「いれずみ半太郎」(1963)

 

大川橋蔵主演、長谷川伸原作の時代劇をU-NEXTで観ました。

 

 

監督はマキノ雅弘。予告編はありません。

 

バクチ好きのチンピラ半太郎(大川橋蔵)は十両分の借金を踏み倒して賭場から逃げて、愛する母を残して江戸を出て逃亡生活を送ります。それから3年後、一丁前の渡世人となって小田原に草鞋を脱いでいた半太郎は、コツコツ貯めた十両を手土産に江戸に帰ろうとします。身内にしたいという小田原原一家の親分(進藤英太郎)の申し出も断って旅立とうとした前夜、この世に絶望して川に身投げしようとしている宿場女郎のお仲(丘さとみ)見かけて、自殺を思いとどまらせます。これまでさんざん騙されてきて男を全く信用しないで生きてきたお仲でしたが、損得抜きで接してくれる半太郎の優しさが身に沁みて、この人に尽くしたいという気持ちが芽生えます。

 

宿場から逃げて半太郎の家に駆け込んできたお仲。そこにお仲を探してた原一家の手下がやって来て、半太郎が連れ出したのではと疑われてしまいます。お仲の身柄をどうするか、貯めていた十両を担保にしてサシのバクチで話をつけようじゃないかと半太郎が提案してサイコロの一発勝負をするも、裏目が出て十両を没収された挙句、お仲も連れ戻される結果に。スッカラカンになった翌朝、江戸に向かってトボトボ歩いていた半太郎の後を追って、またもや逃げ出してきたお仲が目の前に現れます。邪魔だったら途中で捨ててもいいからと言って必死な目で見つめるお仲を見て、江戸へ連れ帰って一緒に堅気の生活をしようと決心する半太郎。しかし、足抜けしたお仲を追う原一家の追っ手が二人に迫ってきており、追われる身となってしまった半太郎とお仲の運命は・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1963年2月10日。同時上映は「警視庁物語 ウラ付け捜査」。歌舞伎の演目にもなっている長谷川伸原作「刺青奇偶(いれずみちょうはん)」の映画化。すでに、1933年に伊丹万作監督、片岡千恵蔵主演で映画化されています。時代劇専門チャンネルで放送されていた長谷川伸シリーズで菅原文太が演じている単発ドラマ版(監督はマキノ雅弘)は観たことがあります。もともとはハリウッドの無声映画「紐育の波止場」(1928)にインスパイアされて作られたお話とのこと。ヤクザ者と身寄りのない不幸な女。博奕バカと淫売女。成り行きでつい助けた女を不憫に思って、いつしか命を賭けるまでになっていく男と、自分の過去に負い目を感じながらも、心に決めた男を愛する女。偶然に出会った男女の運命の賽の目はことごとく裏目となって、ささやかな幸せすらも手にすることができない展開が待ち受けています。

 

原作からかなりアレンジされていて、本作ではお仲が身投げする前に半太郎が助けます。夫婦になってもバクチを止められない原作設定と違って、追っ手から逃れてる間もマジメに働く半太郎。また、病床のお仲が半太郎のバクチ癖を直したい一心でサイコロの刺青を夫の腕に入れる原作と違って、半太郎自らが腕に"おなか"と刺青を入れる設定に変更。平塚の宿でかつての常連客(田中春男)に見つかって、女郎である現実から逃れられないことを悟ったお仲が半太郎との生活を諦めて一度は追っ手に自らの身を差し出します。半太郎への一途な愛を涙ながらに告白するところに半太郎が駆けつけて、お仲を助け出して永遠の愛を誓う場面が前半最大の見せ場。身を潜めている居酒屋でお仲の三味線の音色に合わせて半太郎が歌う余興の場面(これも映画オリジナル)が二人の幸せのピーク。

 

半太郎のクズ人間度を抑えて、漢気のある人物像にしているのは、スター大川橋蔵のイメージに合わせてのことでしょうか。気風のいいヤクザを好演しています。清楚なイメージがある丘さとみが人生に絶望している女郎お仲を演じていたのは意外。半太郎に会ってからは、過去を引きずりながらも健気に愛そうとする哀しい役どころを熱演。道中でたまたま出会って二人をサポートする半太郎の幼馴染を演じるのは、マキノ雅弘映画の常連、長門裕之。他のマキノ作品よりは出しゃばらず、メリハリが利いた良い芝居を披露していました。追われている二人を匿ってくれる居酒屋夫婦役で出てきた河原崎長一郎も好印象。お祭りのシーンがあるのもマキノ雅弘あるある。唇に指を持ってくる仕草感情の機微を表現しようとする場面が多いです。ベタで古臭い悲恋物語を丁寧に演出した良い映画でした。