「バニシング・ポイント 4Kデジタルリマスター版」(1971)

 

ニューシネマの名作の1本を早稲田松竹で観てきました。初見。

 

 

監督はリチャード・C・サラフィアン。予告編はコチラ

 

冒頭シーン。2台のブルドーザーで車道を封鎖された様子を見て、正面突破を諦めて車を折り返して逆走を開始する1人の男。ここから話は2日前に遡ります。ベトナム戦争で海兵隊の名誉勲章をもらって退役後、警察官バイクレースカーレースのドライバーを経て、現在は車の陸送をやっているコワルスキー(バリー・ニューマン)がダッジ・チャレンジャーをデンバーからサンフランシスコまで運ぶ仕事を引き受けます。眠気覚ましのためにバーに立ち寄って覚醒剤を友人からゲット。金曜に出発して月曜までにサンフランシスコに着くという無謀な賭けをして出発。スピード違反をしないと到底実現しません。さっそく時速200キロで飛ばすコワルスキーの車を発見したバイクの警官が追跡するも、バイクを転倒させて振り切ることに成功。ユタ州境に張られていたバリケードも猛スピードで突破。冷やかしにやって来た地元ドライバーともカーチェイスを演じて相手をクラッシュさせます。やがて、警察と追っかけっこをしている無法者のニュースを知った盲目のDJスーパー・ソウル(クリーヴォン・リトル)は、盗聴した警察の無線の捜査情報をガンガンしゃべるコワルスキー応援放送を地元ラジオで開始。

 

ネバダ州でも地元警官が執拗に追跡。警官時代にマリファナ所持の女性にいたずらをしようとする先輩を止めて、女性を逃したことがキッカケでクビになったことをふと思い出すコワルスキー。パトカーに追い詰められて砂漠に逃げ込む道中では恋人ベラ(ビクトリア・メドリン)の死の記憶も蘇ります。公権力に対しての反骨精神と、恋人の死で自暴自棄になった感情が入り交じったご様子。劇中で何にも食べないので腹は減ってなさそうです。で、砂漠でのタイヤ交換時にたまたま出会ったヘビ捕りの老人(ディーン・ジャガー)にガソリンを補給してもらい、車道に復帰するルートを教えてもらって、さらに逃走を続けるコワルスキーのカーラジオからは、警察のメンツに懸けて彼を捕まえようとしてることを伝えるスーパー・ソウルの声が流れています。ヒッチハイクで乗せたゲイカップルに強盗されかかったりもしながら、ヒッピーのバイカー(ティモシー・スコット)アドバイスを生かして非常線を突破したコワルスキーはようやくカリフォルニア州入り。ここで冒頭の場面に戻って、2台のブルドーザーで車道を封鎖して待ち構えている地元警察。不敵な笑みを浮かべたコワルスキーが取った行動とは・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Vanishing Point」。"消失点"という意味。アメリカの広大な土地を疾走する車を様々なアングルで捉えた映像(撮影はジョン・A・アロンゾ)を堪能できただけで大満足ということに尽きますが、ラストに向かうまでの道のりが主人公の半生を振り返る走馬灯のようで、死に場所を探している無口な男をカッコ良く捉えている罪な映画でした。フォトジェニックショットが多数あるとはいえ、感傷とドラッグに浸っている男とそれを追うおっさん達の殺風景な話に、要所要所で美女が出てくるのもありがたい限り。男性の付属物扱いなのは当時の拙い感覚ではやむ無しだとして、コワルスキーの前を通りすぎた風景の一部のように描きつつも、それぞれに印象を残します。警官のおっさんに犯されそうになる美女。黙って笑みを浮かべるガソリンスタンドの美女。海に消えていった最愛の恋人全裸でバイクに乗るヒッピー美女。シャーロット・ランプリング扮するヒッチハイカーのシーン(下記リンク参照)は英国公開版のみとのことで残念。

 

説明セリフがほとんどなく、コワルスキーの身に起きたいくつかの出来事がときたまフラッシュバックするだけなので、彼の現在の胸の内がどうだったのかは観る側の想像に委ねられている作り。コワルスキー役は当初ジーン・ハックマン想定だったとか。どこの何者なのかが全く見えないバリー・ニューマン(今年5月に逝去)で正解の配役じゃないかと。ニューシネマなのでどうせ最後は死ぬんだろうと思ってはいるものの、立ちはだかるブルドーザーに突っ込んでいくラストは現在の目で観ても、簡潔かつ鮮烈。BGM(挿入歌)も映画の雰囲気作りに貢献してます。聖書原理主義コミュニティ黒人に暴力を振るう警官といった当時の世相を思わせる人物もちょくちょく登場。厭世感からの解放をシンプルな映画的魅力で料理した傑作でございました。あと、DJのエンジニア役の人(ジョン・エイモス)「ダイ・ハード2」(1990)の悪役のおっさんだと気づいて少しニンマリしました。