「辰巳」(2024)

 

ちっぽけな奴らが熱くほとばしってしるノワールをシネマート新宿で観てきました。

 

 

監督・脚本は小路紘史。予告編はコチラ

 

冒頭でヤク中の弟とケンカしている男の名前が"辰巳"のようです。辰巳(遠藤雄弥)は裏社会の組織に属していて、ある日、兄貴分(佐藤五郎)に呼ばれて、同じ組織にいる沢村兄弟が拷問の末に殺した裏切者の遺体安置場所にやって来ます。遺体の指や耳などの部位を慣れた手つきで切除していく辰巳。痕跡を残さずに遺体を後始末するプロフェッショナルで、仕事がとても丁寧です。死んだ男は組織が扱う覚醒剤をちょろまかした罰で殺されたので自業自得とはいえ、すぐに暴走する沢村兄弟には、組織内でも手を焼いている様子。「弟もこうやって始末したのか」と沢村弟(倉本朋幸)に言われて一触即発となる辰巳。弟を殺したらしい辰巳にも得体の知れない不気味さがあり、ただのイケメンではありません。

 

その後、殺された男と共謀していた人物が沢村兄弟の標的になります。その男の嫁が元カノの京子(亀田七海)で、夫の経営する自動車修理工場で働く妹の葵(森田想)を匿うように京子から頼まれた辰巳。相手がヤクザだろうがツバを吐くヤンチャな葵に手こずります。やがて、沢村兄弟に襲撃される夫と京子。それを目撃した葵。たまたま現場にいた辰巳は、葵と瀕死の京子を連れて逃走。その後も、葵の無謀な行動がなんとか事態を丸く収めようと尽力する辰巳の立場をどんどん悪くしていきます。葵を組織に差し出そうとしない辰巳に対して、辰巳を擁護していた兄貴分もかばいきれなくなって、組織と真っ向から対立することになった辰巳と葵の運命は・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は2024年4月20日。組織の金を横領したことがキッカケで追われる犯罪モノの王道的展開。ヤクザ者と女子のバディ物というのもありがち。ただ、乱暴な主人公と無垢な女の子といった組み合わせではなくて、女の子の方が暴れん坊である設定がユニーク。冒頭の拷問シーンからただならぬ空気が流れていて、グッと惹き込みます。えげつないバイオレンス描写がありそうなものの、ナイフを刺したり、切断したりする直接的なグロ描写で釣ろうとせずに抑制している感じ。ガンを飛ばす。ツバを吐く。タバコを吸う。そういった伝統的なヤンキーのマナーに則って、ところどころで開催されるキスシーン一歩手前くらいの接近した顔力対決が見どころの一つでもあります。

 

日本のどこかにありそうな舞台設定。でも、殺風景な場所さえも丹念にロケハンされたことが想像できるくらい、フォトジェニックに映っています。犯罪組織が本業だけでは成立しない世知辛いご時世だからなのか、それぞれの人物が漁業や自動車修理業といったカタギの職業に従事しているところが、現在の日本社会と地続きに思えて妙に生々しいです。今は誰もがカネに困っている状況なんだというセリフが映画内でも何度か交わされていました。そのへんのリアルとファンタジーのさじ加減が独特かも。主人公と弟。京子と葵。凶暴な沢村兄弟。主人公と兄貴分も含めて、登場人物のキャラに兄弟姉妹の関係性が多重に組み込まれています。

 

辰巳を演じる遠藤雄弥の面構えがとにかくヒロイック。特に、顔の右側から撮られた表情がとても画になっていました。脇を固める俳優さんたちの味のある顔立ちとの対比が分かりやすく、主役然としたカッコ良さが際立っています。一貫してクールな辰巳に対して、彼が助ける羽目になる葵を演じる森田想は、辰巳への信頼を強めていくうちに、ときおり可愛らしさを覗かせながら、少しずつ人として成長していく感じが出ていました。全カットへのこだわりや熱量みたいなのが少し力みに感じる部分はありましたが、画面から目をそらすのがもったいないと感じさせる力作でございました。あと、一度食事しに行ったことがある歌舞伎町の「上海小吃」がロケ地になっていて、新宿で観て良かったかも。