「ほつれる」(2023)

 

不倫ドラマをAmazonプライムビデオで観ました。

 

 

監督・脚本は加藤拓也。予告編はコチラ

 

綿子(門脇麦)は妻子持ちだった文則(田村健太郎)との結婚生活が良好とはいえず、友人の紹介でたまたま知り合った木村(染谷将太)と不倫しているイケナイ主婦。夫の目を盗んでは木村とちょくちょく逢瀬を重ねています。とある不倫旅行の帰り、 綿子が目を離した隙に木村が車に轢かれてしまうも、不倫がバレるのを恐れて救急車を呼ぶ電話を途中で切って、その場から逃げてしまいます。木村が死んだことを友人(黒木華)から聞いたものの、葬儀には参列できずに悶々とする毎日。文則はヨリを戻そうと綿子の顔を伺いながらも遠慮がち。その後、友人との小旅行で山梨に行くことになり、近くにある木村の墓参りをします。

 

その日は引っ越し先の内覧に夫と行く予定だったことをすっかり忘れていたため、大事な用事を忘れて山梨なんかに何故いるのかと電話口の文則に説教されます。不倫相手の死を悲しみながらも、これまで同様に夫とヨソヨソしく接していくことで味気ない日々をやり過ごしていく綿子。過干渉な母親などの問題を先送りにしていた夫の歩み寄りで、もう一度夫婦生活をやり直す空気もできつつあるかななんて思った矢先、死んだ木村とのお揃いの指輪が糸口となって、夫の文則にも、木村側の親族にも不倫していた事実が露見。綿子は責任逃れできない修羅場を迎えることになってしまって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は2023年9月8日。タイトルの語感、不倫、交通事故といった要素は成瀬巳喜男の映画っぽくもあります。綿子は目の前の日常と真摯に向き合わずに責任を回避してイイトコ取りして生きていきたいフシがあり、妻子持ちの男と都合のいい時にだけ付き合う不倫に向いた性分に思えます。冒頭の旅行先に(準備や片付けの手間を省ける)グランピングの宿泊施設をチョイスするところは、めんどくさいコトは他者に押しつけたい綿子のアウトソーシング思考を象徴しているのかも。夫の不倫によって夫婦生活破綻の責任からも逃れていて、それを口実に別の妻子持ちの男と不倫する状況は、綿子にとって快適だったのではと思わせます。

 

不倫状態でいた時はちょうど良い距離感だった文則が離婚して、成り行きで結婚してしまったことが間違いの始まりで、門脇麦が安定の演技で自己愛の強いダメ女ぶりを披露。自分の言動を正当化させた上で、ネチネチとモラハラを仕掛けてくる文則を演じる田村健太郎も好演。綿子を理詰めで問い詰めていく場面全体に漂う居心地の悪さはある種の恐怖体験。結婚してからは生活費調達マシンとして綿子に扱われていた不憫な男でもあるので、手近な前妻とつい寝てしまうのも理解できます。交通事故で死んでしまう染谷将太、その父役の古舘寛治、友人役の黒木華など、しっかりと芝居ができそうな脇キャラのワンポイント起用の人選は贅沢。演劇的な会話のやりとりを映画的な空間演出で処理している点も見事。あまり見たくはない男女のやりとりの機微を活写した苦味のあるホームドラマの良作でした。