「動くな、死ね、甦れ!」(1989)

 

第二次大戦直後のロシアの少年のお話を早稲田松竹で観ました。初見。

 

 

監督はヴィターリー・カネフスキー。予告編はコチラ

 

第二次大戦直後のロシア。強制収容所のあるスーチャンという極寒の炭鉱町母と二人で暮らす12才の少年ワレルカ(パーベル・ナザーロフ)。食料事情も厳しく、日々の生活で手一杯の母親はあまり構ってくれず、ヒマを持て余しては近所でイタズラを繰り返すヤンチャ小僧のワレルカ。近所の悪ガキとケンカしたり、学校のトイレの汚水が貯まる場所にイースト菌をばら撒いて、校庭を溢れ出るウンコまみれにして放校処分を言い渡されたり、小遣い稼ぎで市場に温かいお茶を売りに行ったと思ったら、幼馴染の少女ガリーヤ(ディナーラ・ドルカーロワ)にちょっかいを出したりしてますが、たびたび問題を起こすワレルカと温かく彼を見守る大人びたガリーヤはとてもいいコンビです。

 

家の近くには日本兵捕虜が収容されていて、重労働を課せられた日本兵たちが「南国土佐を後にして」や「炭坑節」を歌っています。左足を失った復員兵、政治犯で長年収容されたせいで狂ってしまった知識人、妊娠すれば刑が軽くなると言って、近所の男にカラダを迫る脱獄した女囚の姿もあり。ある日、いつものイタズラでシベリア鉄道の貨物列車転覆させてしまうワレルカ当局の捜査官に捕まるのを恐れて、家出をします。少し離れたウラジオストックにいる祖父母の家にしばらくは身を寄せますが、近くにいた強盗団と仲良くなって、宝石店襲撃の手伝いをしてしまう羽目に。手伝わせたはいいものの、顔を知られたワレルカを始末してしまおうと企む強盗団たち。そんな時、ワレルカをずっと探していたガリーヤが会いに来て、連れ戻そうとします。強盗団の追跡をまいて、なんとか地元にたどり着いたワレルカとガリーヤ。これでひとまず一件落着かと思いきや・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Замри, умри, воскресни!」。邦題はそのままの意味のようです。監督が53才で撮った自伝的作品となる長編2作目。カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人賞)を受賞しています。タイトルのインパクトでずっと観ようと思っていた作品で、予備知識なしで初観賞。カンタンにいえば、貧しい戦後をたくましく生きる少年の冒険譚というお話ですが、ドキュメンタリーを見てるかのような瑞々しさがすさまじく、極貧の寂れた極東の街の環境がインパクト大で、とにかく鮮烈な映画でした。当時のソビエト連邦のある場所で起きていたであろう事象がそのままパッケージングされていて、それをガツンと突きつけられた感じ。不意に日本語の歌が流れてきたのにはビックリ。日本人捕虜の悲しい場面もありました。

 

ワレルカガーリヤのイキイキとした生態をひたすら見つめるだけの前半。少年映画としてトリュフォーの「大人は判ってくれない」がよく引き合いに出されるというのも納得。彼を通して、周辺の人間模様やスーチャンの街の状況が浮き彫りになっていきます。線路を歩くシーンなど、フォトジェニックなショットも要所にあり。ワレルカの守護天使のようなガーリヤのキャラもユニーク。この名コンビのエピソードの数々は微笑ましくもあり、ほっこりしますが、終盤に向かうにつれて雲行きが怪しくなってきます。で、どんなエンディングに帰結するのかと思ったら、意表を突く出来事が訪れてからの、画面外から監督の声が聞こえてくるメタ的な構造も現れる苦いラストで、口をポカンとしたまま、映画は終わります。いろいろと心を掴まされる作品でした。