「無宿人御子神の丈吉 牙は引き裂いた」(1972)

 

笹沢佐保原作のアウトロー映画を観ました。初見。

 

 

監督は池広一夫。予告編はコチラ

 

御子神の丈吉(原田芳雄)は、渡世の世界では名の知れた一匹狼。ある日、茶屋の女将お絹(北林早苗)が地元の実力者である長五郎(内田良平)と徒党を組んでいる九兵衛(南原宏冶)に絡まれたのを助けた縁で、お互い愛し合うことになって、ヤクザ稼業から足を洗って遠い土地でお絹と所帯を持つことになります。数年後、子供も出来てカタギとして細々と暮らしていた丈吉ですが、仕事で宇都宮を訪れた時、恨み続けていた九兵衛一派に捕まって、リンチを受けます。自分の左手の薬指と小指を失っただけでは済まず、自宅に戻るとお絹と子供の惨殺された姿を目にします。ヤクザ者に戻って妻子を殺した敵に復讐を誓った丈吉

 

さっそく、宇都宮に戻って妻子殺しの首謀者の1人である九兵衛宅を襲う丈吉。しかし、九兵衛の客人、疾風の伊三郎(中村敦夫)に斬られたため、一時退散。その後、湯治場で傷を癒している時に同宿していた松次郎(菅貫太郎)とお千加(松尾嘉代)夫婦チンピラに襲われていたのを助けます。夫松次郎を殺されたお千加が丈吉の復讐の相手である国定忠治の行き先を知ってるというんで、行動を共にします。お千加の実家を訪ねる予定の国定忠治を討ちとりに来たものの、またしても九兵衛一派のワナにハマって絶体絶命となった丈吉の運命はいかに・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1972年10月10日。石原裕次郎主演「影狩り」の併映。計3本作られたシリーズ物の第一弾。4本作る予定が未完のまま終わった模様。股旅物ドラマの金字塔「木枯らし紋次郎」が大ブームを巻き起こした年で、同じ笹沢佐保の同じ原作を映画化。雄大な自然をバックに歌い上げるテーマソングなど、もろにその影響を引きずってます。撮影監督は名手宮川一夫(撮影のクレジットは市原康至)。自然を生かしたロケーション撮影はまずまずの見栄え。監督も撮影も「木枯らし紋次郎」のスタッフですが、完成度はドラマの方が上かな。アメリカではDVD化(英語タイトルは「The Trail of Blood」)されているのに、日本ではソフト化されていません。


見どころは原田芳雄のダークヒーロー像。当時32才で若いギラツキもたっぷり。逆手斬りのワイルドな殺陣には躍動感があります。爪を研いで武器にする設定もあり。一緒に俳優座を脱退した中村敦夫と菅貫太郎が脇で支えていて、アイパッチをつけて紋次郎と差別化している中村敦夫が中盤までは敵、終盤には助っ人となって登場。菅貫太郎は情けない夫役ですぐ殺されますが、一癖ある配役になっています。峰岸徹(当時の芸名は峰岸隆之介)も中盤で丈吉と共に戦う無宿人の役で出演。実はこの男は国定忠治だったという設定が次作以降にあるようです。九兵衛の手下に伊達三郎、松尾嘉代を襲う盗賊に橋本力など、大映系脇役俳優の顔も。原作者もカメオ出演。女優陣では、丈吉と所帯を持つ北林早苗、湯治場の娘の水原麻記も良いですが、松尾嘉代の色気がたまりません。死地に向かう丈吉心配そうに見送るシーンが本作のベストショット。黒幕は意外な人物だったのがビックリ。復讐の序章を紹介したにすぎず、2作目以降の展開も観てみたいもんです。