「パスト ライブス/再会」(2023)

 

初恋をこじらせた切ない物語をグランドシネマサンシャイン池袋で観てきました。

 

 

監督・脚本はセリーヌ・ソン。予告編はコチラ

 

ソウルに暮らす12歳の少女ナヨンと少年ヘソンは、いつも一緒で相思相愛の関係ですが、アーティストの両親と暮らすナヨンがカナダのトロントに移住することになって離れ離れになります。最後の思い出ということでお互いの母が同行して、デートをする二人。それから12年後。24歳となったナヨン(グレタ・リー)はノラという名前に変えて、ニューヨークで作家を目指す生活をしていました。ある日、父のフェイスブックに娘さんのナヨンに会いたいというヘソン(ユ・テオ)の投稿を見たノラは、ヘソンに連絡します。さっそくオンライン上で再会する二人。ヘソンはソウルで工学を学ぶ大学生になっていました。それ以来、昔を懐かしみながら、いまの暮らしについて頻繁に語り合う遠距離恋愛に近い関係を築くように。

 

直接会いたいという互いの思いがピークに達した時、作家を目指す気持ちに支障が出るくらいになっていたノラが、しばらく連絡を取り合うのはやめようと切り出します。反発しつつも同意するヘソン。1年後にまた連絡しようと誓った約束はうやむやになったまま、12年の月日が経ちます。その間、社会人となっていたヘソンは別の女性との恋愛と別れを経験。ノラは作家養成プログラムで出会ったアーサー(ジョン・マガロ)と結婚して7年が経過。ある日、休暇を取ったヘソンがとうとうニューヨークにやって来ます。目的はノラとの再会。それぞれが別の人生を歩んでいることは承知の上で、24年ぶりの対面を果たした36歳の二人は・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Past Lives」。"前世"という意味。「あの頃好きだった人、今ごろどうしてるのかな」とふと思い返した人がずっと自分のことを思ってくれていたラッキーガールが主人公。イイ男にもなっていて初恋気分が再燃した頃にいったん思いを断ち切って、時が経って平穏な現実を過ごしていた頃に、もう一度生殺しになったままだった淡い感情を再々燃させる展開。作り手が女性なので、女性目線寄りにストーリーは進行します。負けず嫌いの女の子ナヨンに恋する男の子ヘソン。泣き虫の自分を優しく見守ってくれるヘソンがナヨンも好きです。そんな初恋が美化されて増幅していった気分をずっと引きずっているヘソンに対して、新しい国での生活でアイデンティティを再構築して生きてきたナヨン改めノラ。ヘソンほどの未練はないと冷静に思っていたのに、いざ会ってみるとナヨンだったころの自分に少しだけ引き戻されそうになります。

 

一方で、今の自分を受け入れてくれる優しい夫がいるわけで、かつての自分を追い求めている同級生との板挟みになった感情のピークが本作のクライマックス。互いを見つめる張り詰めた数秒間がとても長く感じました。再会したヘソンがノラを見る目つきには好きだという思いがこぼれているのに、もう一歩先には踏み込めない意地らしさがあります。それを感じているノラの方には、いつでも自分のいいなりになってくれる男要員としてヘソンを泳がしてるきらいがちょっとだけありますが、甘い記憶を踏みにじらないように真摯に見つめ返します。運命とか、因縁とかの意味を持つ韓国語"イニョン"を印象的に使った対話や、12年おきの話になっていて、それぞれ年男、年女の時の様子が描かれているのがアジアっぽかったです。上品な色使いの風景描写も丁寧で、段差の多いソウルの路地ニューヨークの観光スポットから、ちょっとした水たまりまでも思い出補正のカラコレが施されていました。二人の空気感がリアルで身に沁みる映画でございました。