたかは全く正反対の性格ながら、大の仲良し。二人の悩みのタネは、たまに金をせびりに来て家計を逼迫させている放蕩息子の兄栄二(戸浦六宏)の存在で、二人が結婚できないでいる理由の一つでした。おしずは、ちょくちょく父を訪ねてくる彫金師の貞二郎(細川俊之)にずっと想いを寄せていますが、話しかけることすらできていません。おたかには仕立物納入先の信濃屋の一人息子友吉という相思相愛の相手がいますが、縁談を断り続けています。姉よりも先に嫁ぐことを遠慮しているフシもあり。

 

ここで妹の幸せを願うおしずが動きます。金の無心に来た栄二に十両を渡して二度と目の前に現れないという念書を書かせて、信濃屋の両親に諸事情を打ち明けて説得。妹には、自分も好きな人と結婚することになったから安心して嫁に行ってほしいとウソをついて、縁談をまとめます。急いで話を進める姉の話を訝しんだおたかが貞二郎に姉との縁談があるのかと聞いてみると、そんな話はないと否定されます。姉が自分のためについたウソなので、ウソがバレたと姉が気づいた時に姉を責めないでほしいと懇願された貞二郎。これまでおしずのこと気にかけていなかった貞二郎は、おしずと二人きりで会ってみることにします。妹思いのおしずの人柄に触れた貞二郎は、おしずが愛おしくなって一夜を共にします

 

意中の人と結ばれてウキウキ気分のおしず。ただ、貞二郎がかつてはヤクザ者で、現在も大酒飲みの女たらしであることを知っているおたかは心配でなりません。また、おしずが栄二追放のために作った十両は長唄の生徒である鶴村(安部徹)から用立ててもらっていて、鶴村からは妾になるように誘われていることが判明。貞二郎とおしずの交際を知った鶴村は、オレの女に手を出すなと貞二郎を脅します。それを真に受けてショックを受ける貞二郎。さらに、おたかの結納の日栄二がフラリ現れて、またしても金を要求します。すると、栄二の訪問を予期していたおしずが、前もって買っておいた短刀を握りしめて自分も差し違える覚悟で栄二に襲いかかって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1967年10月28日。山本周五郎原作の『おたふく物語』を依田義賢が脚色した人情モノ。日本家屋ローアングルでとらえた端正なカメラワークには大映時代劇らしい格調を感じます。ストーリーは、純粋すぎて思いつきの行動をするおしずの浅はかな行動が周りを巻き込んで大騒動になっていくドタバタ劇。ただ、おしずの性根の優しさを知ってるので、結局みんなが許してしまいます。で、結果オーライでハッピーエンドへと流れ込む展開に温かい気持ちになれる小品でした。さんまの本場は目黒だと思い込んでたり、知ったかぶりで話す故事・ことわざのワードが全て間違っているという天然ボケを連発する藤村志保。萌えキャラの可愛らしさと、覚悟を決めたカッコ良さと、着物が似合う美しさを振りまく藤村志保の独壇場となっているのが本作の魅力。

 

妹役の若柳菊は、フジサンケイグループ創業一族の出身のゴリ押し女優だったらしく、それほど華がありません。同じ監督・脚本家による「古都憂愁 姉いもうと」(1967)でも、藤村志保と姉妹役を演じているそうです。予想以上に好演だったのは、現代的でダンディな紳士が似合う細川俊之が演じる一本気な江戸前の男。安部徹は人の好い親分かと思ったら、いつもの強欲ジジイだったので妙に安心。藤原釜足はいつもの仏頂面じいさん。戸浦六宏は幕府に反発して国学を普及させようとする活動家の役どころ。当時の学生運動の空気にも重ねているのかも。ほかに、おしずが短刀を買う刀屋の主人役で玉川良一。真顔で人の殺し方を尋ねるおしずに、正しい刀の刺し方を冗談半分でレクチャーします。