「毒舌弁護人〜正義への戦い〜」(2023)

 

香港の歴代興収成績を塗り替えたという法廷映画をWOWOWオンデマンドで観ました。

 

 

監督・脚本はジャック・ン。予告編はコチラ

 

高いプライドがありながら、やる気のなさも見え隠れする治安判事ラム・リョンソイ(ダヨ・ウォン)。曲がったことが大嫌いな性格が災いして、職場で衝突して辞職。知人弁護士の紹介で、50才を超えて弁護士として再スタートを図ります。初めて手掛けた刑事事件は、児童虐待殺人の疑いで逮捕された未婚の母ツァン(ルイーズ・ウォン)の裁判。被害者の少女は生まれつき言葉が話せません。死ぬ直前に一瞬意識を戻した少女が「お母さんは私をぶったことがない」と手話で語った証言から、無罪を確信するラム弁護士。しかし、パートナーである後輩弁護士女性フォン(レンシー・ヨン)に指摘された横着な態度を改善しないで裁判に臨んだ結果、冤罪と思われるツァン有罪となって刑務所行き。自分のミスで一人の人生を狂わせる大失態をやらかしてしまいます。

 

それから2年後。うだつの上がらない弁護士稼業を続けているラム。彼をずっと慕っている"御曹司"というあだ名の後輩弁護士(ホー・カイワ)以外からは見放された日々を送っていましたが、2年前の児童虐待事件の法廷で証言に立った老人が、ツァンを陥れる偽証を行ったことを遺言に残して死んだことを知って、再審を求めることにしたラム弁護士。現在は別の職場で働くフォン弁護士に協力をお願いするも、かつてのラム弁護士の不誠実な仕事ぶりを批判して申し出を却下されます。その後、"御曹司"からラムの意外な一面を聞いて、再度タッグを組んで裁判に挑むことに。ザツな裁判で獄中生活を余儀なくされたツァンも、もう一度だけラムを信じて裁判で闘うことを決意。殺人事件の裏に潜む巨悪と真っ向対立することになった彼らの行方は・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「毒舌大状/A Guilty Conscience」。中国語タイトルは"すごい毒舌"といった意味。主人公はそんなに毒舌ではありませんが、最後の演説でチ○ポを連呼します。4月14日に行われた第42回香港電影金像奨の作品賞を受賞した作品とのこと。裁判中に株価の動きを気にするようなダメ弁護士だった主人公が一人のシングルマザーを有罪にしてしまって、2年後無罪にできるチャンスをもらって心を入れ替えて奮闘する物語。死んでしまった少女の父は富裕層の娘と結婚していて、愛人の子供として生まれました。父が遊びに来る時は天使のぬいぐるみを玄関に飾って心待ちにしている女の子。少女を殺してしまった事実を金と権力を使ってもみ消そうとする妻の家族を敵に回した裁判劇が展開。主人公が取り戻そうとする正義よりも、不幸な生涯を終えてしまった健気な少女と母親のために無罪判決を祈りながら観てしまいます。

 

地道な調査力とハッタリで敵を欺く大胆さの両輪で挑む主人公を演じるダヨ・ウォンは過度なダイエットをした西村雅彦のようなルックス。反発しながら少しずつ主人公に共鳴していく後輩弁護士フォン役のレンシー・ヨンは関根麻里っぽい雰囲気で、彼を慕う"御曹司"役のホー・カイワは星野源に似ているなあなんて思いながら、彼らを眺めていました。主人公と御曹司の過去の因縁が主人公に共感しやすくなる仕掛けになっていて、敵に立ち向かう武器にもなっている点は上手いです。上級国民たちの権力におもねる空気を断罪する主人公の最後のスピーチには、いまを生きる香港人の心意気を象徴しているのかもしれません。のさばる悪には必ず天罰が下るという王道を守ってくれているので、フツーに安心して感情の起伏を味わえる娯楽作品でございました。