「キング・オブ・コメディ」(1982)

 

デ・ニーロがパラノイアックな芸人を演じた映画をU-NEXTでひさびさに観ました。

 

 

監督はマーティン・スコセッシ。予告編はコチラ

 

人気コメディアンのジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)の出待ちをしているコメディアン志望で34才独身のルパート・パプキン(ロバート・デ・ニーロ)。強引にジェリーの車に乗り込んできた狂信的ファンのマーシャ(サンドラ・バーンハード)を追い払って、車に居座って自分を売り込みます。ジェリーは社交辞令で「今度、事務所に電話してね」と伝えてルパートを追い払います。ルパートは翌日ネタ見せでジェリーの事務所にアポなしでやって来ますが、ジェリーは会ってくれません。その場を取り繕う秘書にネタのテープを持ってきてくれればと言われて、次の日、ホントに持ってきたので受け取った秘書が翌日返事をしますと言って追い返すと、当然のように次の日、ルパートがやって来ます。キャシーがルパートにネタのアドバイスをしますが、ジェリーにどうしても直接アドバイスを聞きたいとしつこくゴネるので、警備員に事務所のビルから追い出されます。ジェリー側はこれ以上絡みたくないのに、ルパートはジェリーがきっとネタを絶賛してくれて自分をスターダムに押し上げるサポートをしてくれると完全に思い込んでいるので、誇大妄想の歯止めが利かない状況になっています。

 

ルパートは週末にジェリーに招待されてるんだとバーで働く同級生のリタ(ダイアン・アボット)を誘って、ジェリーの別荘に向かいます。招待されているというのはルパートの妄想。勝手に別荘に上がり込んだ2人をジェリー本人か追い返そうとしますが、妄想に取り憑かれたルパートには話が通じません。狂っているルパートを見てドン引きして去って行くリタ。妄想が頂点に達したルパートは、前述のマーシャとタッグを組んでジェリー誘拐を決行。TV局に自分をジェリーのTVショーに出演させるよう要求。念願叶ったルパートはTVショーで持ちネタのスタンダップコミックを披露。観客から喝采を浴びます。当然、待ち構えていた警察に捕まって逮捕されますが、ルパート・パプキンは一夜にして有名になって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

映画評論家で「マルクス兄弟のおかしな世界」の著者でもあるポール・D・ジマーマンの脚本をロバート・デ・ニーロが気に入って、スコセッシ、マイケル・チミノに監督を断られて、またスコセッシに戻って作られました。デ・ニーロ扮するルパート・パプキンの"ヤバい"コメディアン像が最大の見どころ。自分が売れると信じて疑わない、面白くないコメディアン志望の男を静かに狂った感じで演じています。スタンダップコメディアンの佇まいはリチャード・ベルザーをお手本にしたとのこと。映画で描かれてる出来事が現実なのか、ルパートの妄想なのか、曖昧にしているラストがとても面白いです。私は初見時から妄想派です。

 

改めて観ると、異常なデ・ニーロの演技を受けるジェリー・ルイスのリアルな存在感が素晴らしいなと思いました。監督本人はTVショーのディレクター役で出演。デ・ニーロのオカン(声だけの出演)はスコセッシのお母さんが演じています。おまけに、スコセッシの娘も妄想シーンでのルパートのファン役で出演。家族総出。交際していたライザ・ミネリも出てました。リタ役のダイアン・アボットはデ・ニーロの当時の奥さん。IMDBトリビアによると、デ・ニーロと一緒に狂信的なファンを演じたサンドラ・バーンハードの役はメリル・ストリープにオファーして断られたこと。公開時にはヒットしません(製作費1,900万ドルで全米興収250万ドル)でしたが、ニコール・キッドマンやスティーブ・カレル等、本作を好きな人は多く、もちろん「ジョーカー」(2019)にも大きな影響を与えました。1980年代前半のNYの街並みも含めて、かっこいい映像はあまりないものの、架空の観客を前にして売れっ子気取りで妄想中のこのシーンは好きです。