ジブリ映画を初めて映画館で観ました。池袋のグランドシネマサンシャイン。
観客は30~40人くらい。公開時のブームに乗りそびれていて、いつか再上映するタイミングでスクリーンで観たいなとはずっと思っていました。ジブリ映画は「風の谷のナウシカ」(1984)をTVで一度観ただけの情報弱者です。甲高い声の主題歌とポスタービジュアル情報くらいしか知らなかったので、てっきり、石田ゆり子が森の中で自然破壊をする人たちを襲って噛み殺していく映画だと思ってました。
いろいろ整理しきれない部分があったので、他の人のレビューを読んでみましたが、人間と自然の対立構図として語られてるものが多かったですね。ほぼ同意ですが、哺乳類間の生存競争に話を集約しているのかなという感じでした。人間と、言葉をしゃべる山犬やイノシシ、しゃべらないけど神秘的な力を持つシシ神などの哺乳類が主要キャラで、鳥や魚はほとんど登場せず、森林も言葉を発しません。何もしないコダマも2本足の生き物でした。哺乳類の種の数は全動物界の中で1%にも満たないらしいので、ここで描かれている闘争は自然界の一部の生物たちの言い争いでしかないとも言えます。だから何なのかは観たばっかりでよく分かりませんので、この話は、おしまい。
元のタイトルは「アシタカ𦻙記」だったらしく、アシタカの成長譚を軸に描かれてました。日本の雄大な自然をバックに、かつて日本に存在した様々な境遇の人たちの物語となってるところも素晴らしいです。アシタカは、時の権力者に追いやられて山奥の集落で生きながらえている一族の次世代リーダーの資質を持っている若者。彼がとある理由で旅に出る中で、(人間社会の異端扱いされた者たちで形成した独自のコミュニティを束ねている)エボシ御前や、(自然界に捨てられて動物たちと共生していて人間に敵意を持つ)サン、(権力者の回し者でシシ神の首を狙っている)連中と出会います。最終的に、それら三つ巴の大ケンカに巻き込まれてしまい、アシタカは何とかしてその事態を収拾しようとします。
登場キャラのほとんどが抑圧された経験がある存在であるのに対して、アシタカは虐げられた一族の出身ではあるものの、彼自身はまだ実社会で直接的に虐げられた経験がなさそうです。彼が外の世界に飛び出して、"曇りなき眼で見定めて"いくことで、復讐の連鎖を断ち切って共存の道を探ろうとしていることに一縷の希望を見出せます。この後、より大きな支配力(この映画には出てこない、時の権力者)に直面したらどうなるかは分かりませんけども、圧倒的なアニメーションを通して、これを観た子供たちが何かを感じ取ることは大切だと思いました。
アシタカ役の松田洋治が良かった。エボシ御前の特徴的な声も耳に残りやすくて、エンドクレジットで田中裕子だと分かりました。山犬で、もののけ姫の育ての母役の美輪明宏の声にもインパクトがありました。もののけ姫(サン)役は、英語版では「ホームランド」(2011-2020)の主演女優、クレア・デインズが吹き替えてるらしいです。日本語版のニュアンスを英語版で出せているとは思えず、描かれている時代背景の理解も含めて、日本人だからこそ深く楽しめる映画だと思いました。