「テオレマ」(1968)

 

ブルジョア一家の崩壊を描いた寓話をU-NEXTで久々に観ました。

 

 

監督・脚本はピエル・パオロ・パゾリーニ。予告編はコチラ

 

ミラノの工場経営者一家の奇妙なお話。郊外の大邸宅に暮らす経営者のパオロ(マッシモ・ジロッティ)と嫁のルチア(シルヴァーナ・マンガーノ)、息子のピエトロ(アンドレ・ホセ・クルース)、娘のオデッタ(アンヌ・ヴィアゼムスキー)の四人。いわゆるひとつのブルジョア家庭というやつです。ある日、郵便配達人が「明日着く」という電報を届けに来たかと思うと、翌日開かれたパーティーに一人の青年(テレンス・スタンプ)がやって来て、そのまま大邸宅に住み始めます。家族全員での食事の場にもフツーに席についている青年。それ以来、家族の様子がおかしくなっていきます。まず、挙動不審になったのはメイドのエミリア(ラウラ・ベッティ)庭でくつろぐ青年の妖気を帯びたミステリアスな眼差しで軽く一瞥されただけで、つい欲情してしまいます。ふと我に返って自分の行動を恥じて、ガス自殺を図ろうとしたところを青年に助けられます

 

続いて、美熟女のルチア欲情。その後、息子のピエトロも欲情。そしたら今度は娘のオデッタ欲情。さらには旦那のパオロも欲情。みんなでそれぞれに大欲情して、何かのタガが外れたかのように青年と肉体関係を結びます。青年に自身の心境の変化を吐露する家族。数日後、またもや郵便配達人がやって来て、青年は「明日出発します」と告げます。青年の出発を全員でお見送りする家族。で、青年が去ってからがもっと大変で、意識不明に陥った娘、性に目覚めて町で男漁りを始める妻、価値観を覆されて自己否定をしだした息子、所有していた工場を労働者に譲ってしまった旦那。メイドにいたっては、仕事を辞めた後、神懸った行動を起こします。ほとんどしゃべらない無口な青年が数日泊まりに来ただけで、ブルジョア家族全員のアイデンティティが崩壊してしまいましたとさ・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Teorema」。イタリア語で"定理"の意味。大学生の頃にVHSビデオで一度観て以来。私が唯一観ているパゾリーニの映画。ストーリーは単純だけど、ワケが分からない。ワケが分からないけれど、起きていることはいちいち面白いという不思議な魅力は健在でした。レストアバージョンということで、映像がかなりキレイになっていましたね。資本主義や家族など、現代社会で生きていく上で我々が当然のように受け入れている制度やシステムといった決まりごとの是非を、それらの価値観に全く縛られない人物に翻弄されるさまを描くことでを観る者に問いかけているといった内容なんだなということは、うっすらと感じ取ることができます。高尚といってもいいテーマに全く興味がない私のような者にも、登場人物の突飛な行動や映像でブラックコメディとして楽しませる作りにしているのが本作の素晴らしい点です。

 

人が賑わう駅で全裸になったまま火山をさまよう旦那にもインパクトがありましたが、それ以上だったのが、メイドのおばちゃん。青年との出会いと別れの後、神の啓示を受けたということなのか、飯もロクに食わなくなったかと思うと、おまじないをするだけで難病を治すパワーを身につけて近所の人たちから崇められる存在になります。しまいには、こんなことになります。本作の最大の魅力は、謎の訪問者を演じたテレンス・スタンプ。魔性の男という形容詞がピッタリの雰囲気。かつて同時期に「コレクター」(1965)も観たので、私にとっては常人離れした変態俳優といったイメージ。ゴダールと結婚していたアンヌ・ヴィアゼムスキー、ディノ・デ・ラウレンティスと結婚していたシルヴァーナ・マンガーノといった有名女優には特に興味が湧かなかったので、性的にも、聖的にも魅了するテレンス・スタンプに尽きる映画だと思いました。