「コット、はじまりの夏」(2022)

 

少女のひと夏の成長を描いたアイルランド映画をU-NEXTで観ました。

 

 

監督・脚本はコルム・バレード。予告編はコチラ

 

1981年の夏。アイルランドの片田舎で畜産業を営んでいる大家族。姉3人、下にも赤ちゃんがいて、もう一人を妊娠中の母、そして、ギャンブル狂いの父と一緒に暮らしている9歳のコット(キャサリン・クリンチ)。無口で寂しそうな表情を浮かべている女の子です。まだおねしょをしてるようですが、子供が多すぎてあまりかまってもらえてない様子。出産を控えた母の負担を少しでも減らすためなのか、コットは夏休みの間だけ、母のいとこの家に預けられることになります。父の車に乗って、自宅から3時間以上離れた場所に着いたコットを出迎えたのはショーンとアイリーンの初老夫婦。さっそくアイリーンはコットに声をかけますショーンは無愛想なガンコ親父風でリアクションなし。ガサツな父が着替え等の入ったカバンを車に載せたまま帰ってしまって、着の身着のままで一人ぼっちになったコット。汚れたワンピースを着ているコットをさっそくお風呂に入れて、お湯でキレイに体を洗って丁寧に髪をといてくれるアイリーン。翌朝おねしょをした時のフォローも優しいです。

 

アイリーンにベッタリのコットは家のお手伝いをしながら、自宅にいる時とは違った穏やかな日々を過ごします。ショーンがコットに声をかけることはありませんが、遊びに来た友人とトランプ遊びをしてる時に笑顔を浮かべているショーンを見て、コットはちょっとだけ和みます。牧場の仕事を手伝った時に行方不明になったことでショーンに怒鳴られるも、翌日、ショボンとしているコットの座っている机にビスケットを1個置くショーン。それ以来ショーンにも懐いたコット。お休みの日、家にあるお下がりばかり着ているのはおかしいだろとショーンに言われて、街にお出かけ新しいワンピースを買ってくれたアイリーン。無口だけど素直でいい子のコットをどんどん愛おしく感じていく夫婦。やがて、二人には幼くして死んでしまった息子がいることをコットは知ります。つらい出来事を思い出してヘコむアイリーンを慰めるショーン。それを黙って見つめるコット。そうこうするうちに、夏休みは終わりに近づいて・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「The Quiet Girl」。"物言わぬ少女"といった意味。自分の家庭を離れた生活をすることで、自己主張の少なかった少女がいくつかのことを初体験して、自我が芽生えていくストーリー。説明セリフはほとんどなく、登場人物の細かい仕草や日常生活の描写で映画内世界を淡々と紡いでいきます。小動物風景の挿入ショットも効果的。9歳の少女の目線で物語は進行して、細かい描写の積み重ねを経て、最後に素敵クライマックスが待っています。いつも大人たちの顔色をうかがいながらボソボソと話す彼女を見ているだけで時間が過ぎるのを忘れてしまいます。演じるキャサリン・クリンチ(撮影当時12歳)はIFTA賞(アイルランドのアカデミー賞)で最優秀主演女優賞を受賞。コットに愛情を注ぐアイリーン役のキャリー・クロウリー、ショーン役のアンドリュー・ベネットも、コットの両親役の民度が低そうなたたずまいもGOOD。英語劇ではなくて、アイルランドの言語のひとつであるゲール語なのも新鮮。静かな感動で包み込んでくれる良質な成長物語でございました。