「夜霧よ今夜も有難う」(1967)

 

石原裕次郎主演の日本版「カサブランカ」をU-NEXTで観ました。初見。

 

 

監督は江崎実生。予告編はコチラ

 

船乗りの相良徹(石原裕次郎)が海外から帰国。船から電話で恋人の北沢秋子(浅丘ルリ子)にプロポーズ。男3人女2人の子供を作ろうなんて夢を語り合う二人。さっそく式を挙げようと教会の前で待っていても、一向に秋子が姿を見せません。ウキウキ気分の秋子が交通事故に遭って、教会に行けなかったことを相良は知りません。それから4年後。行方不明となった秋子との失恋を経て、横浜でナイトクラブマスターになっていた相良は、船乗り時代からの同僚仙吉(高品格)ボーイのビル(郷鍈治)、ウェイトレスのヒロミ(太田雅子)といった従業員と共に店を切り盛りしています。一方で、密航を斡旋する裏稼業もしていて、金持ちの犯罪者だけでなく、困った人を無償で助ける優しい一面を持ち続ける相良。店の常連には刑事の宮武(佐野浅夫)がいて、横浜港付近の犯罪に目を光らせています。

 

ある夜、テロリストに命を狙われている革命家グエンという男(二谷英明)がシンガポール経由での祖国への密航を依頼するために、相良の前に現れます。彼の妻として同行していたのは秋子でした。黙って去った秋子を許せないでいる相良は二人の申し入れを断ります。横浜一帯を縄張りにする港南組がグエンの身柄に20万円の懸賞金をかけて探し回っている中、呼びつけられた相良は抵抗します。やがて、成り行きで二人を匿うことになった相良は秋子の告白を聞きます。4年前のグエンが起こした交通事故で子供を産めない体になってショックを受けたこと。その後、すっと優しくしてくれたグエンの愛情を選んで共に生きる決意をしたこと。真相を知った相良は二人をグエンの祖国に返すべく、命を懸けた行動に出るのだが・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1967年3月11日。同時上映は吉永小百合主演の「恋のハイウェイ」「カサブランカ」(1942)を日活風に翻案した恋愛映画。いわゆる『ムードアクション』と称された作品群の後期の一本で、主題歌は懐メロとして知っていて、どうせラスト近くに波止場で歌って終わりなんだろうぐらいのイメージで観なくてもいいかなと思っていましたが、ストレートな物語を丁寧な画面構成で綴っていて、予想以上の良作でした。シンプルな内容なので、大切になってくるのは俳優さんの魅力。デブになりかけの裕次郎はカッコ良さをギリギリキープしている感じ。失恋で数年間グジグジする純情なところがありつつ、腕っぷしや度胸はヒーローそのもの。浅丘ルリ子はオトナの女としていい雰囲気。子供を産めない体になったからといって、自ら身を引いて消息を絶ってしまうところに前時代的な女性観があります。4年の空白を「1500日の朝と昼と夜を迎えた」と遠回しな表現で話すルリ子。

 

二谷英明はグエンという外国人紳士(たぶんベトナム人かな)をソツなく演じています。脇をしっかりと固める高品格や佐野浅夫。安直な黒塗りで黒人ハーフのボクサーを演じる郷鍈治。裕次郎に憧れながら途中で郷鍈治に鞍替えする太田雅子(のちの梶芽衣子)のキャピキャピ感も良し。メリハリが効いた主要登場人物の配置。グエンを追うヤクザもほど良く役立たずで、グエンと秋子を逃すことに成功。これからの人生は好きなように生きていいとグエンに言われるも、一緒に国外逃亡することを選ぶ秋子。「ぼくたちは1500回の昼と夜を取り戻したんだ」と、分かったような分からないようなクサいセリフを言い残して、秋子に別れを告げる相良。ずっと大事に持っていた結婚指輪を海に投げ捨てて、主題歌を切なく歌って映画は終わります。