「激怒」(1936)

 

冤罪の男が市民の暴走で殺されかけて復讐を誓う話をAmazonプライムビデオで観ました。初見。

 

 

監督はフリッツ・ラング。予告編はコチラ

 

ジョー・ウィルソン(スペンサー・トレイシー)はフィアンセのキャサリン(シルヴィア・シドニー)と結婚間近チャーリーとトムという無職の弟に更生の道を説いて、生活費と結婚資金を貯めるべくマジメに働いている好青年。キャサリンは離れた土地で教職に就いてるため、次に会う日を楽しみにしています。やがて、中古車を買ったジョーは休日にキャサリンが住む場所へとドライブに出かけます。1年ぶりの再会に胸躍る二人。しかし、道中で保安官に尋問を受けたジョーは、少女誘拐犯の一味として逮捕されてしまいます。どうやら、町の娘を誘拐した中の一人と乗用車の車種が同じで、犯行現場に付着していた食べ物がジョーの大好物でいつもポケットに入れているピーナッツだったことで容疑がかかった模様。

 

犯人が捕まった情報は尾ひれはひれが付いて市内を駆け巡っていき、逮捕の数時間後には、幼女を誘拐した極悪犯罪者に制裁を加えようと暴徒化した市民の一部がジョーの留置されている警察署に詰め寄って、放火する騒ぎにまで発展。地元新聞社が暴動の様子をニュースフィルムに収めます。ジョーが捕まった情報を聞いたキャサリンが警察署前に着いた頃には、時すでに遅し。燃え上がる警察署の牢屋越しにジョーの姿を見つけたキャサリンはショックで倒れます。で、暴動後にジョーの無実が発覚。騒ぎを起こした市民たちは何事もなかったかのようにフツーの生活に戻ります。一方、牢屋から人知れず逃げ延びて自宅に戻って来たジョー。焼死していると思われている事実を利用して、暴動という名のリンチに加わった重なる人間に復讐するため、ある行動に出るのだが・・・というのが大まかなあらすじ。

 

戦前のドイツ時代に映画史の残る傑作群をすでに作っている巨匠フリッツ・ラングが亡命後、ハリウッドで最初に作ったプログラムピクチャー。一人の罪なき善良な男が集中砲火を浴びる前半と、生き延びた男が復讐に燃える後半。被害者になった主人公の立場になるのも恐ろしいし、噂だけで無実の男に危害を加える側となる可能性が自分にもあるのではとも考えさせられるし、残酷な行動を起こしたヤツらに同じ目に遭わせようとする主人公の気持ちも分かります。とても分かりやすい対立構図で、正義の名の下に暴走する心理・行動が力強く描かれていて、テンポの良さが素晴らしく、サスペンスの醸成もお見事。SNSでの加害者デマ、過剰攻撃に通ずるモノがあり、暴動の証拠になったのがニュースフィルムの映像という点は時代を感じます。

 

ヒロインのシルヴィア・シドニーはクリっとした瞳が特徴的で、追い詰められた涙目の表情が良かったです。晩年にはティム・バートン作品に数本出演してたんですね。主役ジョーは名優スペンサー・トレイシー。パッとしない顔立ちのゴツイおっさんというイメージでしたが、若いころからやっぱりゴツイです。翌年、翌々年と立て続けにアカデミー賞主演男優賞を受賞しており、初めてのヒット作での主演となったのが本作でした。怒った表情はすごく怖かったです。それ以上に、嬉々として暴動に参加する市民の顔のアップがもっと怖い快作でした。