「BEEF/ビーフ」シーズン1(2023) 

 

評判のダークコメディをNETFLIXで観ました。

 

 

ショーランナーはイ・サンジン。全10エピソード。予告編はコチラ

 

ロサンゼルスで工事業者というか、便利屋をしている韓国系アメリカ人ダニー(スティーヴン・ユァン)。家の経済状況が思わしくなく、両親は所有していたモーテルを手放して韓国に戻っていて、ゲームばっかりしている弟(写真右)とモーテルに居座っての二人暮らしをしています。ある日、ホームセンターでの買い物の帰りの車で高級車と接触。相手の運転手の挑発する態度に腹を立てて、しつこく追いかけ回してちょっとしたカーチェイスを展開するも、結局巻かれてしまいます。おちょくられた恨みをなんとか晴らしたいとムキになったダニーは、高級車のナンバーを検索して、持ち主が起業家の中国系アメリカ人エイミー・ラウ(アリ・ウォン)だと突き止めます。エイミーは自分で起ち上げたビジネスで成功した女性で、主夫をしている旦那と娘との三人暮らし。高級住宅地に居を構えている勝ち組です。

 

ダニーは工事業者を装って、エイミーだけがいる時間帯に自宅を訪問。内装の修理を無償でサービスするフリをして、エイミーが油断したスキにトイレにしょんべんを撒き散らして家を飛び出します。今度は一杯食わされたエイミーが逆襲。SNSでダニーが経営する工事業者の悪評を垂れ流して、ダニーの愛車にスプレーで落書きをします。エイミーは十分に金持ちなんだから、負け組の嫌がらせなんか無視すればいいのにと思いますが、忙しい仕事とすれちがいが続く家庭で彼女なりに慢性的にストレスを抱えていたため、その捌け口としてダニーが標的になってしまったわけです。物語は、ダニーとエイミーのそれぞれに上手くいかない日常を描きながら、二人の怒りのマグマが何度もぶつかり合って、家族や周辺人物を巻き込んでの予想しない方向に進んでいき・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題「Beef」。不満とか、怒りとか、ケンカといった意味のようです。アジア系アメリカ移民2世の勝ち組と負け組の対照的な二人を起点にして、彼らが現代のアメリカで生きていく苦悩あるあるをリアルに描きつつ、バカバカしくて大人げないケンカバトルをブラックユーモアで味付けした、他では観たことがないタイプのコメディドラマ。1話ずつチビチビと観て、ようやく完走しました。アメリカの映画・ドラマで出てくるアジア人といえば、個別の悩みがあまり描かれない脇キャラが多く、本作の登場人物はそういった典型的なアジア人像じゃないところがミソ。製作陣も出演者もアジア人で固められていて、登場人物の身に起きた出来事やキャラクターは実体験に基づいているモノが多いそうです。監督陣の1人には、「37セカンズ」(2019)も評価が高かった日本人監督HIKARIの名前もあり。イタリア系、ユダヤ系、ヒスパニック系、黒人コミュニティでの日常系コメディと同じように、今後、アジア人コミュニティのドラマが多く作られていくのかもしれません。

 

犯罪に走っているダニーのいとこの存在もあって人生が上手くいかないダニーに悩みがあるのはもちろん、裕福なエイミーも心の空洞が埋められず、会えばすぐ衝突、少し膠着状態が続くかと思うと、また会って衝突の繰り返し。当人同士のいがみ合いだけじゃなく、エイミーはダニーの弟とデキてしまうわ、エイミーの夫に近づいてきたダニーを良き相談相手だと思うようになるわで、全然接点のなかったエイミーとダニーのそれぞれの周辺人物も入り組んだ人間関係になっていきます。最終的にはハートフルな結末に向かうのかと思ったら、窃盗事件から銃撃事件、誘拐事件、殺人事件へと、終盤になればなるほど事態がどんどんマズい方向に展開していきます。最終話ではスプラッター描写もあり。行動のムチャクチャさとは裏腹に、個々の登場人物の細やかな感情の機微を丁寧に描いている点が見事。登場人物の葛藤が観ている自分の感情とシンクロするわけでもないのに、この人たちはどうなってしまうのか、最後まで気になって観てしまう不思議なドラマでございました。