これね、相当なネタバレ抱えてるほど良く作り込まれてる作品で、このブログもネタバレ全開でいくから嫌な人は回避してね。
1、音楽禁止の家族
音楽を愛して、ミュージシャンになりたい少年ミゲルですが、家族中から猛反対されているし、ちょっと歌ったり楽器を演奏するだけも厳禁。
理由は、ミゲルの高祖父が音楽への夢のために、高祖母と幼い娘(ミゲルの曾祖母ココ)を捨てて帰らなかったから。
特に高祖母のイメルダは音楽禁止令を出してミゲルに二度と音楽をやらないと誓わせようとしたり、祖母のエレナはミゲルのギターを叩き壊すほど。
これはアリエルの宝物を破壊したトリトン王や、メリダの弓を燃やしたエリノア王妃と同じ。
トリトンやエリノア、モアナの父やジュディの両親のように、ディズニー作品にはよくある子供の夢を禁止する家族。
でも、子供(主人公)の夢を潰そうとする親=悪者ではなく、それは子供への愛情故のもので、愛しているからこそ苦悩して、子の大切なものを壊すというやってはいけない事をしてしまう。愛のある親だって過ちを犯す事だってあるでしょう。
単に愛のある家族=問題がなく幸せとか、夢を反対する=「悪」ではなく、この現実的で複雑な家族の描写が魅力的。
2、今作の悪役
ミゲルが高祖父だと思い込んでいた伝説のギタリストのデラクルスは今作の悪役でした。
今までのディズニーヴィランズも容赦ない恐ろしい悪役揃いだったけど、コイツは私利私欲と保身だけで人殺しするわ、苦悩もコンプレックスも悲しい背景もない、自身をリスクに晒す事もしないから本当に極悪。
彼のヒット曲「リメンバー・ミー」はヘクターが幼い娘のために作った曲。
デラクルスはヘクターを毒殺して、ギターと楽曲を盗んだ極悪人。
これだけでも十分酷いが、ましてヘクターはデラクルスとコンビを組んでた友人で、ヘクターが妻と娘に会いに帰ろうとしてたのを知っていた。自分の名声のためなら人の命を何とも思わない上に、遺された妻子がどんなに悲しむかも考えられないような人としての感性が著しく欠落してる恐ろしい男。
コイツのせいで、ヘクターは家族のもとに帰れなくなり、妻や曾孫の世代にまで「家族を捨てた」と誤解されて、祭壇に遺影も飾ってもらえなかったのが本当に悲しくなる。
しかもヘクターの写真を奪って、死者の国からも消滅するのを見殺しにして口封じしようとしたり、真相を知ったミゲルまで殺そうとするから本当に救いようがないクズ。
罪悪感もないから、平然と罪を重ねようとしたり映画のネタにするんでしょう。
罪悪感あったら怖くて多数が見る映画になんか普通は出来ない。
でもこういう他人の命を何とも思わないレベルの、究極の利己主義者が現実にいるから犯罪も絶えないんでしょうね。
チャンスを得るために手段を選ばないとはいえ、人殺しをするほど倫理を失っていいはずがない。
でもそんなクズの悪事は死者の国でも現世でも暴露され、生前の死に方と同じく吊り鐘に潰される末路は本当に自業自得。
3、名曲「リメンバー・ミー」
邦題にもなっている楽曲名「リメンバー・ミー」
これはミゲルの高祖父ヘクターが幼い娘(ミゲルの曾祖母ココ)のために書いた楽曲。
「忘れないで」という意味のこの歌には、幼い娘に自分がどんなに愛してるかを覚えておいてほしい、音楽のために家族の側から離れる事になっても家族の事を想っている事を忘れないでほしい願いが込められている。
それが自分を裏切って殺した友人に盗作され、娘のためだけに作ったのに真の意図も知られずに民衆に広まって歌われるのは本当に悲しい。
でも、娘のココにもう一度会って歌ってあげたい彼の願いは、玄孫であるミゲルに託されて、現世に戻ったミゲルがココに歌ってあげる事で叶えられる。
この事で高齢で認知症もあったココは父であるヘクターを思い出して、ヘクターは二度目の死を免れる事になる。
認知症で家族の顔も分からなくなった人でも何かの拍子にふと思い出したり、昔の事は覚えてたり、人間性の部分は残る事もあるからね。
ココは娘のエレナの事も分からなくなってたのに、最後のそのシーンではちゃんと娘の事が分かっててグッときた。
あと、死者の国でやっと再会したヘクターとイメルダの夫婦。
夫が自分達を捨てたのではなくて、帰りたかったのに殺されてたと知っても「許す事は出来ない。」と言うイメルダの様子に彼女が歩んできた苦労や感情が伺える。
高祖父母の世代だから相当昔に、女手一つで靴職人の事業を起こして幼い娘を育て上げたのは計り知れない苦労があっただろう。(イメルダ自身、若くして亡くなってるようだし。)
彼女自身が夫に会いたかっただろうし、幼い娘に「パパはいつ帰ってくるの?」と聞かれて苦悩してきただろうね。
今までの辛さもあって、真相を知ったところですぐには許せない複雑な感情があるだろうけど、デラクルスをぶん殴って「よくも私の大切な人を殺したわね!?」と言い放ったり、ラストの死者の日では夫婦仲良く現世に来てたり、確かに愛情が感じられるのが微笑ましい。
4、生と死の繋がり
物語の最後で、ミゲルの曾祖母ココも亡くなってるんだけど、妊娠中だったミゲルの母親は無事に出産したようでミゲルに妹が出来てる。
死んでいく命と生まれる命。
死んでしまっても語り継がれる事で存在は遺るし、愛は受け継がれる。
新しい命が生まれて、また次の世代に語り継がれる。この生と死の繋がりが本当に素晴らしい。
家族や友人知人、人だけでなく家族同然のペットも含めて、皆それぞれ誰かを亡くした経験があると思うけど、死んでしまったからそこで終わりではなくて、忘れないで思い出したり存在を保ってあげるのが生きてる人の役目で、供養にもなるのかなと思った。
死者をテーマにした作品だけど、死を全ての終わりとしては描いてないし、先祖とか過去からの現在の自分達への繋がり、未来への繋がりが感じられる名作だった。