「ちひろさん」(2023)

 

有村架純主演の癒し系映画をNETFLIXで観ました。

 

 

監督は今泉力哉。予告編はコチラ

 

港町のお弁当屋『のこのこ弁当』のバイト娘、ちひろさん(有村架純)元風俗嬢なんだそうです。その過去を隠しておらず、常連客ともフランクに会話しています。人の良さそうな弁当屋の店長(平田満)と口うるさいけど料理が上手い先輩店員(根岸季衣)の三人でやりくりしているアットホームな職場に勤め出したのはつい数か月前くらい。一見接点のなさそうな人物もちひろさんの元に寄ってきます。一人は小学生男子マコト。自分の息子ではないクソガキと公園でちょくちょく遊んでいます。公園で戯れるちひろさんをコソコソと写メで撮っている女子高生オカジ(豊島花)もその一人。他に、近所の小学生がイジメてる場面に遭遇して親しくなった老人のホームレス(鈴木慶一)、ホームレスに紹介された廃墟ビルの隠れ家で会った女子高生べっちん(長澤樹)などなど。

 

それぞれが抱える不安や悩みをちひろさんがきちんと受け止めるというわけではないですが、自然体なちひろさんと接して温かい時間を共有していく周辺人物の様子を現在進行形でのんびりと綴っていきます。ちひろさんの過去も少しずつ明らかになっていきながら、ちひろさんの知人のバジルという女性(van)、最初の風俗嬢になった店の店長だったおじさん(リリー・フランキー)、入院中の弁当屋店長の妻(風吹ジュン)、マコトを育てている水商売のシングルマザー(佐久間由衣)、ちひろという源氏名をつけるキッカケとなったチヒロという女性(市川実和子)、弁当屋の常連客の肉体労働者(若葉竜也)といった人物も人間模様の輪に加わって、何気ない日常が続いていくうちに、孤独を愛するちひろさん自身もちょっと自分を見つめ直すことになったりして・・・というのが大まかなあらすじ。

 

安田弘之による同名原作漫画の映画化。原作ファンの人の中には、ちひろさんは有村架純じゃ、ちょっと違うという声もあるようです。私は未読のため、原作で構築されている世界観は知りません。ちひろさんが紋切り型の分かりやすい人物像ではない点が良かったですね。心の中に闇や空洞を抱えていそうな感じなのに、結果的に周囲の人たちにとっては聖母のような存在になっていたり、生活感がありつつもファンタジックな存在でもあり、儚そうで強そうでもあり、多面性のある美女になっているのは有村架純の女優力なのかもしれません。エロティックな場面もちょっとだけありました。ありがとうございました

 

今泉監督作品を初めて観たのですが、細かい描写を積み重ねる演出力が優れている人ですね。穏やかな風景の中で、フツーの人々に起きるささやかな出来事(ショッキングな出来事もあり)を淡々とスケッチしていて、具体的な何かを解決するような展開じゃない点は好きです。食べるシーンが随所で効果的に使われています。ゆっくりと時間が流れるわりにはエピソード数が多すぎてサブキャラの人柄を味わいきる前に次のエピソードに移ってしまうのでちょっと食い足りなく感じたのと、世知辛さを少し心地良さでコーティングしすぎかなとは思いました。あと、内容とは関係ないけど、ここ数年、青空に右肩上がりの手書き文字でタイトルを載せるビジュアルが多すぎるのは、ちょっと食傷気味です。