「PIG/ピッグ」(2021)

 

ニコラス・ケイジが渋い名演で魅せる良作をU-NEXTで観ました。

 

 

監督・脚本はこれが長編デビューのマイケル・サルノスキ。予告編はコチラ

 

オレゴン州の森林の掘っ立て小屋で世捨て人のような暮らしをしているロブ(ニコラス・ケイジ)。収入源はトリュフ。毎週木曜に訪れるバイヤーのアミール(アレックス・ウルフ)森林で収穫した高級トリュフを売って、トリュフを見つけてくれるブタ仲良く同棲中です。ある日、暴漢数名がロブの家に押し入ってブタを強奪していきます。襲撃されて血だらけになったロブ愛するブタを奪還するために森林を出て、ひさしぶりに街(ポートランド)に降りてきます。社会との唯一の接点であるアミールを呼び出してアミールの車に乗って犯人捜しを始めるロブ。ポートランドは全米随一の食通の街として知られていて、ロブが収穫したトリュフがバイヤーのアミール経由で多くの有名レストランに流通していました。顔面血だらけのコキタナイ恰好のままで高級トリュフが卸されている一流レストランに入って、人気シェフを呼び出すロブ

 

いきなり「俺のブタを返せ」とワケの分からないことを言い出すロブの顔を見てビックリするシェフ。かつてシェフが駆け出し時代に弟子入りしていて、ポートランドで最も有名な人気シェフだったロビン・フェルドではありませんか。ロブは15年前に忽然と姿を消して、隠遁生活を送っていました。ブタ誘拐犯のヒントを聞き出した後、料理の本質を追求せずに人気先行レストランビジネスに走るシェフに説教して店を出るロブ。そして、事件の黒幕は、ポートランドのグルメ業界の名士であるダリウス(アダム・アーキン)であることが判明。ダリウスはアミールの父でもあります。嫌がるアミールを連れてダリウスの豪邸に乗り込むロブ。またしても「俺のブタを返せ」とダリウスに迫るロブ。どうやら、ロブとダリウスは旧知の仲で、過去に何らかの因縁があった模様。ロブは最初からダリウスの仕業だと睨んでいたフシがあります。ブタを返そうとしないダリウスにキレたロブが取った意外な行動とは・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題も「PIG」。愛してやまないブタを奪われて激オコのおっさんが都会に現れて悪党と大バトルを繰り広げる大味なB級アクション映画なのかと思ったら、いい意味で期待を裏切ってくれました。過去を断ち切ってステイホームの生活をしていたロブが暴漢に襲われて、ポートランドで捜査を開始。ビルの地下でシェフが集まって殴り合いの大会を開催している"ファイトクラブ"にいきなり潜入する謎の展開があってから、ロブの過去が次第に明らかになって、天才的な料理の腕で黒幕のダリウスをねじ伏せます。シンプルなレシピの料理がすごく美味しそうです。ロブだけでなく、チャラいバイヤーにしか見えなかったアミールにも、父で黒幕のダリウスにも心に抱える闇があって、説明描写があまりないにも関わらず、それぞれの葛藤があぶり出されていく良質な人間ドラマとなっていました。ちょこまか動き回るブタもカワイイです。

 

悲哀の表情がサマになるニコラス・ケイジの演技が絶品で、抑制された演技が続いた終盤で感情を露わにする場面は名シーンでした。周りなんか気にしないで好きなことに本気で打ち込めと言うセリフ通り、ずっと血だらけのままで都会をうろつくニコラスが徐々にカッコ良く見えてきます。ブタは愛するモノの象徴であり、愛する仕事や、愛する人や、愛する気持ちを失った者たちの苦み走った大人の物語であると同時に、自分の道を邁進しすぎて挫折してしまったロブと、ビジネスライクに割り切って成功者となった父ダリウスの間で思い悩むアミールの成長物語にもなっているところが上手いです。森林で美味しいトリュフを見つけるのと同じくらい、掘り出し物の一品でございました。(どんな映画賞よりも信頼できると言われている)オバマ元大統領が選ぶ2021年お気に入り映画にもリストアップされていました。