Netflixで、今村昌平の“重喜劇”の傑作を観ました。
エゴがむき出しのねちっこい人間模様を描く作風で国際的な評価も高い今村昌平監督作品の中でもトップ3に入る評価の今作。初見です。
生まれた境遇や地元社会の因習によってずっと虐げられてきた女性に新たな災難が降りかかってきて、さらにドロ沼にハマっていくお話。妾の子として虐げられて、女中時代に手籠めにされた男の子を産み、息子だけが籍を入れられて、ずっと女中待遇で働きづめの女(春川ますみ)が主人公。体だけは求めてくる病弱な男(西村晃)、いつもつらく当たる男の母(赤木蘭子)、男の妻の座を狙う愛人(楠侑子)、自分を強姦した後もしつこく付きまとう別の男(露口茂)などが絡み合う負のスパイラルを断ち切ろうとする春川ますみが絶妙の存在感で好演しています。性的にも単なる労働力としても搾取されまくっている境遇を半ば諦めながらも彼女なりにもがいて生きている様子にリアリティがあります。
内容がドロドロしてるのに対して、モノクロの映像が抜群に素晴らしく、構図が美しいだけでなく、躍動感のあるカメラワークや幻想的なシーンも効果的で、濃密な絵作りに驚きました。今観ても、実写としては世界最高水準の映像表現だと思います。住んでる借家が線路沿い、強姦男に絡まれるのも列車内だったりと、列車がやたら出てきて、どのシーンも印象的です。室内場面から雪景色まで日本の原風景をキレイに撮影しています。どんよりとした状況下で笑うに笑えないコミカルな描写も織り交ぜられいて、“重喜劇”と呼ばれる独特のタッチも堪能できました。
物語は女性がこのまま不幸のどん底に突き落とされるのかと思ったら、ちょっとしたミラクルが起きて、最悪の事態は免れます。この後、彼女の状況が好転したかのようにも思えるし、逆に今までと変わらぬ日常が待ち受けてそうな気配も漂わせながら、映画は終わりました。一言でどんな映画かは表しづらいし、1回観ただけでは消化しきれない箇所もたくさんありますが、過去に観た6作品(好きな順は「"エロ事師たち"より 人類学入門」(1966)、「豚と軍艦」(1961)、「人間蒸発」(1967)、「果てしなき欲望」(1958)、「復讐するは我にあり」(1979)、「楢山節考」(1983)、「ええじゃないか」(1981))と比べてもダントツに面白かったです。最近、日本映画は東京五輪開催年公開の映画ばかり観てるなあ。
