「ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう」(2021)

 

一風変わった恋愛映画寄りのファンタジーをWOWOWオンデマンドで観ました。

 

 

監督・脚本はアレクサンドレ・コベリゼ。予告編はコチラ

 

ワールドカップ開催期間前後に起きた奇妙なお話です。ジョージアの古い都市クタイシが舞台。路上ですれ違った薬剤師のリザサッカー選手のギオルギ落とした本のやりとりをキッカケに数秒間だけ見つめ合ったその日の夜にまた路上でバッタリと出逢います。ちょっとした運命を感じて、互いの名前も連絡先も聞かずに、白い橋のそばにあるカフェで翌日落ち合う約束をする二人。しかし、何らかの邪悪な呪いによって、翌朝目覚めるとそれぞれに外見が別人になっていました。リザは薬の知識を全て失ってしまい、ギオルギはボールを満足に蹴ることもできなくなっています。約束通り、二人はカフェで互いの到着を待ち続けますが、相手が別人になっていることを知らないので、存在に気づかずに出会えずじまい。

 

仕事を失ったリザはいつか会えるかもというかすかな希望を持って、二人が会うはずだったカフェの店員になります。一方のギオルギもカフェが近くにある白い橋でボーっとしていた時に、カフェの店長に声をかけられて、橋の上に設置された鉄棒に5リラ払うとぶら下がることができるビジネスの管理人にならないかとスカウトされます。そんなビジネス、儲かるんでしょうか。とにかく、知らないうちに近距離で働くことになった二人。店長はカフェでワールドカップが観戦できるようにスクリーンを設置しますが、映りが悪いため利用客は全く増えません。それぞれに黙々と働いていてるうちにワールドカップも終わった頃、互いに日常会話をする関係性になっていた二人にちょっとした奇跡が起こって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Ras vkhedavt, rodesac cas vukurebt?」。"空を見上げたら、何が見えますか?"という意味。SF風味のロマンチックなラブストーリーなのかと思ったら、ちょっと味わいが違います。すれ違いのロマンスの行方はノンビリと進行。というか、二人の距離が徐々に近づいていくプロセスは脇に置いておいて、ワールドカップ開催期間の街の人々の息遣いをスケッチすることに多くの時間を割いています。草サッカーに興じる子供たちスポーツバー街頭テレビで試合観戦をする大人たち。こだわりの視聴スポットに陣取って一緒に観戦する野良犬たち。そんなサッカーボールだらけ映像を観させられてるうちに、橋のバックでさりげなく見切れるロープウェイなどが魅力的だったりして、穏やかな日光に照らされているクタイシ街並みそのものを映画の主役にしてるのかなという思いがよぎります。

 

そして、唐突に複数の素人カップルを映像に収めたいという映画製作クルーが物語に参入。白い橋のカフェで働くリザと手伝いに来たギオルギを観たスタッフがその候補として撮影させてくれないかとオファーしてきます。恋人じゃないのでと言いつつも断りきれない二人は撮影了承。フィルムをプリントした最初の試写映像を大勢のカップルと観ることになって、サプライズな展開が待ち受けています。こんな映画をなんで作っているのかと自嘲気味のナレーションが入ったり、野良犬の心の声を語り出したり、別人に変わる瞬間、観客に一度目を瞑るようお願いをするテロップが挿入されたりと、何かと奇妙な空気感が漂う不思議な映画でございました。ちなみに、ワールドカップについては、決勝でアルゼンチンが3対1で勝って優勝したという設定になっているので、現実の世界線とは違っています。