ユキダルマの恋愛事情 -6ページ目

はがしかけたシール

オスカーの態度が何だかおかしいと思っていたら、そんなことを考えていたのか。


「短い期間では、ぼくは結婚相手を決められない。

たとえ相手がどんなにステキな人であっても、ぼく自身がまだ大人になりきっていなくて、結婚できるかどうか分からない。だれかと結婚しようと思えるまであとどれくらいかかるか自分でもよく分からない。

ビザの期限が切れてしまったときに、『じゃあ、さようなら』ではあまりにひどいから、


今、別れようかと。


これから誰かと出会って恋をして結婚するとしても、ビザのための偽装結婚をするにしても、少なくとも2ヶ月は必要でしょう。」


天国から地獄へまっさかさまとはこのことだ。


態度がおかしくなったのは、フロリダから帰ってきてからだ。

彼女を両親の家に連れて行ったその後、急に結婚が近くに迫ってきたように感じて、こわくなってしまったらしい。


「ただ罪悪感から逃れたいだけことじゃない」

ということばをあわてて飲み込んだ。


確かに、私も浮き足立っていた。


つきあい始めてまだ1ヶ月もたたないうちに、たまたま日本から私の両親がニューヨークへ遊びに来た。この旅行はオスカーと私が出会う前から計画されていたものだった。両親が来ると知って「僕は紹介されるんだよね」と当然のことのようにオスカーは言った。私は今までに自分の彼氏を両親に紹介したことはなかったし、今回もそんなつもりはなかった。けれどもオスカーが当然のことのように言うので、正直なところ断りきれずに、一緒に食事をすることにした。

 結果としてはよかったのだと思った。両親も喜んだ。私もオスカーの気持ちをありがたく思った。


 クリスマスにオスカーのご両親の家に行くことに決めたのは11月だった。「僕の両親が会いたいって」と言われて、ほいほいとついていくことになった。


断る理由は見当たらなかった。

 でも、今にして思えば、もっと、目を皿のように大きく開いて、断る理由を探すべきだったのかもしれない。

帰ってきてからオスカーの呟きを聞いてしまった。

「だって僕がクリスマスに両親のところへ行ったら、君の家族は遠くにいるんだから君は一人になってしまう。君をクリスマスに一人にするわけにはいかなかったし」


英語で小さく呟いていた。聞き取れなかったらよかったのに。

じゃあ、9月にはどうして私の両親に会うなんていったの、と聞き返したかった。


「ビザの問題は、私が自分で何とかするから。オスカーは心配しなくていいから。」


自分で何とかできる問題ではないことは明白だった。でも、自信たっぷりにそう言う以外に何と言ったらよいかまったく思い浮かばなかった。


なだめすかしてやっと「今、別れる」という考えからオスカーはやっと抜け出してきた。

態度も少しずつ不安がなかった頃のものにもどってきた。


でも、やっぱりどこかぎこちない。

オスカーは戻っても、私のほうが戻れないのかもしれない。


はがしかけたシールみたいだ。


はがしかけて、やっぱりはったままにしておこうと気を変えて、はりなおしたシール。どんなに強く上から抑えても、なんとなく端から持ち上がってはがれてきてしまう。


「やっぱりステキな人だと思った。君が隣に寝ていてくれてうれしい」

甘いことばも心にしみてこない。


現在のビザの期限まであと2ヵ月半。

結婚を考えてくれる人を探すべき?

オスカーとの関係をもっと温めていくべき?