「恋文」(1985)

 

ダメ男ショーケンと美女二人の物語をWOWOWオンデマンドで観ました。初見。

 

 

監督は神代辰巳。予告編は見つかりませんでした。

 

仕事をサボって自宅マンションの窓に絵を描いている自由な將一(萩原健一)を夫に持つ竹原郷子(倍賞美津子)。女性誌の編集者をしていて、美大出の美術教師の夫將一一人息子(「誘拐報道」ではショーケンに誘拐されていた和田求由)三人暮らしをしているワイルドな色気をもつ美人です。ある日、昔のオンナから来た手紙を將一から見せられます。白血病で余命僅かな彼女は死ぬ前に將一のことが頭に浮かんだそうで、それを読んだ將一は、彼女が死ぬまで一緒に暮らして看病を続けたいとのこと。ずいぶんと勝手な言い分ですが、そう思ってしまった將一はさっそく家出、教師を辞めて市場で働きながら、元カノの面倒を見始めます。郷子がその女に一度会わせろと言うと、俺の従妹だという設定でなら会ってもいいと言う將一。すでに従妹として郷子の存在を彼女に伝えてあるみたいで、ぶっ殺してやろうかと思いながらも、將一を決定的に憎めないでいる郷子。泣いてる郷子に対して、パンツから右手を出して笑いを取ってごまかそうとする仕草をキュートに感じてしまう時点で、女の負けです。

 

ということで、將一の従妹という設定江津子(高橋惠子)に会って、とりあえずなごやかに談笑する三人。清楚な魅力を持つ江津子に妙な情が湧いてきて、その後も合間を見てはお見舞いに行くようになる郷子。「すぐに死んじゃうヒトにしばらくお父さんを半年貸してあげるの」と自分を納得させるかのように母郷子に言われる息子もいい迷惑です。將一がホントに戻ってくる保証はないため、不安が募る郷子はついつい元カレの神谷(小林薫)を訪れて、一夜を共にします。やがて、江津子が元気なうちに結婚式だけでも挙げたいと、將一は郷子に別れ話を持ちかけてきます。江津子の精神が不安定となって自殺を図る事件があったり、将一と郷子が本当の夫婦であることを江津子が最初から知ってることを聞いたり、女どうしで本心をぶつけ合ったりを経て、郷子は將一と別れる決心をします。将一を愛するからこそ離婚する。郷子は"離婚届"という名の恋文を將一に渡すことになって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1985年10月5日。直木賞作家の連城三紀彦がショーケンを主人公男性として当て書きした原作の映画化。母性本能をくすぐってしまう昭和のダメ男はショーケンにピッタリ。萩原健一主演・連城三紀彦原作・神代辰巳監督としては2作目にあたり、自分のパブリックイメージに近いキャラでノビノビと受けの演技をしている感じ。そんなショーケンよりも、彼を取り巻く2人の女性の魅力を堪能する映画かと思います。1人目は倍賞美津子。ダメ亭主に翻弄されるキャリアウーマン役で、タフさと弱さを併せ持つ女性を好演。アラフォー女性の色気がムンムンです。2人目は高橋惠子。死を間近に感じて、妻子持ちの男を困らせる病人役。重病なので本来ならもっとやつれてそうなものですが、美しいので良しとします。美女二人に愛されて、ほど良いダメさ加減に浸りたい願望を具現化した、ある意味、夢のようなシチュエーションともいえます。

 

途中で差し込まれるショットには、撮影時の1985年よりも一時代前の昭和感が滲み出ていて、神代辰巳監督らしさを感じます。通勤時間時の雑踏だったり、ゲームセンター(メダルの競馬ゲームが懐かしい)だったりと、しみったれた私小説的な世界が好きな人にはたまらないかも。病院の屋上で3人がノンビリとくつろぐのかと思いきや、突如取り乱した江津子のうろたえぶりを逆光でとらえて、気を落ち着かせるためにキスをする將一、それをポカンと見つめるしかない郷子といった一連のシーンは強烈な印象を残します。ささやかな結婚式を挙げてしばらくしてから、いよいよ江津子が最期を迎える場面では、死ぬところを見られたくないと言われて、郷子を呼び出して死に目に立ち会わせる將一。とことんハタ迷惑なダメ男です。。。ご臨終となってから一瞬生き返って笑みを浮かべる江津子。彼女の死後、戻って来た將一が自宅に入るかどうか逡巡するところで映画は終わりました。あと、郷子が仕事で取材するシーンでモトクロスのレース場や競艇場、留置所にいるおっさん役で映画監督の工藤栄一が出てきます。