謹賀新年。イケてない大学生の邪悪なおとぎ話をAmazonプライムビデオで観ました。
監督・脚本はエメラルド・フェネル。予告編はコチラ。
2006年のイギリスのお話。オリヴァー君(バリー・コーガン)はオックスフォード大学に入学したばかりのピカピカの1年生。名門校舎に足を踏み入れて素敵なキャンパスライフをと意気込んでいます。寮生活もスタートして、学生がズラッと勢揃いした部屋で最初の晩餐。友達100人できるかなと思っていたところ、なんだか様子が違います。イケてそうなヤツらはすでにグループを形成していて、昔からの親友のように仲良く談笑しています。対して、自分はというと、ひとりぼっち。話しかけてくつのは、目の前にいるコミュ障気味の自称数学の天才だけ。暗算が超得意だから問題を出してとしつこく要求。軽くいなそうとすると、さっさと出せと逆ギレされてしまいます。イケてるグループの中で特に目を惹くのは、長身で優しい表情を浮かべているフェリックス(ジェイコブ・エロルディ)。チョー金持ちの貴族の家に生まれ育った男で、女子からもモテモテのフェリックス。親父がヤクの売人で荒んだ家庭に育ったオリヴァー。見た目も境遇も何もかも違うフェリックスにほのかな恋心を抱きつつ、遠目でその様子を眺めるだけ。
ある日、自転車がパンクしたフェリックスに自分が乗っていた自転車を貸してあげたことがキッカケで会話することになったオリヴァー。夜にパブで仲間と盛り上がってるフェリックスに声をかけられて同席。一気飲みをさせられたりしながらグループのノリに食らいついたオリヴァーは晴れてグループの仲間入り。フェリックスを親戚づきあいをしているファーリー(アーチー・マデクウィ)をはじめとした連中が貧乏臭いオリヴァーの素行を軽く見下している中で、フェリックスだけは彼の素朴さや知性を認めて優しく接してくれます。パブで一緒に飲んでいたイケてない自称数学の天才とはこの日を境にスパッと縁を切って、イケてるグループ側になって大学デビューを果たすオリヴァー。夏休みが近づいた頃、父の死で落ち込むオリヴァーをフェリックスは自宅で一緒に過ごさないかと誘います。及び腰ながらフェリックスに言うがまま、ソルトバーンという町にそびえる広大な屋敷を訪れたオリヴァー。浮世離れした親族の暮らしぶりに戸惑うも、奇妙な享楽の世界に少しずつ溺れていって、やがて、彼の邪悪な心が屋敷内を徐々に侵食して・・・というのが大まかなあらすじ。
邦題もなしにAmazonプライムビデオで配信されたエメラルド・フェネルの新作。格調高めの映像スタイルで庶民的な主人公オリヴァーの大学生活~屋敷生活を追体験していくような感覚でずっと観ていくのかと思ったら、どんどん不穏な方向に進んでいくオリヴァーにドン引きしていきます。バスタブのシーンでギョッとなりました。憧れの男性にホモセクシャルな愛情を抱くところは「太陽がいっぱい」で、場違いな男の出現がセレブな人たちを狂わせていくところは「テオレマ」を思わせます。歪んだコンプレックスを肥大化させていく青年をバリー・コーガンが好演。ただ突っ立っているだけで複雑な心境を抱えてそうに見えるルックスでもあります。彼の隠れていた本性が解き放たれたラストにはちょっと唖然。一方、金持ちの息子を演じるジェイコブ・エロルディには天衣無縫なセクシーさと暗い影が同居している魅力あり。苗字からしてエロいです。フェリックスの屋敷で一緒に住んでいるファーリー役のアーチー・アデクウィは「グランツーリスモ」とは全然違うキャラで登場。セレブと庶民の中間にいる立場のゲスさを滲み出させていました。他に、世間知らずで無自覚に人を見下している貴婦人役のロザムンド・パイク、その友人で情緒不安定な客人役のキャリー・マリガン、エキセントリックな眼差しの執事役のポール・リスが印象的。嫌悪感を抱きながらも目が離せなくさせる磁場のある映画でした。