「関心領域」(2023)

 

アウシュヴィッツ強制収容所の隣に住む家族のホームドラマをグランドシネマサンシャイン池袋で観ました。

 

 

監督・脚本はジョナサン・グレイザー。予告編はコチラ

 

1945年、ナチスドイツ占領下のポーランド。アウシュヴィッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)は、妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)子供たち収容所のすぐ隣で暮らしていました。壁を隔てた場所では大量虐殺が毎日起きていますが、所長の一家はそんなことはお構いなしと言わんばかりに、川で水浴びをしたり庭の草花を愛でたり、悠々自適でアットホームな生活を送っています。ただ、よく耳を澄ますと、収容所からの銃声や悲鳴が聞こえます。また、所長が捕虜用の焼却炉の話をした後に収容所の煙突から異様な煙が出ていたり、まだ小さい娘が不眠症に悩まされていたり、ヒトラーユーゲントに所属していると思われる息子捕虜の金歯を収集していたりと、ところどころで異常な光景がちらつきます。休暇中に子供と川でカヌーに乗っていると、収容所から流れてきた捕虜の遺体の骨を見つけた所長は所長は、あわてて子供を避難させます。

 

映画は収容所の実態を直接的に描くことはなく、その後も所長一家周辺の日常を映していきます。地元のポーランド人雑用係として当然のようにコキ使いながら、日々の生活で起こるたわいもない出来事をティータイムで会話するナチスドイツ将校の妻たち。庭にあるプールで戯れる子供たちを優しく見守る親たち。所長の妻となった娘の住居に遊びに来て、豊かな暮らしを手にした娘を誇りに思う田舎出身の祖母。といった様子を描きながら、相変わらず、壁の向こうからは銃声や悲鳴がうっすらと聞こえています。やがて、隣で起きてる惨状を窓越しに見てしまった祖母はすぐに帰ってしまいます。一方で、旦那の転勤話を耳にしたヘドウィグは、この地での優雅な暮らしを手放したくないと駄々をこねて、所長一人を単身赴任させようとして・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「The Zone of Interest」。マーティン・エイミスの同名小説が原作。アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞した異色作。隣のホロコーストに関心がないかのように一家が淡々と暮らしている設定を理解していないと、どうでもいいホームドラマを見させられてるとしか思いません。実際、隣の席に座っていた若いカップルの男女は退屈そうな反応を示していました。女の子の方は冒頭10分くらいから爆睡しながら、こちら側に頭を傾けてくる始末。想定外の人物が私の関心領域に侵入してきて、少し迷惑を被りました。スヤスヤと寝ているおばあさんの映像を見ながら、横でもスヤスヤと寝ている女性がいるという貴重な体験。フィックスの映像でとらえた幸せな家庭生活の中にうっすらと同居している"恐ろしい音"に無関心でいるさまを描いているだけというアイデアの一撃が効果的に決まっている映画で、観客側に想像を働かせて観ることを静かに要求してきます。

 

時折挿入される若い女性が、収容所の捕虜たちに食糧をこっそり分け与えるために命を張って行動をしているレジスタンスの一員だということは観終わった後に知りました。終盤にある現代パートの描写にもハッとさせられます。収容所の実態を知る責任者の所長ルドルフ(実在の人物がモデル)はともかく、ユダヤ人が焼却炉で殺されていることを当然のこととして受け止めている妻ヘドウィグ、強制連行された近所のユダヤ人の命のことなど全く気にかけてない祖母など、軍人じゃない人たちも当時の実情に対して罪悪感を持ってない(持たないように情報操作されている)ところが恐ろしく、自分がその立場だったらどうしていたであろうと考えてしまいました。隣の席で最後まで爆睡していて、たまに起きて咳き込んでいた女性にも問いかけてみたいとちょっとだけ思ったりもしました。あと、全然関係ないですが・・・、今から10年以上前、職場のあるビルのトイレでウ〇コをしている時に、隣の個室にいた人が同時間帯に首吊り自殺をしていたことを後で知ることになった経験をふと思い出しました。