「罠」(1949)

 

ボクシング映画の傑作がAmazonプライムビデオで見放題になってたので、久々に観ました。

 

 

監督はロバート・ワイズ。オープニングシーンはコチラ

 

30代中盤に差しかかったベテランボクサー、ストーカー・トンプソン(ロバート・ライアン)。戦いの場を求めて妻ジュリー(オードリー・トッター)と巡業生活を続ける日々。ジュリーはストーカーが打ちのめされるのを見るのがツラくて、早く引退してくれることを願ってますが、夢を諦めきれないストーカーは今日もリングに立って戦います。本日夜の対戦相手は若手有望株のタイガー・ネルソンストーカーのマネージャーやセコンド達も彼の将来には期待しておらず、対戦相手ネルソン陣営から誘われた八百長に乗っていて、ストーカーにわざと負けさせることを条件に前金を受け取っている始末。どうせ勝つわけがないとタカをくくっていたストーカー陣営はストーカーに八百長話を伝えず、そのままリングに上がらせます。八百長の条件は3ラウンド以降でストーカーがKO負けすること。そんなことはつゆ知らず、自身と支えてくれる妻のために必死で戦うストーカー。ガチでファイトし続けるストーカーに驚くネルソン陣営。3ラウンド終了後、実は八百長をしていること、負けないとネルソンのバックにいるギャング、リトルボーイに制裁を加えられることをマネージャーから告げられたストーカーですが、時すでに遅し。一度火がついたストーカーの闘志が消えることはなく、逆に発奮したストーカーはネルソンをKOで倒してしまい・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「The Set-Up」。"八百長"の意味です。ジョセフ・モンキュール・マーチの原作では黒人ボクサーが主人公だったものの、まだ黒人を主人公にした映画が少なかった当時のハリウッド、結局、白人に差し替えられて製作されました。ボクシング映画というより八百長映画かも。現実時間と映画内時間がほぼリアルタイムで進行する仕掛け。夜9時5分に始まり、10時16分で終わります。試合が始まると興奮して応援するご婦人や野球のラジオを聞きながら観戦する客、ずーっと何かを食べているデブ、応援する選手が打たれると自分も痛がる紳士等、場末のリングサイドで観戦する庶民のスケッチも面白いです。そんな会場の様子と、ロッカールームでのボクサー達の人間模様や、心配してるけど恐くて試合会場には行けずにホテル近くをブラブラと彷徨う妻と試合前後のストーカーの様子をリアルに描いた傑作でした。最後は夫婦愛でホロっとされられます。

 

主演のストーカー・トンプソンを演じるのは、ロバート・ライアン。"ストーカー"はリングネームで、蒸気機関車の助手とかの意味のようです。ロバート・ライアンは大学時代にボクシングをやっていたらしく、サマになっていました。最後のひと花を咲かせようとするくたびれた中年を好演。このショットが特にカッコイイ絵でした。この人は老けてからさらにいい役者さんになった人という印象。監督のロバート・ワイズはのちに「ウエスト・サイド物語」(1961)「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)も手掛けるレジェンド。1940-50年代は職人監督として手堅いB級映画を量産していた頃で、そんな時期に作られた意欲作のひとつが本作。面白いカメラワークやテンポの良い編集、コンパクトに凝縮されたムダのないストーリテリングは見事。あと、UFOキャッチャーに興じるシーンがあって、この時代にすでにあったんだなと知りました。