「ポトフ 美食家と料理人」(2023)

 

料理シーンに食い入ってしまうフランス映画をU-NEXTで観ました。

 

 

監督・脚本はトラン・アン・ユン。予告編はコチラ

 

19世紀後半のフランス。美食家として名を馳せているドダン(ブノワ・マジメル)には、天才料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)という欠かせない存在がいます。ウージェニーはドダンのイメージしたレシピを完璧に再現する腕前で、ドダンのグルメ仲間の舌を喜ばせています。いつも集まって食ってるだけのおっさんたちがうらやましい限り。20年以上に渡る尊敬すべき料理人と美食家としての関係性だけでなく、一人の女性としてもウージェニーを愛しているドダン。ウージェニーも彼からの度重なるプロポーズを経て、ようやく了承するウージェニー。ウージェニーはたまに体調が優れない時があって、原因不明の目まいに襲われることがあります。

 

しばらくして、ユーラシア皇太子からの晩餐会に招待されたドダンとその仲間たち。豪勢な料理は美味しさこそあれ、物語や美しさを感じないドダンは、『食』の真髄を皇太子に示すために、あえてシンプルな家庭料理である"ポトフ"でもてなすことをウージェニーに相談。しかし、ノリ気だったウージェニーが倒れてしまいます自分の手料理病床にいるウージェニーを励ますドダン。一度は回復したウージェニーですが、次に意識を失った時、帰らぬ人となってしまいます。最愛のパートナーを失って絶望にあけくれるドダン。代わりの料理人を探す気も起きず、ウージェニーとの思い出に浸るだけの日々が続いて・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「La passion de Dodin Bouffant」。"ドダンの情熱"といった意味。原作小説はマルセル・ルーフ の『La Vie et la passion de Dodin-Bouffant, gourmet(ドダンの人生と情熱)』。東京にも店舗を出しているミシュラン三つ星シェフのピエール・ガニェールが料理監修を務めているとのこと。落ち着いた大人のしっとりとした恋愛モノで、ポトフをめぐる料理対決がメインでもなく、料理シーンそのものが主役になっている作品でした。BGMを使わずに自然音だけで料理人の息遣いも添えて、美味しそうな料理丹念に作っている場面が見どころ。詩人のように料理を形容する蘊蓄もそれほど鼻につかず、全くグルメじゃない私ですら美味しそうに感じました。自然光を使った撮影も優しく、穏やかな気持ちになれます。

 

ドダンとウージェニーの関係性を調理食事する二人の様子で見せていて、調理することそのものをラブシーンとして描いている点が面白いです。実生活でもパートナーだったという主演の二人が好演。年を重ねた美しさのあるジュリエット・ビノシュは、後ろ姿でお尻を披露してくれています。また、お手伝いさんが連れてきた姪っ子のポーリーヌという女の子(ボニー・シャノー・ラヴォワール)が三番目に目立つキャラとしていい味を出しています。ウージェニーは彼女に天性の才能を感じて、ウージェニーの死後にドダンのお手伝いとして戻ってきます。妻として好きなのか、料理人として好きなのか、オージェニーに聞かれて、料理人として好きだと答えるドダン。それを聞いてオージェニーが喜ぶシーンがとても印象的でした。