「JUNG_E/ジョンイ」(2023)

 

母子愛ありのSFアクションをネットフリックスで観ました。

 

 

監督はヨン・サンホ。予告編はコチラ

 

時は22世紀。急激な気候変動で地球に住みづらくなった人類は、地球と月の軌道面の間に80個の宇宙シェルターなるものを作って移住。しばらくして、3個の宇宙シェルターがアドリアン自治国を名乗って独立、地球連合軍と戦争が40年も続きます。その争いを止めるべく、軍需企業のクロノイド社が伝説的な女戦士ジョンイ(キム・ヒョンジュ)の脳から複製したデータを利用して、究極の戦闘用AIを開発中。クロノイド社はジョンイの遺族の了承を得て、残された娘を無償で育てる代わりに、35年前の軍事作戦に失敗して植物人間になったジョンイの脳データを利用する権利を所有。大量複製した使い捨ての脳データで何度も戦闘シミュレーションを繰り返してますが、なかなか完成しない状態が続いています。

 

戦闘用AI開発プロジェクト部門の所長はサンフン(リュ・ギョンス)。寒いジョークを連発するイヤミな男。現場責任者はソヒョン(カン・スヨン)で、ジョンイの娘です。ソヒョンは幼い頃に大病を患っていて、その手術費を稼ぐため傭兵として戦ったジョンイが植物人間になってしまったという罪悪感を抱えています。さらに、自分の体にガンが転移して余命僅かと宣告されたばかり。究極の戦闘用AI完成まであと一歩のある日、クロノイド社の会長からプロジェクト中止が告げられます。アドリアン自治国と地球連合軍との和平交渉が成立、戦闘用AIを作る必要がなくなったので、今後は家庭用AI開発に路線を変更して、これまで培った知見を有効利用するということで、用無しとなってしまった戦闘用AI開発プロジェクト部門。しかし、母のデータを悪用する企みを知ったソヒョンは、最後のシミュレーションの日、母の脳データ(母との思い出)を守るためにある作戦に出るのだが・・・というのが大まかなあらすじ。

 

「新感染 ファイナル・エクスプレス」等、コンスタントに実写作品を発表していて、アニメーターとしても優秀なビジュアリスト、ヨン・サンホの最新作。過去のサイバーパンク系映画のエッセンスをふんだんに盛り込んで、そこに韓国ドラマにありがちなお涙頂戴様子も加えて、エンタメのツボを確実に押さえた作り。モノレールがキーアイテムになっていて、終盤のアクションの舞台にもなっていました。ヌメヌメした質感のCGをあえて味わいとして利用して荒唐無稽感を強く押し出しています。ジョンイを演じるキム・ヒョンジュがほのかに醸し出す色気が効いていて、妙にエロチック。昨年5月に急逝したため、これが遺作となってしまったベテランのカン・スヨンは熱演がちょっと浮き気味だったかな。常に空回りしているリュ・ギョンスの寒いユーモアはしつこくリフレインすることで一定の効果を生んでいます。

 

脳データをロボットに移植することで寿命を延ばせるようになった未来。ただ、脳データの利用にもお金がかかります。自分の脳データを独占利用できてこれまで通りの自由な生活ができるAタイプは高額、脳データを政府に提供した上で結婚や移動の自由に制限がつくBタイプは少し安くなって、脳データが企業に売られて大量のクローンを勝手に作られてしまうCタイプは無料といった具合で、貧富の差は如実。移植技術創成期にCタイプの契約をせざるを得なかったジョンイの脳データはクロノイド社に好き勝手に利用されていて、人間の尊厳を無視して使い捨てされる母の姿を見続けたソヒョンが、35年後にようやく反旗を翻します。私がこの世界に生きていたら、間違いなくCタイプでしょう。。。あと、脳データの解析でたいてい可視化できる能力パラメータが多い中で、見えづらい愛の力が未知で最も覚醒する可能性を秘めているという設定は面白かったです。