「魔女の香水」(2023)

 

香水をめぐる人生模様を描いた物語をU-NEXTで観ました。

 

 

監督・脚本は宮武由衣。予告編はコチラ

 

いけ好かないセレブっぽい連中が客層のバンケットホールで契約社員として一生懸命に働く若林恵麻(桜井日奈子)。上司のセクハラ行為を指摘したばっかりにクビを宣告されます。なんという世知辛い世の中でしょう。正社員の夢を断たれてもう風俗で働くしかないと思って、街のスカウトマン(落合モトキ)に逆スカウトして風俗デビューかと思いきや、スカウトマンが立ち寄った香水ショップで銀髪の気品ある白石弥生(黒木瞳)という店主に出会うと、ウチの手伝いをしないかと誘われてお店で働き始めます。謎めいた過去を持つ"魔女さん"と呼ばれる弥生を慕う常連客は少なからずいて、彼女の香水の香りに関する素敵な蘊蓄には感心するばかり。多少の知識を学んで、やる気が復活した恵麻は香料会社に派遣社員として就職。クライアントの社長が弥生の店に通う常連客の横山(平岡祐太)だったという縁があってから、彼女が新しい香料を提案するチャンスを得て、その案がいきなり採用されるというビギナーズラックをゲット。しかし、パワハラ気味の直属の先輩に手柄を奪われた挙句、またしても仕事をクビになります。

 

ちょくちょく相談に乗っていた弥生に悩みを打ち明けると、自分の人生は自分で切り開かなきゃとゲキを飛ばされて、起業することになった恵麻。香料の付け焼刃の知識を生かして、香水のサブスク事業を興すことになります。そして、自分が本当に売りたいモノは弥生が作った香水だというんで、弥生の香水を販売する事業委託を直談判するも、あっさりと断られます。それでもめげない恵麻は、AIを使った魔女のアドバイスによる香水のサブスクサービスというビジネスアイデアを投資家にプレゼン。すると、意外にあっさりと理解を示してくれて出資が決定。で、スタートしたビジネスはSNSでも話題沸騰となって大成功。時を前後して、無精ヒゲを生やして疲れ気味の横山社長と再会。父が事業に失敗した過去をお互いに持つ横山に共鳴した恵麻は一夜を共にしかけますが、急な電話が来てホテルを立ち去っていく社長。事業が失敗して資金繰りに困っていた横山はやがて非業の死を遂げます。愛する人を失いながらも海外展開までするようになったビジネスに精を出す恵麻と、過去の失恋の記憶が意外な形で蘇った弥生の人生のストーリーは続いていき・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は2023年6月16日。数本の映画監督業に乗り出して意欲的な活動をしている黒木瞳が、実際の香水ビジネスプロジェクトのスポンサードを獲得して作った1本。「香水にはそれぞれのストーリーがある」、「あなたの人生のストーリーはあなただけが作れる」等と、なかなかイイことを黒木瞳がセリフで語る本作のストーリーにも独特の香ばしさが漂っています。終盤には「最高の物語ね」と自画自賛のセリフもあり。社会を生きるノウハウのない若い女性である恵麻が、チャンスを掴んでイキイキと活躍していく成長物語がメインストーリー。彼女のアドバイザーである弥生が恵麻に寄り添いつつ、かつてフランスで出会った調香師(宮尾俊太郎)との失恋物語に何らかの決着をつけるサブストーリーが加わる構成。多彩な顔ぶれの女優さんの数名はストーリーに関係のない短い出演場面でそれぞれに香りを発しています。社長と恵麻との恋はともかく、別の常連客の女性(水沢エレナ)モラハラの夫(小出恵介)に絡まれた生活から再出発するエピソードは少し余計かも。女性をエンパワーする優れたエンタメ作が多く出ている近年のトレンドに合ったテーマではあるだけに、安直な物語進行にはどうしても疑問符がついてしまいます。

 

一番の見どころは、佐伯日奈子と平岡祐太のチューしている時間帯が異様に続くラブシーン。1分半くらいチュッチュしています。回想シーンで登場する若作りした黒木瞳も一見の価値あり。年相応の振舞いをしてる時の方が魅力的なのにと思います。それと、本作の協賛企業でもあるにしたんクリニックでも有名な実業家の西村誠司が投資家役でセリフを発するサービスシーンも必見。さまざまな局面におけるハラスメントやそれらの障害を撥ねつけていく描写がザツで、起業した主人公が活躍するプロセスもチョロすぎて、もっと巧妙に描いてほしいと思う点もあります。主人公は香りに敏感なわりに、人の良し悪しを嗅ぎつける嗅覚は鈍感です。ネタバレをすると・・・、恵麻が弥生と出会うキッカケを作ってくれたスカウトマンが実は弥生の愛した男性の息子だったというサプライズが終盤で判明。もっと早く正体を告白しておけよという突っ込みをしてはいけません。シネフィル系の観客層を全くターゲットにしない映画で、こういったビジネスモデルもあるんだなと思わせてくれる作品でございました。