「一日だけの淑女」(1933)

 

フランク・キャプラのおとぎ話をAmazonプライムビデオで久々に観ました。

 

 

題名通り、一日だけ淑女になるおばちゃんのお話。予告編はコチラ

 

デーヴ(ウォーレン・ウィリアム)はNYのギャング。勝負事が好きで、ゲンを担ぐ主義。デーヴのラッキーガールは、街角でリンゴの歩き売りをしているアニー(メイ・ロブソン)。アニーのリンゴは勝利を呼び込むと言って、街角にいないと手下にアニーを毎回探させています。細々と暮らしているアニーの唯一の希望は一人娘のルイーズ(ジーン・パーカー)。異国スペインの修道院寄宿学校に通わせているルイーズからの手紙を楽しみにしています。手紙によると、地元の伯爵の御曹司と恋仲になっているとのこと。アニーは見栄を張ってホテルのニュースレターをくすねて、現在はホテル住まいでセレブな生活をするようになっているとルイーズ宛の手紙に書いて文通しています。

 

そんなある日、「この手紙が着くころには、伯爵父子と共にNYに着いています」という内容の手紙が届きます。いま娘に来られてしまったら、嘘がバレるし、何より、娘と御曹司との縁談もご破算になるに違いないと、途方に暮れたアニー。そんな絶望的な彼女に手を差し伸べたのがデーヴでした。アニーの一大事は自分の一大事だと思ったデーヴは、ヤクザ稼業を一休みして、なんとかアニーを「一日だけの淑女」にすべく、奔走します。アニーを貴婦人の格好にして、高級ホテルの部屋を手配して、伯爵父子を歓迎するレセプションパーティーを開きます。出席者は自分の手下たち。ギャングをセレブに見えるように猛特訓を開始。一方で、デーヴが怪しい動きをしていることを察知した警察は抗争が起きるのではと思い、デーヴの身柄を確保しようとします。いよいよやって来た運命の日。果たして、アニーは淑女を演じ切ることができるのか・・・というのが大まかなあらすじ。

 

ブロードウェイやアウトロー、ギャンブルなどをモチーフにした人間臭い小噺を得意にした作家であるデイモン・ラニアンの短編「マダム・ラ・ギンプ」が原作。可笑しくて、最後には心温まるフランク・キャプラ節が開花した作品といわれています。本人も遺作「ポケット一杯の幸福」(1961)でリメイクしたし、ジャッキー・チェンも「奇蹟」(1989)でリメイクしていました。社会のはみ出し者であるアニーの周囲にいる貧しい仲間たち(盲目の人や足のない人もいます)が、デーヴにアニーを助けてほしいと懇願する場面あたりからウルっと来てしまいます。何か良からぬことを企んでいると警察に捕まってピンチに陥るデーヴ。実際、伯爵に近寄ってインタビューしようとした新聞記者を(アニーの素性がバレないように)拉致・監禁しているので罪を犯しているのも事実。アニーのために一芝居打っていると言っても信じてもらえないだろうと思っているデーヴがダメ元で警察に「おとぎ話を信じるかい?」と語るところは名場面の一つ。

 

母親アニーを演じたメイ・ロブソンは当時すでに75才。20代前半くらいの娘がいる設定が少し謎ですが、オンナを感じさせる風貌や年齢にしちゃうとギャングの親分デーヴとの関係性に恋愛要素を感じさせるようになってしまうので、そのへんのバランスを考慮してのものでしょうか。ホロっとさせる名演技を披露しています。デーヴ役のウォーレン・ウィリアムもよくしゃべる気のいいギャングを好演。どっちの角砂糖にハエが止まるかで賭け事に興じている初登場シーンから、根っからの悪人ではない雰囲気が出ています。デーヴのそばにいる二人の子分もデーヴの恋人も愛らしく、特に、アニーの夫役を演じるインチキ紳士役のガイ・キビーがいい味を出しています。浮浪者やヤクザ者が力を合わせて、なおかつ意外な人物もおとぎ話を信じて協力することになって、最後には素敵な奇跡を起きる名作です。