「ある人形使い一家の肖像」(2023)

 

人形劇一座をしている家族をめぐるお話をWOWOWオンデマンドで観ました。

 

 

監督・脚本はフィリップ・ガレル。予告編はコチラ

 

フランスの人形劇一座のお話。自宅にある舞台を拠点にした劇団を運営していて、座長の父シモン(オーレリアン・レコワン)と兄のルイ(ルイ・ガレル)、妹のマルタ(エスター・ガレル)、末っ子のレナ(レナ・ガレル)の家族と、ロールがメンバー。そこに祖母のガブリエルも同行して各地で旅巡業をする日々。昔ながらの伝統的な演目で観客の子供たちを楽しませています。最近、助っ人で一座を手伝っていた画家のピーター(ダミアン・モンジャン)という青年が正式にメンバー入りすることに。ピーターは妻エレーヌとの間に子供ができたばかりのようですが、妻の妊娠中にロールと浮気していました。そのことが妻にバレて別れることになった二人。でも、ルイがピーターの妻エレーヌを前から気にかけていたらしく、今度はルイとエレーヌが付き合い始めます。そんなちょっと入り組んだ人間関係になってきた矢先、公演中に父シモンが倒れて、しばらくして急逝してしまいます。

 

一座の屋台骨を失って戸惑うメンバーたち。息子を亡くした祖母はショックのせいか、痴呆症っぽい言動が増えてきます。そして、父の言いなりで人形劇をやっていたという思いのあるルイが祖母に悩みを打ち明けた後、すぐに祖母も死去。すると、ルイは一座を退団して、役者として再出発することを決意。伝統を守り続けたいマルタはレナと一緒に人形劇を続けることにするも、ピーターが画家に専念したいということで脱退。同棲していたロールもピーターとも別れて去っていきます。1年ほど経過して、一座の運営が苦しくなってきた頃、嵐で人形劇の大道具が破壊されてしまったことで人形劇一座はいよいよ空中分解。舞台役者として順調にキャリアを伸ばしていたルイとは対照的に、ピーターは新しい恋人とも別れて、路上販売で絵が1枚も売れずに暴れて精神病院に入院させられて・・・というのが大まかなあらすじ。


原題は「Le Grand Chariot」。"北斗七星"という意味のフランス語は、本作に出てくる人形劇一座の名前。一応ですが、一座の人数が祖母を合わせると7名です。2023年の第73回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞。自身の体験をベースにしたミニマムな作風の監督ということで、監督の父が人形使いだったことが本作の発想になっているとか。共同脚本には3年前に亡くなった名脚本家ジャン=クロード・カリエールも加わっています。劇中の3人の子供は監督の実子で、父を演じているのは監督の父と人形使いとして同じ劇団にいた人の息子らしいです。家族を中心とした人形劇一座が細々ながらも和やかに生活していたところから、大切な家族を立て続けに二人も失って、徐々に厳しい現実を突きつけられて立ち行かなくなっていくさまを描いています。

 

二人の死という大きな出来事がありながらも、伝統から解放されたいルイ、伝統を守り続けたいマルタ、とにかく自由奔放なピーターあたりを中心とした登場人物たちのちまちました日常を1年ほど密着取材で追っかけたレポートを観ている感じで、後半に死んだ父シモンがある人の前に現れる幻想シーン以外はいたって地味で極私的なストーリー。最終的にはそれぞれが今後の方向性をなんとなく見つけたような雰囲気を見せて映画は終わります。人形劇そのものが楽しげだったので、もう少し観たかったかも。なお、昨今のフランス映画界ではジェラール・ドパルデューをはじめとした著名人が次々とセクハラで訴えられるMeToo運動が盛んですが、フィリップ・ガレルも昨年8月に女優からセクハラで告発されていて、その報道の最中に本作はフランスで公開されています。