「君だけが知らない」(2021)

 

記憶喪失の女性をめぐる韓国サスペンス映画をU-NEXTで観ました。

 

 

監督は、これがデビュー作のソ・ユミン。予告編はコチラ

 

不慮の事故で頭部を打って記憶喪失になってしまったソジン(ソ・イェジ)。病室で目が覚めると、夫のジフン(キム・ガンウ)が優しい表情で見守っていました。退院後も夫の献身的な支えで日常生活に戻ろうとするソジン。記憶喪失は相変わらずで、夫から聞いた自分の過去を信じるしかありません。事故で変化したことがもう一つあって、予知夢だか幻覚だかを見るようになったソジン。同じマンションに住む小さい女の子女子高生が数分後に不吉なことが起きる夢を見てしまったので、その症状を夫に告白して病院に行きますが、デジャブといわれる幻覚ですよと医者に言われます。その後、自分が誰かに襲われる夢も見て、不安が増大して取り乱してしまうソジンを優しくなだめるジフン

 

事故の前に夫婦で約束していたカナダへの移住話をなぜか早急に進めようとするジフン。それ以外にも、自分の行動をGPSでチェックしたり、深夜にこっそり出かけていたり、記憶喪失前の職業を教えてくれなかったりする夫ジフンのあらゆる言動に不信感を募らせていくソジン。夫が本当の夫ではないのではという疑念が湧いてきます。その頃、警察ではソジンが住むマンションのそばにある建設途中で取り壊しとなったマンションに関わる事件も捜査をしていて、そのマンション建設の責任者だったジフンが事件に絡んでいることが判明、ますますジフンが怪しい存在になっていきます。ソジンが見ている幻覚の正体は何なのか、夫と名乗るジフンは果たした何者なのか・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「내일의기억(明日の記憶)」。主人公の人妻がいきなり記憶喪失になっているシーンから始まります。優しい夫が徐々に怪しくなっていく過程と、主人公が見る幻覚が同時進行。ネタバレとなってしまいますが・・・、小学生っぽい少女と高校生っぽい少女を主人公だけが目にする展開のため、主人公の過去を幻覚で見ているのだろうなと容易に想像できてしまいます。その少女の兄までもご丁寧に出てくるので、ソジンとジフンの過去であることも何となく分かってしまいます。伏線を提示する際に画面に分かりやすく映さざるを得ない映画やTVドラマは、文章に巧みの伏線を忍ばせられる小説よりも、トリックありの推理モノを描くのに向いてないメディアなんだなとつくづく思います。

 

主人公の過去が悲しすぎです。にしても、不幸が押し寄せすぎ。か弱くて守ってあげたくなる人妻役のソ・イェジと、誠実さが表情に丸出しの夫役のキム・ガンウがそれぞれ細やかな演技を見せています。ソ・イェジは貧相な顔つきがサラサラした髪型との調和が取れた時、絶妙に美しく見える瞬間があって、魅力的です。稲垣吾郎をゴツくしたようなキム・ガンウも誠実さのウラに強い信条が見え隠れする演技が良いです。過去を知りたいソジンに「いつ告白したの?」と聞かれて「告白はできなかった。結婚式の日も。」とジフンが返すやりとりが切ないです。暴力にまとわりつかれた世界にたった一つだけ存在する一途な愛の存在がしみじみとさせてくれる映画でございました。