「えりぃ~もう今日は家に帰りたくない~泊めてぇ~!」

家には姉がいる。
私の姉は、私とは違ってとても頭がいい。
この高校よりも2ランク上の市外の高校に通っていて、いつもテストの点で馬鹿にされる。
今日のテストがもし見つかったら、

「はっ!あんたこーんな簡単なテストすら解けないのぉ~?ばっかじゃない?」

と言ってくるに違いない。毎回そうなのだ。本当に同じ腹から生まれてきた子なのか、と疑う。

とにかく、姉に馬鹿にされるのは大嫌いだった。いや、馬鹿にされるのが好き、だなんて人もいないと思うけど。
平均点を取っているにも関わらず馬鹿にしてくるのに、こんな、赤点だなんてものを見られた日には…。考えるだけでもむかむかしてくる。
必死でえりぃにしがみついていると、

「はぁ~……しょうがないわねぇ。明日土曜日だし、泊まっていきな」

と言ってくれた。

「うわーい!ありがとぉ~!えりぃ大好き~~!!」
「ええぃ!ぶら下がるな!私はあんたのパパじゃないぞ!!」

飛びつく私のおでこにパシッと手の甲。
相変わらずするどい突っ込みが入る。
いてててて、と私が額を押さえていると、えりぃが静かに口を開いた。

えりぃは中学の頃からとても出来た子だった。
成績もよく、皆からも信頼され、クラスリーダーは常にえりぃだった。吹奏楽部で部長も務めた。
そんなえりぃと私が同じ高校に入れたのは奇跡としか言いようがないくらいだ(先生にも「ダメでもともと、受けてみなさい」と言われた程だった)。

「えりぃ」こと村上恵理と、私、篠田美羽は幼稚園からの幼馴染。
といっても、小学校は別々になってしまって、中学に入って再会を果たした。
が、双方とも幼稚園の記憶が曖昧だった。
中学一年で同じクラスになって一緒に話しているうちに、どうやら幼稚園が同じらしい、ということが発覚した。
それを母親に聞いてみたら、

「あぁー恵理ちゃんね、懐かしいわー。同じ中学だったの?あんたらしょっちゅう先生に向けて水鉄砲打ってて先生泣かせてたのよ~。覚えてない?」

と言われた。
そういえば、やたら仲のよかった子がいたような気がする、と思いだしてきた。
そんなこんなで、私もえりぃも同じ吹奏楽部に入り、私たち二人は中学の時からいつでも一緒、になった。

私たちの家は、高校の運動場を突き抜けた方にある。
いつもなら早く帰りたいという一心で早歩きをする運動場を、ぐうたらと歩いている。
やけに運動場の門が遠く感じる。

辺りはもうすっかり真っ赤に染まっていた。
運動場の隅っこに生えている、少し葉の落ちた木も長い影を落としている。

……そう、運動場。

今、私たちは学校の運動場にいる。
部活をしている人もいない、すっからかんの運動場に、
二人きりでぽつりぽつりと歩いている。

「え~りぃ~……。もぉいやぁ~……」

私はえりぃの腕をぐいぐい引っ張りながら駄々をこねる。

「……えぇい、うるさいなぁ!もっとびしっと歩かんかい!!」

えりぃは私の手を払いのけ、その手で私の腰をびしぃっと叩く。

「ううぅ……痛い……わかりました、えりぃ様……」
「大体ねぇ、そんなことで落ち込まないでよ!」

えりぃの言うとおり、私は落ち込んでいる。それはもう、ひどく落ち込んでいる。
原因は、今日の三時間目に返してもらったWritingのテストの結果だった。
無残にも「14」と赤で書かれている紙切れ。○の付いているところはなく、殆どが先生の『良心的な部分点』で、その「14」は補われていた。
平均点は50点。赤点がそれの半分以下だとしても、救いようのない点数だ。
Writingの担当教師に、この時間まで説教をされていたのだ(しかし、半分は雑談だった)。
親切にも、えりぃは私を待っていてくれた。毎日一緒に帰っているので、彼女にとってもきっと一緒に帰ることが習慣みたいなものなのだろう。

「だってさ……私今まで赤取らないでここまで来たのよー。それをこんなっ!こんな日本で必要のない科目でっ……!」
「あんたねぇ……必要だから習ってるんでしょ……。科学とかは別だけどさ……」

えりぃはすっかり呆れている。
そんなえりぃはきっと平均点なんて軽く超えているだろう。
私がえりぃだったら、私を見てもやっぱり呆れていると思う。