「いつかどこかで」(1992)

 

バブル期に作られた異業種監督作品の1本を観ました。

 

 

企画・脚本・音楽・監督は小田和正。予告編は見つからず。

 

バブル時代の日本のお話。橘建設の開発設計部に勤務する正木(時任三郎)が主人公。新たなリゾート開発プロジェクトに携わることになって、東北地方への現地視察素敵な女性(藤原礼実)を見かけた正木自分のプラン口うるさい上司(津川雅彦)にも認められて、競合コンペ先の新日本計画といざ対決と思った矢先、会社の向かいにある新日本計画ビルのショールームで流れていたPVのモデルを見てビックリリゾート予定地にいた彼女ではありませんか。彼女はライバル社のリゾート開発プロジェクト責任者で、仕事一筋のキャリアウーマン(死語)でもあるとのこと。憧れの女性がビジネス上のライバルであるという事態も意に介さず、強引にデートに誘う正木にOKの返事をした冬子。ただ、正木への興味ではなく、コンペに勝つために上司の江原(岡田眞澄)に言われて、ライバル企業のコンペ情報を探るのが目的。最初のデートで行きつけの小料理屋に連れていく正木に、つれないリアクションで対応する冬子。一目見て惚れてしまう美貌の持ち主ですが、一度話しただけで嫌になるような人柄の女性でもあります。でも、冬子に夢中の正木は全く気にしてなさそう。冬子が自宅のマンションに江原を連れ込む現場を見ても、ちょっと気落ちする程度の正木

 

その後、冬子が乗っていた視察ヘリが墜落したという情報を聞いて、深夜の高速道路を飛ばして東北の現場まで向かった正木。幸い大事には至らなかったようで、病室でピンピンしている冬子。正木が遠路はるばる見舞いに来たことで急に態度が軟化した冬子は、両親が離婚して以来ずっと心にカギをかけた生き方をしていたことを告白。キャンプファイヤーを楽しんだ夜、初めてのキスをする二人。一方で、コンペ前の水面下の争いは続いていて、正木の同僚で親友の佐藤(宅間伸)の恋人がたまたま新日本計画に勤めていたこともあって、相手先のコンペ資料を入手することに成功。ただし、これは、冬子を妬んで、機密情報を流出させた責任を取らせようとした新日本計画社員片桐(小木茂光)の作戦。機密情報の幼稚な奪い合いに巻き込まれた正木と冬子は、自発的に会社を辞めることになり、二人の恋終わりを告げます。リゾート開発のコンペの結果は、自然環境重視を重視した正木のプランが勝ちましたが、すでに二人の姿はありません。それから、しばらくして退社した正木がかつて開発計画に関わったリゾート地に訪れると、そこに冬子の姿があって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1992年2月1日。ミュージシャンの小田和正の監督第一作。続々と参入した異業種監督モノの1本。そこそこの観客動員と劇伴アルバムの売上で、ビジネス的にはペイできたのでしょうかね。異業種で成功した人が自分が作りたい映画を監督すること自体は、その人ならではの描きたい何かを具現化してくれる可能性があるため、とてもいいことだと思いますが、本作は作り手のこだわりを感じ取れません。劇中あらゆる場面ヒロインタバコを吸わせることにこだわってる可能性はあるかも。良い点は、ヒロインに抜擢された藤原礼実がフォトジェニックで新鮮味を感じること。ただし、その透明感を上回る棒読み演技と他の役者さんたちの芝居との温度差が激しくて、うまく活かしきれてないです。主要人物以外の出演者では、リゾート企業のオーナー八千草薫、小料理屋のオヤジになぎら健壱などの顔が拝めます。それと、神宮球場デートをする場面は、1991年9月11日のヤクルトスワローズvs横浜大洋ホエールズ戦でした。


映画の中味はというと、仕事とに奮闘するサラリーマン物。ツンデレ女の凍りついた感情をマジメ男の誠意が溶かしていくという、ラブコメにありがちなストーリー。状況設定や登場人物の行動原理が凡庸なレベルにすら達していないのが問題で、全編を通して、上っ面だけのビジネスマン像による会話のうすら寒さが続く展開が非常にツライです。主人公が一目惚れするのはいいとして、ますます好きになってしまう瞬間や、相手役の女性の意識が変わっていく過程が全く描かれてないのが致命的。せめて、印象に残る画作りでもあればと思いますが、リゾート開発コンペの説明会場の場面から始まる味気ないオープニングからずっと、無難な映像のオンパレード。小田和正の音楽を彩るMVとしての機能も果たしていません。DVD化されていないのは、本作の存在がミュージシャンとしての確かな実績にもダメージを与えかねない代物になっているからかもと勘繰ってしまうような映画でございました。